2024年3月の事業承継M&Aマーケット概況 ～DXをキーワードとするM&A〜

　3月の件数は446件で、前年同月比29.3%の増加となった。マーケット別ではIN-INが362件で前年同月比41.4%増、一方、IN-OUTは61件、同1.6%減、また、OUT-IN は23件、同14.8%減だった。同月の事業承継M&A（注1参照）は81件で､前年同月（50件）比62.0%の増加｡月間の件数としては2022年3月の87件に次ぐ2番目の水準となった。この中でDXをキーワードとするM&Aが8件あった。

　企業間電子商取引プラットフォーム運営のインフォマート（東証プライム上場）は、卸企業向けサービス「TANOMU」提供ベンチャーのタノム（東京都）を買収する。代表取締役等5人、ANOBAKAが運営するKVPシード・イノベーション1号投資事業有限責任組合などから株式を取得し、出資比率を3月29日付で13.02%から50.44%に、2025年3月31日付で97%に高める。金額は23億8,600万円。タノムは2010年設立、売上高1億1,600万円。卸と個人飲食店を中心とした受発注のDX化を促進するクラウドサービスを提供している。インフォマートは2021年にタノムと資本業務提携した。外食産業で受発注サービスを確固たるものとする。BtoBプラットフォームを連携させる。

　AI技術を活用したサービスの企画・開発・運用のHEROZ（東証プライム上場）は、Web制作事業・AI事業のティファナ・ドットコム（東京都）を買収する。個人などから7億3,000万円で全株式を取得する。アーンアウトを支払う予定。同社は2000年設立、売上高4億2,300万円、従業員約50人。法人向けAIを用いてDXソリューションの開発・販売事業を行うAI事業、Webサイトの構築や設計を行うWeb制作事業を展開している。駅や商業施設での案内・接客対応DXソリューション「AIさくらさん」を提供している。HEROZは社会やビジネスの現場でのLLM（大規模言語モデル）の実装、活用を加速させる。AIX（AIトランスフォーメーション）を推進する。

　デジタル・マーケティング支援のエフ・コード（東証グロース上場）は、グロースエンジニアリング事業ベンチャーのラグナロク（東京都）を買収する。代表取締役から4億2,500万円で全株式を取得する。同社は2018年設立、売上高1億7,400万円、従業員32人。起業やリードエンジニアとしての経験を有するエンジニア集団による新規事業開発や開発チーム内製化支援サービスを提供している。事業とエンジニアリング双方の知見を武器に、継続型の業務支援実績を積み重ねている。エフ・コードはDX推進とCX SaaSの機能開発強化を推進するための体制を構築する。収益性の向上や競争力の強化を図る。

　DXの他、AIをキーワードとするM&Aも7件（DXをキーワードとするM&Aと重複するケースを含む）公表されている。イノベーションの進展に伴いDX等に関わる開発力を強化しようとする動きが、M&A増加の一因になっている様子が窺える。

（注1）M&A件数は、株式会社レコフデータがニュース・リリース等公表資料などから集計しているデータによる
       IN-IN：日本企業同士のM&A
       IN-OUT：日本企業が当事者1（買い手）、外国企業が当事者2（売り手）となるM&A
       OUT-IN：外国企業が当事者1（買い手）、日本企業が当事者2（売り手）となるM&A

ここでは公開情報から収集した「売り手の経営者や個人株主が株式の大半あるいは一定規模を売却した案件（オーナー系企業売却案件）」を事業承継M&Aと定義。
ただ、事業承継M&Aは捕捉不可能な未上場企業同士の非公開案件が多く、実際の件数はこの数倍と言われている。
公表ベースでデータを収集しており、未完了案件を含む。