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業界別M&A
かつては「日本のお家芸」と称された花形業界だった造船は、需要と供給のギャップによる「船舶余り」に加えて中国・韓国との価格競争にさらされ、厳しい状況に置かれています。そんな造船業界では業界再編の動きが活発化しており、逆境の中でM&Aを敢行して成功した事例もあります。
この記事では、
など日本の造船業の歩みを振り返りながら造船業界の現状と再編の動きについて解説します。造船業界の歴史や現在の動向などが掴めますので、造船業界について関心を持たれている方は、ぜひご一読ください。
日本はユーラシア大陸の東に位置する島国であり、太平洋、日本海、東シナ海、オホーツク海と複数の海に面している海洋国です。この立地は、ユーラシア大陸の発展した文明に感化されながらも外敵の侵入を許さないという、非常に恵まれた環境でした。
しかし、1853年の黒船来航を境に、日本は「海があれば安全だ」という認識を改めなければならなくなりました。海を渡る技術を駆使してやってくる外敵に対処するため、海を防衛する軍事力の強化が必要でした。また、海に囲まれた小さい島国である日本には、資源が少ないという弱点があります。この状況で海外諸国と渡り合うためには、輸入した資源を加工してから輸出する「交易」で生きるほかなく、これを実現するためにも海を渡れる手段をいち早く確立しなければなりません。外敵に備えるという点や新しい時代を生き抜くという観点からも、海軍・海運を担う造船技術の発展は急務だったのです。
明治時代に入ると日本の産業・社会生活を支える海運業界は大きく発展し、日本の近代化に大きく貢献しました。そして、1956年に入り新造船建造量において初の世界一を達成したのです。
1956年は、エジプトがスエズ運河の国有化を宣言した年でした。スエズ運河は地中海と紅海を結ぶ人工海面水路で、アジアとヨーロッパを最短距離で行き来できる要所です。この宣言にイスラエル・イギリス・フランスが反発し、スエズ運河の利権をめぐって第二次中東戦争が勃発。一時期はスエズ運河が通れなくなりました。スエズ運河を通れなくなるとアフリカ大陸を迂回しなければならず、物流が著しく滞るため、船舶が不足します。また、各国が備蓄用に石油の買い付けを急いだこともあって、海運需要は一気に上がりました。
この出来事は後に「スエズブーム」と呼ばれ、日本の造船業界にとっては第二次世界大戦後に迎えた絶好のチャンスとなります。1957年には通航の見通しが立ったため、わずか1年で市況は落ち着きましたが、日本の海運業界を盛り上げるには十分でした。スエズブームを受けて日本の世界シェアは約50%まで拡大し、高度経済成長時代には「造船業は日本のお家芸」 といわれるほど目覚ましい発展を遂げ、1984 年 まで世界トップのシェアに君臨しました。
1980年代に入ると中韓の造船会社の台頭により、雲行きが怪しくなります。1980年代からは韓国、2000年代からは中国がシェアを伸ばしはじめ、日本の造船業界はますます難しい状況に追い込まれました。また、1985年 のプラザ合意により円高が進展し、日本の造船業界に致命的なダメージを与えました。
2003年に世界的な海運ブームが生まれ、2008年のリーマン・ショックまでは船舶の受注量がたくさんありましたが、そのころに発注された船舶が2010~2012年にかけて竣工したことによって需給ギャップが広がり、日本の造船業界は苦しい戦いを強いられています。
日本は1956年からトップクラスの造船量を誇っていました。しかし、2000年には巨額の公的支援で急成長を遂げた韓国に首位を奪われ、2009年には国営企業を中心とする中国にも抜かれました。中国は急激な経済成長によって物流のニーズが増えたため、巨大造船所の育成を「国策」に掲げて大々的なバックアップを行ったのです。
日本は高い人件費に加え、国内に小規模造船所が数多く残っています。日本でも再編の動向はあるものの、先に経営統合・大型再編を積極的に進めていた韓国と中国には遅れを取っているのが現状です。
造船は、スケールメリットがものをいう事業です。造船所が大きいほど受注量が増え、受注が多いほど費用を抑えやすくなります。日本は、中国・韓国と比べるとスケールメリットがとても小さく、先の2国ほど費用を下げられないことで窮地に立たされています。
2003年頃からは海運ブームが生まれましたが、2008年のリーマン・ショックで景気悪化による海運市況の低迷が起きました。新造船のキャンセルが相次ぎ、海運ブーム中に受注した造船が竣工され始めた2010年以降からは、世界的な船余りに突入しました。造船業界は、中国・韓国にとっても逆風が吹いている状況といえます。
そのような状況においても、世界の物流量は今後ますます増えるとみられており、長期的には船余りが解消されると考えられています。この過渡期を乗り越えるため、中国・韓国の造船会社は、赤字になってでも安値で受注して仕事を得ることを優先するようになりました。中国の政府支援は手厚く、韓国は「過剰な公的支援は公正競争をゆがめる」と問題視されるほどの援助があり、どちらの国にも価格競争に耐えられるだけの地盤があるのです。
一方、日本の造船会社は規模が小さいうえ、中国・韓国ほど政府支援を得られていないという現状があり、価格競争力には欠けます。2021年には政府から10億円の支援を割り当てられましたが、中国・韓国によって受注競争が激化している現状では、焼け石に水といわざるを得ません。
日本の造船会社は、大手の総合重工系企業がほとんどを占めていました。しかし、現在日本の造船業界を牽引するのは、「今治(いまばり)造船」をはじめとするオーナー系の造船専業企業がほとんどです。オーナー系造船専業とは、造船を専業にしており、創業者やその一族が経営の実権を握っている企業のことを指します。
造船業界では、中国・韓国という強敵を前に生き残りをかけた戦いが始まっており、大きく分けて3つの動きがあります。提携戦略、再編、そしてM&Aです。
世界的な造船不況の中、スケールメリットで遅れを取っている日本では、生き残りをかけて中国との連携に本腰を入れています。日本のノウハウと中国の低コスト生産を組み合わせ、政府から多額の支援を受けている韓国勢に対抗するためです。三井E&S造船は、中国の揚子江船業集団と合弁事業をスタートしました。2022年には建造を開始し、中型液化天然ガス(LNG)船の供給を進める予定です。
また、中国国内ではエネルギーの消費がますます拡大しており、需要が広がると見込まれています。中東諸国から運ばれてくるLNGは、中国物流の大動脈である「長江」から大型タンカーで運ばれた後、さらに内陸へ輸送するためには中型船が不可欠です。このことから、中型LNG船の需要は高まるとみられています。
日本側は合弁会社に船型開発技術や品質管理ノウハウの提供で参入し、中国企業と協力して船を生産しながら、売り上げ拡大を狙います。なお、中型LNG船の需要は中国だけにではなく、同様にエネルギーの消費が増えつつある東南アジアからの注文も増えてくると予想されます。
また、川崎重工業や三菱重工業も、中国との連携強化に積極的です。川崎重工業は国内のドックを減らす一方で、中国との合弁事業では新たなドックを増設しました。三菱重工は今治造船・名村造船所といった国内の造船企業と提携しており、三井E&S造船も常石造船と業務提携しています。
厳しい状況の中で、大手造船会社ではリストラ・新規事業シフトなど再編の動きが活発化しています。国内シェア2位のジャパン マリンユナイテッド(JMU)もまた、再編の末にできた企業の1つです。もともとはJFEエンジニアリングと日立造船の1部門を統合した「ユニバーサル造船」と「アイ・エイチ・アイ・マリンユナイテッド」が合併して生まれました。
国内のドックを削減し、新規事業の開拓を行う動きも目立ちます。例えば、三菱重工はオーナー系の造船専業企業に一部の建造を委託する方向へ舵を切っており、その代わりエンジニアリング事業への特化に注力しています。
また、2021年には今治造船とJMUの共同出資によって生まれた会社がスタートしました。大規模発注を重視していく方針で、公的な支援に支えられた中国・韓国との受注競争に挑む体制を整えています。
造船事業を残しつつ発展を遂げるためには、主に受注能力の強化と新しい市場開拓、新事業への展開が必要です。新規事業においては、各造船企業が連携を取って温室効果ガスを出さない「ゼロエミッション船」の実用化に向けた開発も進められており、多くの大手造船会社が選んだ再編・新規事業シフトは功を奏しているといえるでしょう。
日本の造船業界が衰えはじめた状況下で台頭していき、着実に事業を大きくしつづけることを諦めなかったオーナー系の造船専業企業が「今治造船」です。大手造船会社がリストラや再編に追い込まれていく中で、当時は小さい造船会社だった今治造船はM&Aを敢行しました。造船不況をさらに加速させたオイルショックや円高不況の状況においても、M&Aによる勢力拡大のチャレンジを辞めませんでした。
21世紀に入ってからも今治造船はM&Aを繰り返し、ついには国内シェア1位で国内最大手となり、強豪の中国・韓国と並ぶ世界第4位の造船会社に成長したのです。
造船事業については、政府が何度か支援やテコ入れを行っています。例えば、オイルショックが起きた時期に経営が立ち行かなくなりつつあった中堅以下の造船企業に操業短縮・設備削減を実施し、大手に組み入れることで経営を再建させる手助けを行ってきました。確かに、公正競争を歪めるほどの価格競争が繰り広げられる造船業界において、政府と民間が一体となった立て直しは必要不可欠でしょう。
しかし、過去の歴史を紐解いてみると、大手造船会社ではなく、M&Aでひたすら事業拡大を目指した今治造船が国内シェア1位となっており、日本の造船事業を牽引する存在になっています。今治造船は、先見の明を持って事業拡大を図ってきた結果がシェア1位です。安直に会社を大きくした訳ではありません。同様に、造船業界全体の将来を見据えた主体的な再編を行う必要性も見据えていたのです。
1987年の創業以来、36年以上にわたり
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監修者プロフィール
株式会社レコフ リサーチ部 部長
澤田 英之(さわだ ひでゆき)
金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。
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