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企業価値評価
M&Aを行うにあたって重要な要素となるのが、「のれん」と呼ばれる売り手企業が持つブランド力や技術力などの無形資産です。また、M&Aでは売り手企業が純資産額よりも低い金額で買収された場合に「負ののれん」も発生します。
この記事では、
などについて解説しています。事例も交えて、のれん代の概要から具体的な算出方法、「負ののれん」の概要まで、のれんがM&Aにどのような影響を及ぼすのかが分かります。M&Aを検討されていて、のれんについて詳しく理解したいとお考えの企業経営者の方は、ぜひご一読ください。
M&A関連のニュースでよく耳にする「のれん」とは、企業が培ってきた信用力やネームバリュー、社員の技術や顧客との関係性を指す言葉です。店先に掲げる「暖簾」が由来で、そこから転じて、形にできない・目に見えない財産を定義するのが「のれん」だと考えると良いでしょう。多くの企業は、ブランド力やスキル、顧客との関係性といった無形財産に支えられています。
M&Aにおいては、売り手企業の純資産額と実際の買収価格の間に生じる差額を「のれん代」と呼ばれます。M&Aでは売り手企業が持つ純資産のほか、無形資産も評価されます。
売り手企業からみれば、のれん代(無形資産)が多くつくということはそれだけ高く会社や事業を売却できるということです。買い手企業からみても、のれんを通して売り手企業のブランド力や技術力を自社へ取り込めることは長い目でみると大きなメリットとなります。そう考えると、のれん代は売り手企業に対する期待値ともいえるのです。
知的財産や技術など、多くの無形財産に支えられる企業は少なくありません。巨額なのれんがついた事例としてあげられるのが、ソフトバンクとアーム・ホールディングスのM&A案件です。
これはソフトバンクがイギリスに本社を置く電気機器企業「アーム・ホールディングス」を買収した事例で、アーム・ホールディングス社の自己資金は2,500万円でした。しかし最終的には3兆円もの価格で買収され、3兆500億円もののれん代がついたことになるのです。のれん代の相場は売却額の2~3割だといわれていますので、アーム・ホールディングスにいかに高額なのれん代がついたかがわかります。
アーム・ホールディングは、世界各国の携帯機器・端末機器に採用されているシステム「アームアーキテクチャ」というシステムの開発元です。ソフトバンクはこのライセンスや技術力を高く買い、巨額ののれん代を上乗せしてアーム・ホールディングスを買収したとみられます。
M&Aでは、「負ののれん」という用語を耳にする機会があります。通常ののれんが「売り手企業につく無形財産、それによってつくプレミアの価値」なら、負ののれんは簿外債務など「売り手企業につくマイナス要因」だと考えると良いでしょう。
負ののれんは、売り手企業が純資産額よりも低い金額で買収された場合に発生するものです。一般的なM&Aでは、会社の純資産額に無形資産である「正ののれん」が加算されます。そのため通常は純資産額よりも高い金額で買収されますが、まれに純資産額よりも低い金額で売り手企業が買収されるケースがあるのです。この場合、売り手企業に何らかのマイナス要因があったため、のれんによるプレミアがつかず、結果として純資産額よりも低い金額で買収されたと考えられます。純資産額と買収額の間に生じたマイナスの差額は、「負ののれん代」とも呼ばれます。
負ののれんが発生する要因は様々ですが、主な発生パターンとしては以下の2パターンが挙げられます。
簿外債務とは、貸借対照表にない債務をまとめて指す言葉です。しかし、簿外債務があること自体はそこまでめずらしいケースではありません。債務保証や未払いの給与または退職金等も、簿外債務として扱われます。これらの簿外債務が高額であれば、それだけ負ののれんも高くつくと考えると良いでしょう。
売り手企業が社会的に負のイメージを抱えているケースや、損害賠償の請求リスクを抱えているケースも考えられます。特に後者の場合は、M&A成立後に損害賠償が確定すると、買い手企業がその賠償責任を負うことになるため要注意です。賠償責任が大きければ大きいほど、負ののれんが発生しやすくなります。
のれん代は、「売買価格-売り手企業の時価評価純資産額」で算出されます。例えば時価次評価純資産が9,000万円の企業に1億円の売買価格がついたとすると、計算式は「1億円-9,000万円=1,000万円」となり、のれん代は1,000万円ということが分かります。
ちなみに、この算出方法で必要となる売買価格は「コストアプローチ」「インカム・アプローチ」「マーケット・アプローチ」という3パターンの方法で算出できます。以下で、各方法の概要を簡単にまとめました。
コストアプローチとは、企業が持つ資産・負債などの「純資産額」をベースに売買価格を算出する方法です。ベースとなるのが純資産であるため、ある程度客観的な評価を下せます。中小企業のM&Aでは、このコストアプローチが採用されるケースが多くみられます。
インカム・アプローチとは、将来的に得られると予想される収益をもとに売買価格を算出する方法です。「将来的に期待できる経済力、稼ぐ力」が基準になると考えると良いでしょう。インカム・アプローチは、企業価値を算出する方法のなかでも非常にポピュラーな方法だといえます。企業の価値は現時点の純資産額だけでなく、将来性を加味したうえで算出するほうが合理的であると考えられているからです。
インカム・アプローチのなかでも、最もポピュラーな方法が「DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー)」と呼ばれる手法です。この方法では、フリーキャッシュフローを予測したうえで売買価格を算出します。フリーキャッシュフローとは、企業活動によって得たお金のなかから各支出を差し引いたもののことで、簡単にいうと、会社が本当の意味でフリーに使えるお金を指します。このフリーキャッシュフローを出したうえで、手順に沿って企業価値を算出していきます。
マーケット・アプローチとは、類似する他社の財務状況や実際の買収事例、市場価格をもとに企業価値を算出する方法です。「マルチプル法」や「類似企業比較法」とも呼ばれています。類似会社との比較をもとに算出する方法は「類似会社比較法」、過去の買収事例や市場価値をもとに算出する方法は「市場株価法」と呼び分けされます。
おおよそののれん代は、企業の売買価格から時価評価純資産額を差し引くことで算出できます。しかし、これはあくまで目安となる金額を出す方法です。のれん代は複数の要素や複雑な条件が絡むことで変動するため、計算式のみで正確な金額を算出することは難しいといえます。
特に、買い手の主観や希望でのれん代が高く上乗せされるケースは少なくありません。のれんは売り手企業が培ってきた無形資産の集大成であるため、M&A以外ではなかなか入手できないものです。「多少高くなっても、〇〇社の技術を買いたい」、「自社に足りないノウハウを購入したい」と買い手が強く望めば、赤字経営の企業・事業であっても高額なのれん代がつくのです。一例としてあげられるのが、横浜DeNAベイスターズの事例です。
横浜ベイスターズがIT企業であるDeNAに買収されたのは2012年のこと。赤字経営が続いていた横浜ベイスターズでしたが、買収価格は65億円、のれん代は59億円にのぼりました。買い手企業であるDeNAが、横浜ベイスターズののれんを高く評価したことが分かります。
事実、横浜ベイスターズを買収できれば「プロ野球チームを所持する企業」というステータスを持てます。加えて所持野球チームによる宣伝効果、12しかない球団の1つが売却へ踏み切ったという希少性をDeNAが高く評価したことが考えられるのです。こうした事例からも分かるとおり、のれん代は買い手の主観や考え方にも大きく左右されます。不採算事業や赤字経営の企業であっても、一概にのれん代が低くなるとは言い切れません。
M&Aを円滑に進めるためには、さまざまな専門知識が必要です。
買い手・売り手企業のマッチングをはじめ、のれんの捉え方や
デューデリジェンス(買い手が売り手に対して行なう調査)の進め方など、
プロのサポート無しで進行させることは難しいでしょう。
そんな時は、M&A助言会社にサポートを依頼することが大切です。
株式会社レコフは、国内でも老舗のM&A助言会社です。
大小様々なM&A案件に携わり、
接触した企業は20,000社以上を超えます。
中小企業の事業承継M&A案件から、
上場企業の業界再編M&A案件などに携わった経験も強みです。
買い手企業・売り手企業のマッチングでは、
これまで培ってきた企業との太いネットワークを活用しております。
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その時々のニーズや業界動向を鑑みながら、
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監修者プロフィール
株式会社レコフ リサーチ部 部長
澤田 英之(さわだ ひでゆき)
金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。
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