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業界別M&A
地盤調査・地盤改良業界は、建設業界に欠かせない重要な事業を行っている業界です。しかし、近年では市場環境が大きく変化していることもあり、将来的なM&Aを検討する方や実際にM&Aを行った方も少なくありません。
今回は、地盤調査・地盤改良業界の概要や近年の市場動向・M&A動向について詳しく解説します。地盤調査・地盤改良業界のM&Aにおける売り手側・買い手側の双方のメリットやM&Aのポイントも併せて確認し、M&Aを成功に導きましょう。
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事業承継・譲渡売却は
地盤調査・地盤改良業界は、「地盤調査」や「地盤改良」を行う企業の集まりであり、いずれも頑丈で安心できる建築物・建造物を作るのに欠かせない業界と言えます。
地盤の調査や計測、施工・管理に必要な情報の提供、地盤の改良・補強などを行っており、建設業界の一種として分類されることを押さえておきましょう。
ここでは、地盤調査や地盤改良の概要とともに、それぞれの主な調査技法・改良工法について解説します。地盤調査・地盤改良業界の事業内容を改めて確認し、業界への理解を深めましょう。
地盤調査とは、建設前の実施が法律で義務付けられている調査であり、その地盤がどのような状態であるか調査・計測することを指します。
地盤調査を行う企業は、地質構造や基礎地盤、土・岩の工学的性質などの観点から解析・判定し、設計や施工・管理に必要な情報を提供しています。
地盤調査の主な技法には、次の3種類があります。
【地盤調査の主な方法】
●ボーリング調査
地盤に孔を開け、貫入する深さから地盤の強度「N値」を算出したり、貫入時に採取したサンプルから地盤の性質・特徴などを分析したりする手法です。固い地盤の調査や深度10m以上の地質調査、液状化判定なども可能であるため、マンションなど中~大規模な建築物を建てる際に実施されるケースが多いと言われています。
●スクリューウエイト貫入試験(SWS試験)
一般的な戸建て住宅の地盤調査方法として最も広く活用されている手法です。地盤に鉄の棒(ロッド)を垂直に貫入させ、その沈み具合によって地盤の状態や硬度を調べます。
スクリューウエイト貫入試験はボーリング調査のように大掛かりな測定にならないため、調査期間が短く費用も安価で済みます。一方で「地質サンプルを採取できない」「固い地層に達すると貫入できない」などの注意点もあることに留意しましょう。
●表面波探査法
地面に人工的な振動を与えて、その揺れ(表面波)が伝わる速さから地盤の固さを評価する調査方法を指します。地層の境界や硬さ、傾斜、厚さなどを詳細に調べられるため、地盤の状態をより正確に判定できる方法であると言えるでしょう。
地盤調査会社は、上記のような地盤調査やその地域の地盤データなどから総合的に判断し、地盤に関する情報をまとめて施工業者などに提供します。また、必要に応じて地盤改良の提案も行います。
地盤改良とは、地盤調査の結果、建築物や建造物を作る土地の地盤が弱いと判断された場合に行う地盤補強工事を指します。建築物・建造物が倒壊するリスクを低減するため、基礎となる地盤を適切な状態に整える工事と言えるでしょう。
地盤改良の代表的な工法には、次の3つの手法が挙げられます。
【地盤改良の主な方法】
●表層改良工法
セメントを使用して地表の周辺を固める改良工事であり、地盤の硬さが不十分な部分が地表から2m程度の浅い場合に用いられる改良工法です。地面表層にある地盤の軟弱な部分を取り除き、セメント系固化材を土に混ぜて固めることで、地盤強度の向上を図ります。
●柱状改良工法
軟弱な地盤の深さが2~8mほどである場合に用いられる工法であり、建物を建てる範囲にセメントの柱(改良杭)を設けることで地盤の強化を図る方法です。直径約60cmの穴を地中に開けて良好な地盤まで掘り、その過程でセメントと土を混ぜて撹拌し、円柱状の固い地盤を作ります。土質によっては施工できない場合があることに注意しましょう。
●鋼管杭工法
地中の支持地盤まで鋼管を建て込み、建築物・建造物を持ち上げるようにして安定させる工法です。深さ30mまでの地盤補強に対応しており、工事にかかる期間が短く、限られたスペースでも工事ができるというメリットもあります。地震の際の揺れも軽減できる改良方法です。
地盤改良会社は、地盤調査の結果や土地の特徴などをふまえた上で地盤改良工事を行います。ケースに応じた適切な地盤改良工事ができるよう、施主に対する施工前の説明や安全な工事の実行、施工後の処理などを十分に行うことが求められるでしょう。

地盤調査・地盤改良業界の事業量は、1995年にピークを迎えてから2005年にかけて約6割減少し、近年は1,000~1,200億円前後で横ばい、もしくは微減の状態が続いています。現在の地盤調査・地盤改良業界を取り巻く環境からも、今後の地盤調査・地盤改良業界の市場はますます縮小の一途をたどると考えられるでしょう。
ここでは、地盤調査・地盤改良業界の市場規模が縮小していくと考えられる具体的な理由や市場動向について解説します。地盤調査・地盤改良業界でのM&Aを成功させるためにも、業界を取り巻く環境をしっかりと理解しておきましょう。
(出典:全国地質調査業協会連合会「新たな時代の地質調査業発展ビジョン ~ 2020年代を駆け抜けるための地質調査業の羅針盤 ~」/
https://www.zenchiren.or.jp/geocenter/vision/vision.pdf)
地盤調査や地盤改良工事は、主に建物を新しく建てる際に実施されるものです。新設住宅を建てる際には必ず地盤調査が行われ、必要に応じて地盤改良工事が行われることになるでしょう。
しかし、近年では下記のような理由から新設住宅着工戸数が減少傾向にあり、これに連動して地盤調査や地盤改良工事の需要も減少傾向にあると言われています。
【新設住宅着工戸数が減少傾向にある主な理由】
これらの課題はすぐに解消できるものではありません。したがって、今後も新設住宅着工戸数が急速かつ大幅に増える可能性は低いと考えられます。
(出典:国土交通省「建築着工統計調査報告 令和6年計」/
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000040246999&fileKind=2)
現在、どの業界においても少子高齢化や人口減少による人手不足が問題となっていますが、地盤調査・地盤改良業界も例外ではありません。新卒社員や新規入職者・転職者の確保が難しい状況が続いており、外国人技能実習生制度も適用されないため、慢性的な人手不足に陥っています。
また、技術者の高齢化も課題の1つです。例えば、ボーリング技術者の年齢分布は、機長・助手ともに40歳代がピークとなっていますが、機長は50歳以上が全体の半数以上を占めています。若い世代の定着率が低いこともあり、将来的には経験を重ねた機長(主任地質調査員)が不足することも考えられるでしょう。
(出典:全国地質調査業協会連合会「新たな時代の地質調査業発展ビジョン ~ 2020年代を駆け抜けるための地質調査業の羅針盤 ~」/
https://www.zenchiren.or.jp/geocenter/vision/vision.pdf)
日本では少子高齢化が近年急速に進んでおり、人口構造の変化や人口の減少による住宅需要の低下が予測されています。新設の住宅や公共施設などのニーズが減少すれば、地盤調査・地盤改良業界の需要も低くなると考えられるでしょう。
また、地方から都市部への人口流出により、都市部ではマンション需要が増加し、地方では戸建住宅需要が減少するなど、建設業界のニーズに地域格差が生じている現状もあります。都市部では顧客獲得競争が激化する一方、地方では過疎化による市場縮小で案件獲得が困難になっている状況が続いています。
(出典:国土交通省「建設工事受注動態統計調査報告」/
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/kakuho2410.pdf)
(出典:総務省「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果」/
https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2023/pdf/kihon_gaiyou.pdf)
地盤調査・地盤改良業界を含む建設業界においては、元請け企業から調査・工事を請け負うケースが多く見られます。中には、1つの調査や工事で下請け企業が複数存在する「多重下請構造」となっていることも珍しくありません。
多重下請構造には、下位の下請け企業が受け取れる利益が減少することに加えて、施工管理や安全管理が複雑になり安全性の確保が難しくなるという問題があります。閑散期に備えて正社員を雇用せず、非正規社員で補おうとする企業も多くあります。

地盤調査・地盤改良業界のM&Aは活性化しているとまでは言えませんが、年々増加しつつあると言われています。ここでは、地盤調査・地盤改良業界の主なM&Aケースを確認し、現在の業界におけるM&Aの動向をチェックしましょう。
小~中規模の地盤調査・地盤改良会社の場合、事業が軌道に乗っており経営が黒字であるにもかかわらず、後継者がいないため事業承継に悩む事例も少なくありません。
同業者同士のM&Aは、この後継者問題を解決する方法の1つとして採用されるケースも多く見られます。M&Aを行うことで、廃業を回避し、従業員の雇用や取引先との関係も守れるでしょう。
また、近年では経営基盤の強化を目的とするM&Aも増えていると言われています。小~中規模の同業者同士のM&Aでは、買収・売却よりも合併のほうがより多く見られます。
異業種・隣接業種によるM&Aは、主に事業領域の拡大を目的として行われます。例えば、基礎工事会社による買収であれば、地盤調査・地盤改良から施工までの一貫対応が可能となり、更なる利益の確保や付加価値の創出に繋がるでしょう。
また、ハウスメーカーや工務店による買収の場合、自社で地盤調査・地盤改良を実施することで、依頼費用の削減やコスト競争力の強化が実現すると考えられます。自社だけでなく、顧客にも大きなメリットを提供できるでしょう。
都市部の大規模業者が地方の小~中規模業者をM&Aによって買収し、商圏を都市部から地方へと広げるケースも多く見られます。
地方への参入をゼロから始めるよりも、すでに地域にある業者を買収するほうが、事業拡大に向けたコストや手間がかかりません。必要な資源が整った状態で地方での事業を始められるでしょう。
また、地方の競合他社を自社に取り込みながら事業領域を拡大できるため、価格競争を避けながら自社のビジネスを成長させることも可能です。業界の持続性を維持できるでしょう。

地盤調査・地盤改良業界で増加傾向にあるM&Aですが、「譲渡(売り手)側」と「譲受(買い手)側」の両方にメリットがある場合がほとんどです。
ここでは、地盤調査・地盤改良業界でのM&Aによる譲渡(売り手)側の主なメリットを3つ紹介します。
M&Aによって自社を売却した場合、譲渡企業側(売却側)は自社が持つ経営資源だけでなく、譲受企業側(買収側)が持つ経営資源も共有することができます。
譲受企業側が持つノウハウや営業資源を利用した売上アップ、企業規模を生かしたコストダウンなど、譲受企業との相乗効果により、さらなる成長や発展を目指せるでしょう。
特に小~中規模の事業者では、事業が軌道に乗っており黒字経営であるにも関わらず、後継者がいないことで廃業を検討せざるを得ないケースも少なくありません。
しかし、M&Aを行えば、後継者がいない場合でもスムーズに事業承継を行えるため、従業員の雇用や取引先との関係を守ることが可能です。廃業にかかるコストも必要なく、創業者利益(売却益)を獲得してハッピーリタイアを実現できるでしょう。
小規模事業者・中規模事業者においては、経営者自身やその親族が金融機関借入の連帯保証人になっていたり、個人の資産を担保にしていたりするケースも多く見られます。事業が軌道に乗っている場合でも、重いプレッシャーを常に感じている経営者は少なくありません。
M&Aが成立して経営権が譲受企業側(買収側)に移ると、後継者問題が解消して連帯保証や担保の提供も解除されます。重責から解放されながら、スムーズに経営から退くことができるでしょう。

地盤調査・地盤改良業界におけるM&Aでは、譲渡(売り手)側の企業だけでなく、譲受(買い手)側の企業にも複数のメリットがあります。
次に、M&Aによって会社を買収した側の企業が得られる主なメリットについて3つ解説します。
建設業界は人手不足が慢性化しており、地盤調査・地盤改良業界においては特に専門の知識やスキルを持つ人材は高いニーズがあります。M&Aを行うことで、譲渡企業側が保有していた優秀かつ即戦力となる人材をスムーズに獲得できるでしょう。
また、譲渡企業側が持つ顧客情報・取引先情報などの資産を承継できれば、M&Aを行った直後から案件を安定して確保することが可能です。人材と案件の両方をまとめて獲得できることは、譲受企業側の大きなメリットと言えるでしょう。
M&Aにより、譲受企業は譲渡企業側が持つ事業用資産や不動産といった有形資産だけでなく、技術やノウハウ、取引先、従業員といった無形資産も取り込むことが可能です。様々な資産を手に入れられるため、自社の事業規模の拡大をスムーズに進められるでしょう。
また、譲渡企業側の強みを自社に吸収することで、業界内での優位性や存在感を向上させることもできます。他社との競争を勝ち抜きやすくなるため、さらなる成長やシェアの向上を実現できるでしょう。
新規事業への参入にかかるコストや手間を大幅に削減できることも、譲受企業側がM&Aによって得られる最大のメリットの1つです。
地盤調査・地盤改良業界を含む建設業界は、地域の工事や雇用を担うという特性があるため、新しい地域で営業基盤を構築することは容易ではありません。
一方、M&Aを行えば、譲渡企業側の営業基盤をほぼそのまま引き継ぐことが可能です。異業種・隣接業種の場合はもちろん、同業同士のM&Aの場合でも新規参入のハードルを大きく下げられるでしょう。

地盤調査・地盤改良業界でのM&Aには、譲渡側・譲受側の両方に複数のメリットがあります。成功させるためのポイントを押さえた上で、自社に合ったM&A先の選定を行いましょう。
【地盤調査・地盤改良業界においてM&Aを成功させるためのポイント】
●シナジー効果が期待できる買収先・売却先を探す
M&Aでは、複数の企業が1つに統合された際に、従来通りに別々に事業を行った場合よりも大きな結果が得られることが重要です。買収側は事業の内容や規模、リスクなどを総合的に判断して大きな効果が期待できる買収先を探すと良いでしょう。売却側は効果を期待してもらえるデータや計画の準備が必要になります。
●自社の強みや弱みを分析しアピールする
自社をなるべく高く売却するには、強みを明確にして買収側に的確に伝えることが大切です。人材の優秀さや地域における知名度、受注実績などを、客観的なデータに基づいてアピールしましょう。また、買収側は自社の強みの強化・弱みの補強ができる買収先を見つけることが重要です。自社の成長につながる、価値の高い買収先を選定しましょう。
●M&Aに詳しい専門家に相談する
M&Aを成功させるためには、買収側・売却側ともにM&Aに詳しい専門家に相談することが大切です。事前相談からM&A先の選定や各種の交渉など総合的にサポートしてもらえるため、M&Aをスムーズに進められるでしょう。
地盤調査・地盤改良業界を含む建設業界のM&Aでは、行政への届出や許認可申請も必要となります。建設業界のM&Aに精通したM&Aアドバイザーに依頼し、地盤調査・地盤改良業界でのM&Aを成功に導きましょう。
地盤調査や地盤改良工事は新たな建築物・建造物を建設する際に欠かせない工程であるものの、さまざまな理由から近年では市場が縮小傾向にあります。後継者問題や人材不足の改善を図り、経営基盤をさらに固めて業界内の競争を生き抜くためにも、M&Aは有力な手段として経営の選択肢に含まれることになるでしょう。
地盤調査・地盤改良業界でのM&Aには、譲渡側・譲受側の双方にメリットがあります。満足のいくM&Aを行うためにも、M&Aに詳しい専門家に相談するなどのポイントをしっかり押さえ、十分に検討した上で実行に移しましょう。
監修者プロフィール

株式会社レコフ リサーチ部 部長
澤田 英之(さわだ ひでゆき)
金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。
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