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業界別M&A
教育業界では、少子化やさまざまな背景によりM&Aを検討する経営者が増加しています。同業同士のM&Aもあれば、異業種とのM&Aに成功したケースも多く見られます。
新たな領域の展開や事業規模の拡大を目指している人や現在の経営に課題を抱えている人は、M&Aを検討してみましょう。
今回は、教育業界における市場動向とM&A動向、M&Aによるメリットについて解説します。教育業界におけるM&Aの事例も紹介するため、ぜひ参考にしてください。
教育業界は、学びに関するサービスを提供する事業の総称です。学校教育機関や学習塾、研修を実施する企業など事業のジャンルは多岐にわたります。
教育業界は、「学校教育機関」「その他の教育・学習支援業」の2つに分けられます。
総務省がまとめた教育業界に分類される主な事業は、下記の通りです。
学校教育機関 |
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その他の教育・学習支援業 |
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(出典:総務省「日本標準産業分類 大分類O-教育、学習支援業」https://www.soumu.go.jp/main_content/000889598.pdf )
学校教育機関では、所定の学科課程の教授や学校教育の支援を行います。一方、その他の教育・学習支援業は、学校教育の補習教育や技能・技術の教授が主な目的です。
教育業界は、幼稚園から大学までの若年層向けの事業と社会人向けの事業に分類されています。社会人向けの事業や民間企業が営業する教育施設の多くは、その他の教育・学習支援業に分類されます。
今後の教育業界で懸念されているのが、少子化や人口減少による市場縮小です。教育業界で事業を続けるには、市場動向を正しく理解して今後どのような経営をすべきか考えることが大切です。
ここからは、教育業界における市場動向を項目ごとに詳しく解説します。
少子化が続く日本では、学校教育機関を利用する児童や生徒数の減少が続いています。
主な学校教育機関の2023年から2024年にかけての在学者数の変化は、下記の通りです。
学校教育機関 | 在学者数の変化 |
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幼稚園 | 8万4,000人減少 |
幼保連携型認定こども園 | 1万9,000人増加(過去最多) |
小学校 | 10万8,000人減少(過去最少) |
中学校 | 3万6,000人減少(過去最少) |
高等学校 | 1万2,000人減少 |
特別支援学校 | 3,800人増加(過去最多) |
大学 | 4,400人増加(過去最多) |
(出典:文部科学省「令和6年度学校基本調査の公表について」https://www.mext.go.jp/content/20240821-mxt_chousa01-000037551_001.pdf )
幼保連携型認定こども園に移行する幼稚園が増えていることもあり、幼稚園の在園児数は大幅に減少しています。そして小学校や中学校、高等学校では、児童・生徒数の減少に伴い統廃合を迫られる学校が増えています。
教育業界では、今後さらなる市場縮小が続くと予測されているため、各経営者は対策が必要です。特に民間企業が運営する学習塾や予備校では、売上の維持・向上のためにもあらゆる対策を講じなければなりません。
少子化により学校教育機関の児童・生徒数が減少する一方で、学習塾の市場規模は拡大傾向にあります。
2021年度から2024年度(6月時点)までの学習塾の売上推移は、下記の通りです。
学習塾の売上高推移 | |
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2021年度 | 約5,517億円 |
2022年度 | 約5,568億円 |
2023年度 | 約5,813億円 |
2024年度(1月~6月) | 約2,766億円 |
(出典:経済産業省「調査の結果」https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/tokusabido/result-2.html )
学習塾の売上は、右肩上がりの状況が続いています。
学習塾の市場規模が拡大傾向にある主な理由は、下記の通りです。
学習塾は、オンライン教育の導入が進んでいます。子ども1人あたりにかける教育費が増えたこともあり、利便性が高く手厚いサポートが受けられる民間企業が運営する学習塾を利用する家庭も増えています。
また、学習塾に通う子どもの低年齢化も学習塾の需要が高まっている理由の1つです。
教育業界では、慢性的な人手不足に陥っています。
学校の教師や学習塾の講師などの働き方は、労働集約型に分類されます。人間の労働力が求められる割合が大きく、経費の多くを人件費が占めることが特徴です。
教師や講師の仕事は、日々の授業だけでなく、教材の作成や保護者への対応などさまざまです。仕事量の多さから残業による負担の大きさも度々問題視されています。加えて、給与水準は比較的低く、離職率も高いことから、常に人材不足が続いています。
教育業界のM&Aは、同業同士はもちろん異業種との相性も抜群です。売上の維持・向上、抱えている課題の解決など、業界内で生き残るためにM&Aを検討するケースが増加しています。 ここからは、教育業界におけるM&Aの動向について解説します。
教育業界のM&Aで最も活発なのが、市場規模が拡大傾向にある学習塾です。
M&Aは事業規模に関わらず実行できるため、大手学習塾だけでなく小規模な学習塾のM&Aも可能です。M&Aで注目されるのは、人材や学習指導のノウハウだけではありません。オンライン学習やアプリ開発に関するノウハウを求める学習塾や企業も多く、好条件でM&Aを実現できるケースが多く見られます。
人材不足や人件費の上昇に悩む学習塾、コストを抑えつつ事業拡大を目指したい学習塾などにとって、M&Aは今後の経営を成長させるきっかけの1つです。
教育業界のM&Aでは、IT業界の買収も盛んに行われています。
IT企業は異業種ではあるものの、学習アプリの開発や新たな領域の展開を目指す学習塾にとって、IT企業が持つノウハウは貴重な経営資源です。
また、業務のDX化の実現のためにIT企業とのM&Aを検討するケースも多く見られます。既存の設備や人材を活かすことで、DX化にかかるコストの削減や効率化などが期待できます。
同業同士のM&Aは、事業規模拡大を狙う戦略の1つです。経営が安定していて経営資源が豊富な企業ほど、M&A先の選択肢は広がります。
同業同士のM&Aの魅力は、次の通りです。
同業であればベースとなる事業内容が同じであるため、M&Aで得たノウハウを無駄なく活用できます。また、エリア拡大により新規顧客の獲得も目指せるでしょう。
教育業界や学習塾業界でM&Aを行う場合、譲渡(売り手)側にはさまざまなメリットがあります。事業譲渡を検討している経営者は、どのようなメリットがあるのかチェックしておきましょう。
ここでは、教育業界・学習塾業界のM&Aによる譲渡(売り手)側のメリットを4つ解説します。
教育業界や学習塾業界では、後継者問題に悩む経営者が少なくありません。後継者問題の解決には、新たな領域の展開や事業拡大を目指す事業者とのM&Aを検討しましょう。
M&Aにより、生徒や保護者に迷惑をかけることなく事業を継続できます。経営者が高齢の場合、いずれ経営をリタイヤすることになります。経営資源が十分あり需要が高いタイミングで事業を譲渡できれば、周囲に迷惑をかける心配もありません。
また、経営者は創業者利益の獲得が期待できます。株式譲渡によるM&Aを選択した場合、経営状況によっては大きな利益につながる可能性もあります。創業者利益を得るには、経営状況をできるだけ整えておき、ベストなタイミングで株式譲渡をすることがポイントです。
後継者問題などが原因で廃業することになった場合、現在働いている従業員の雇用の場がなくなります。しかし、M&Aが決まれば講師やスタッフは相手企業に引き継がれるため、従業員の雇用の場を守ることができます。
株式譲渡によるM&Aの場合は、雇用契約の内容や給与面、待遇などが変更となることはありません。一方、事業譲渡は従業員の同意のもと新たに雇用契約が見直されます。
ただし、売り手企業の従業員は、経営方針の違いや新たな人間関係の構築などさまざまな不安を抱えやすいため注意が必要です。従業員が安心して新しい経営者のもとで活躍できるように、丁寧な説明が求められます。
教育業界や学習塾業界では、業務のデジタル化が課題の1つになっています。デジタル化にはコストや手間がかかるため、なかなか実現できずにいる経営者も少なくありません。
DX化が進んでいる企業とM&Aをすることは、業務の円滑なデジタル化を進めるチャンスです。授業の進め方だけでなく指導報告書の作成や成績管理などのバックオフィス業務をデジタル化できれば、DX化の実現も目指しやすくなります。
また、入退室管理や保護者へのプッシュ通知など質の高いサービスを提供できるようになります。従業員の負担を軽減しつつ顧客満足度を高められることは、売り手企業にとって大きなメリットです。
M&Aの相手企業が大手の場合、傘下に入ることで教育レベルの向上や経営の安定化が見込めます。
大手の学習塾は、資金や顧客データなどの経営資源が豊富です。大手の傘下に入ることで得られる経営資源の具体例は、下記の通りです。
大手が持つデータや使っている教材・培ったノウハウを活用することで、生徒に対してさらに質の高いサービスを提供できます。また、大手のブランド力は、今後の集客にプラスの影響が期待できるでしょう。
実際に、M&Aにより企業成長につながったケースも多く見られます。
市場縮小が予測される教育業界や学習塾業界では、変化に耐えるだけの経営資源が必要です。資金面で不安を抱えている場合は、大手とのM&Aにより売上の維持・向上を目指しましょう。
教育業界や学習塾業界のM&Aでメリットがあるのは、売り手企業である譲渡側だけではありません。買い手企業となる譲受側にとってもさまざまなメリットがあります。
そこでまずは、教育業界・学習塾業界のM&Aによる譲受側のメリットを4つ解説します。
新規事業開発で成功する可能性は、決して高くありません。比較的低リスクで教育業界に参入するには、教育業界や学習塾業界のM&Aが適しています。
新規事業で失敗する原因は、ノウハウ不足・資金不足・顧客ニーズの理解不足などさまざまです。経営を軌道に乗せるには、集客への取り組みや知名度アップなどこなさなければならない課題が数多くあります。
一方、すでに顧客基盤が整っていて経営の道筋が立っている事業を買収できれば、新規参入にかかるコストやリスクを抑えられます。教育業界・学習塾業界に参入して短期間で結果を出したい場合は、M&Aが効果的です。
M&Aにより相手企業から従業員を引き継ぐことができれば、人手不足の解消が期待できます。労働集約型の職種は人材が集まりにくく、大学生のアルバイトなしでは業務が回らなくなっているケースもあります。
教育業界や学習塾業界で働く講師やスタッフには、出題傾向の把握や成績アップにつながる指導など豊富な知識と経験が必要です。しかし、講師やスタッフを一から育成するにはコストと時間がかかります。
M&Aを選択することで、現役で働く人材を獲得できるためコストを抑えつつ効率良く経営を続けられます。人材の質が安定していることもメリットです。
新たなエリアへの進出を成功させるには、同業同士のM&Aが近道です。
特に学習塾は得意とするエリアが決まっていることが多いため、M&Aにより効率良くエリアを拡大できます。少子化により生徒数の減少が予測される中、顧客の囲い込みは重要な戦略の1つです。
また、オンライン指導やAIを活用した学習システムなど、新たな業態での事業展開も目指しやすくなるでしょう。最新のシステムや効果の高い指導方法を取り入れることで、他の教育系企業や学習塾との差別化にもつながります。
受験の出題傾向や内申点の決め方は、地域によって異なります。新たなエリアへの事業展開では、地域に合った指導ができるかどうかがポイントです。
教育業界・学習塾業界のM&Aが成功すると、地域特有のノウハウが手に入ります。ノウハウを持つ講師も獲得できるため、事業展開後の経営をスムーズに進められるでしょう。
学習塾選びでは、通いやすさや授業形態だけでなく評判が重視される傾向にあります。講師の指導力は評判に影響するため、優秀な講師の存在は大きな強みです。特に個別指導型の学習塾では、講師の質が経営を左右します。
教育業界のM&Aは、成功すれば譲渡側・譲受側の双方が大きなメリットを得られます。教育業界のM&Aを成功させるには、実際に行われたM&Aの事例を参考にすると良いでしょう。
ここからは、教育業界の大手企業によるM&A事例を3つ紹介し、目的と結果を詳しく解説します。
ベネッセホールディングスは、2020年2月にUdemy, Inc.と資本提携しました。
M&Aの詳細は、下記の通りです。
譲渡(売り手)側 | Udemy, Inc. |
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譲受(買い手)側 | ベネッセホールディングス |
M&Aの目的 | 新たな領域への展開 |
M&Aのスキーム | 資本提携 |
ベネッセホールディングスは、通信教育や学習塾などを展開する大手教育企業です。社会人向けの新規事業開発を目指し、オンライン教育サービスの実績があるUdemy, Inc.とのM&Aを行いました。
結果として、日本市場におけるUdemy, Inc.との共同運営の権利は、ベネッセホールディングスが独占する形となりました。M&A後は、キャリア支援事業の開発に取り組んでいます。
株式会社ナガセは、2014年12月に株式会社サマデイの一部事業を新設分割し、新設会社の株式譲渡を受けました。
M&Aの詳細は、下記の通りです。
譲渡(売り手)側 | 株式会社サマデイ |
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譲受(買い手)側 | 株式会社ナガセ |
M&Aの目的 | 総合力・競争力の強化 |
M&Aのスキーム | 新設分割・株式譲渡 |
株式会社ナガセは、小学校から高等学校の児童・生徒を対象とした学習塾を展開する大手企業です。高校生を対象とした学習塾を運営する株式会社サマデイとのM&Aにより、さらなる事業規模の拡大を目指しました。
M&A後は、株式会社サマデイから得たノウハウを活かして次世代のリーダー育成に力を入れています。
駿台グループであるエスエイティーティー株式会社は、株式会社マナボの株式を取得して子会社化しました。
M&Aの詳細は、下記の通りです。
譲渡(売り手)側 | 株式会社マナボ |
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譲受(買い手)側 | 駿台グループ(スエイティーティー株式会社) |
M&Aの目的 | 新サービスの開発 |
M&Aのスキーム | 株式譲渡 |
エスエイティーティー株式会社は、eラーニングシステムや教育関連システムの開発を行っている駿台のグループ会社です。オンライン家庭教師サービスを提供していた株式会社マナボとのM&Aにより、eラーニングシステムとの融合を目指しました。
M&A後は、企業向け教育研修や医療福祉などの他業種向けサービスの開発に取り組んでいます。
少子化が続く現代において、教育業界は市場縮小が懸念されています。一方で、オンライン教育の需要の増加や子ども1人あたりにかける教育コストの増加などの理由から、学習塾の売上は右肩上がりです。 教育業界では学習塾のM&Aが活発化しており、中でも新たな領域の展開や事業規模の拡大を目指す企業が増えています。教育業界のM&Aを成功させるには、立場ごとのメリットや実例をチェックしておくことも大切です。 M&Aには専門的な知識が求められるケースも多いため、まずは知識と実績が豊富なM&Aアドバイザーに相談してみましょう。
監修者プロフィール
株式会社レコフ リサーチ部 部長
澤田 英之(さわだ ひでゆき)
金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。
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