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業界別M&A
IT市場の拡大とデジタル化の進展により、システム開発会社のM&Aが注目を集めています。人材不足や技術革新への対応が求められる中、M&Aは事業の安定や成長を図る有効な手段として、多くの企業が選択肢に加えるようになりました。
事業の売却を検討する企業にとっては、事業承継や従業員の処遇改善の手段となり、買収を検討する企業には、新技術や優秀な人材の確保といったメリットがあります。当記事では、市場動向やメリット、価格算定の考え方、実際の事例について解説します。
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事業承継・譲渡売却はシステム開発会社とは、企業の業務効率化や情報管理を目的としたシステムを開発・提供する会社です。発注者の要望に合わせて個別にカスタマイズされたシステムを構築するため、業種や業務内容に応じた専門知識が求められます。システムの企画から設計、開発、運用・保守まで一貫して対応するのが一般的です。
ただし、開発内容や業務形態によって会社ごとの役割や立場は大きく異なります。たとえば、大規模開発を担う大手SIer(システムインテグレーター)、特定分野に強みを持つ中小企業、特定工程のみを受託する下請け企業など、形態は多様です。 システム開発業界には、多重下請け構造と呼ばれる特徴があり、上流に位置するSIerから下流の開発会社へ業務が分担されるケースが少なくありません。
システム開発業界の市場規模は、拡大を続けています。
IDCジャパンによると、2024年の国内ITサービス市場は7兆205億円でした。前年比7.4%の増加であり、2023年から連続で5%を超える成長を記録しています。IDCジャパンは今後も堅調な成長を予測しており、2024年から2029年の年間平均成長率(CAGR)は6.6%、2029年には9兆6,225億円に達すると見込んでいます。
(出典:NIKKEI COMPASS「システム受注・ソフト開発(一般)業界 市場規模・動向や企業情報」https://www.nikkei.com/compass/industry_s/0866 )
追い風となったのは、DX(デジタルトランスフォーメーション)の普及やデジタル化推進の流れです。特に、政府・公共部門での大型案件や、製造業における基幹システムの刷新、クラウド移行が成長の要因とされています。
また、矢野経済研究所では、2023年度の国内民間IT市場規模は15兆500億円で、2026年度には17兆1,000億円まで伸びると予測しました。クラウド、AI、DX支援など先端分野への投資が活発化しており、今後も拡大基調が続く見通しです。
(出典:矢野経済研究所「国内企業のIT投資に関する調査を実施(2024年)」https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3678 )
一方で、業界には課題も残ります。IT人材の主力となる若年層の減少により、将来的な人材確保が困難になる懸念がある点です。また、既存のレガシーシステムに依存し続ける企業も多く、新規システムへの移行が進まない点も問題視されています。国際的な競争が激化する中で、国内企業が競争力を維持するためには、技術革新と人材強化の両立が求められます。
国内のITサービス市場の中でも、システム開発会社は特にM&Aの実施件数が多い業界です。人材やノウハウを効率的に獲得できる手段として注目されており、需要が高い今は売り手・買い手双方にとってチャンスと言えるでしょう。
以下では、実際に行われているM&Aの代表的な3つのパターンを紹介します。
システム開発業界では、慢性的な人材不足が課題の1つです。経済産業省は、2030年には最大で80万人規模のIT人材が不足する可能性があると指摘しました。特にエンジニアの量と質の両面での不足は深刻であり、業界全体にとって大きな懸念材料となっています。
(出典:経済産業省「参考資料(IT人材育成の状況等について)」https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/daiyoji_sangyo_skill/pdf/001_s03_00.pdf )
こうした背景から、同業種同士のM&Aによってエンジニアを確保する動きが加速しています。買収先に所属する技術者をそのまま引き継いでしまえば、採用コストや教育コストを抑えつつ即戦力を獲得できるためです。特に特定技術や業界に強みを持つ企業の買収は、自社の技術的な幅を広げる手段としても有効です。
従来は外部委託が一般的だったシステム開発業務も、近年では内製化の流れが強まっています。背景にあるのが、スピード重視の経営環境や、柔軟なシステム運用へのニーズの高まりです。特に大手企業を中心に、設計・開発・運用を自社内で完結させる動きが目立ちます。
そしてその内製化の一環として、異業種企業によるシステム開発会社の買収も増えてきました。新たに開発部門を立ち上げるよりも、既存の開発体制と技術力を丸ごと取り込んでしまえば、時間とコストを抑えつつ内製化が実現できるためです。製造業や流通業、サービス業などでもこうした動きが活発化しており、異業種間のM&Aが業界構造を変えつつあります。
システム開発業界では、クラウド技術の普及が構造転換を加速させている状況です。従来の個別企業向けのオンプレミス型システムを開発するモデルは縮小しつつあり、代わってクラウド型のパッケージソリューションやSaaSの導入が一般化しています。
この変化に対応するため、既存の開発会社がクラウド領域に強みを持つ企業を買収するケースが増えてきました。反対に、クラウドベンダーが開発力を強化するため、従来型のシステム開発会社を取り込む動きも見られます。業界再編の波の中で、クラウド分野に軸足を移すことで事業ポートフォリオの再構築を図る企業が増加中です。
このように、クラウド化の進展は、従来の取引構造や開発体制を根本から変える要因となっており、それに伴うM&Aが今後さらに活発化していくでしょう。
システム開発会社のM&Aは、売り手・買い手の双方に多くのメリットがあります。特に中小規模の開発会社では、人材不足や後継者不在といった課題を抱えているケースが多く、M&Aによって経営の安定や従業員の環境改善を実現することが可能です。
ここからは、売り手側が得られる代表的なメリットを3つ紹介します。
自社を営業力のある企業に売却すれば、効率的に事業ポジションの改善が図れます。システム開発業界は、元請から下請へと業務が流れる「多重下請け構造」が一般的です。下層になるほど多くの中間マージンが発生し、利益率が低くなりがちです。しかし、階層が上がれば中間マージンの圧迫が減り、利益率の改善が期待できます。
例えば、五次請けの企業が三次請けの企業にM&Aで買収されれば、それだけでより元請けに近いポジションでの業務が可能です。また、元請けに近い業務ではシステムの上流工程に携わる機会も増えるため、技術者のやりがいやモチベーション向上も期待できるでしょう。
M&Aにより第三者に会社を引き継げば、後継者が不在でも廃業せずに事業を存続させられます。近年は親族や従業員による事業承継が難しいケースが増えており、その解決策としてM&Aを選ぶ企業が多くなってきました。
会社を残せば、従業員の雇用も守られ、得意先との取引も継続できます。同時に、廃業によって生じる設備の処分費用や従業員の離職リスクを回避できるのは、大きなメリットです。引き継ぎ先が大手企業であれば、経営資源を活用しながらのさらなる成長も期待できるでしょう。
M&Aによって従業員の待遇が改善されるケースは少なくありません。特に、大手企業や成長中の企業に譲渡する場合、給与水準や福利厚生が向上する可能性があります。
また、買収先企業が導入している教育制度や研修体制の恩恵を受ければ、従業員のスキルアップも期待できるでしょう。技術者同士の交流を通じて刺激を受けたり、新しい開発技術に触れたりすることで、モチベーションの向上にもつながります。従業員が安心して働ける環境が整えば、結果として離職率の低下や企業全体の生産性・品質の向上にもつながり、事業の持続的な発展が見込めます。
システム開発業界は変化のスピードが早く、競争も激しい分野です。M&Aを活用すると、既存リソースの活用や事業基盤の強化、新技術の獲得が図れるでしょう。
次に、買い手企業にとって代表的なメリットを3つ解説します。
システム開発業界は、今後も成長が期待されている分野です。そのため、異業種から新たに参入しようとする企業も増えています。しかし、ゼロから事業を立ち上げる場合、人材の採用や育成、開発環境の整備、ノウハウの蓄積などに多大な時間とコストがかかります。
こうした参入障壁をクリアする手段として、M&Aによる買収が有効です。既存のシステム開発会社を買収すれば、即戦力となる人材や設備、顧客基盤を一括で引き継げます。スムーズに事業を立ち上げられるだけでなく、市場理解や実務経験も短期間で獲得できる点が魅力です。
システム開発業界では、IT人材の不足が慢性的な課題となっています。特に中小企業では、採用活動にかけるリソースが限られ、人材確保に苦労するケースが少なくありません。人材不足は、事業拡大や案件対応に支障をきたす大きな要因です。
M&Aを活用すれば、売却元企業に所属する優秀なエンジニアや技術者をまとめて確保できます。個々の人材を移籍させるのではなく「チームまるごと」引き継いでしまえば、プロジェクトへの対応力もそのまま継続され、即戦力として機能するでしょう。人材育成にかかる時間やコストを削減できる点も、大きなメリットと言えます。
システム開発は、AIやクラウド、IoTなど新たな技術領域が次々に登場する分野です。こうした市場にすばやく対応するためには、外部から技術を取り込む必要があります。
M&Aによって自社で未導入の技術を持つ企業を買収すれば、社内にないノウハウや開発スキルを短期間で獲得可能です。すぐに高度な案件に対応できる体制を構築できるだけでなく、社内の技術レベルの底上げにもつながるでしょう。技術者同士の交流や合同プロジェクトを通じて、社内に新しい知見や価値観が広がる効果も期待できます。
このように、M&Aは単なる事業拡大だけでなく、技術革新や競争力強化を実現する手段として、買い手企業にとって多くの可能性をもたらす選択肢の1つです。
システム開発会社の売却相場は、他業界に比べて高い傾向があります。ただし、売却価格は企業の規模・業績・技術力などによって大きく異なります。最終的な金額は、売り手と買い手の交渉によって決まるため、客観的な価値算出方法を理解しておくことが大切です。
以下では、代表的な売却価格の計算方法を3つ紹介します。
売却価格の主な計算方法は、以下の3パターンです。
(1)時価純資産+営業利益×2〜5年分 |
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M&Aの相場を大まかに把握したいときに使われるのが「時価純資産に営業利益を加えた額を2〜5年分」で計算する方法です。この算出法は、企業が実際に保有する資産と将来的な収益力を組み合わせて評価するもので、簡便かつ実務で頻繁に用いられています。 |
(2)エンジニアの価値単価×エンジニアの人数 |
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技術者のスキルや保有資格、実務経験といった、「人材価値」に着目した評価方法です。在籍するエンジニアのスキル・経験がそのまま企業価値と直結するため、専門スキルを持つ人材が多く在籍しているほど、企業価値も高く評価されます。 |
(3)企業価値評価法(バリュエーション) |
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実際の取引に当たって、もっとも一般的に使用されるのが「企業価値評価法(バリュエーション)」です。これは主に以下3つのアプローチで構成されます。
●コストアプローチ 企業の資産・負債をベースに純資産価値を評価する方法です。客観性が高いため中小企業のM&Aで多く使われています。帳簿価格を基準とする「簿価純資産法」や、資産と負債を時価に修正する「時価純資産法」が代表的です。時価純資産に営業権(ブランド力や取引先の安定性など)を加味するケースもあります。 ●インカムアプローチ 将来的に見込まれる利益やキャッシュフローをもとに、企業価値を評価する方法です。代表的な手法には、将来のキャッシュフローを割引率で現在価値に換算する「DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)」があります。将来の成長性を加味できる点がメリットですが、売り手側の事業計画に依存するため、客観性には注意が必要です。 ●マーケットアプローチ マーケットアプローチは、市場での取引事例や上場企業のデータをもとに、「類似会社比較法」や「類似取引比較法」を用いて企業価値を算出します。市場の客観的なデータを利用できるため、評価の透明性が高いのが特徴です。 |
これら3つの手法はそれぞれ特性が異なるため、実際のM&A交渉では複数の評価方法を併用して売却価格の目安を設定するのが一般的です。
システム開発会社のM&Aを成功させるには、他社の実施事例を参考にするのも有効です。どのような目的で、どのような形でM&Aが実施されたのかを知っておけば、自社の方向性を見極める参考になるでしょう。
ここからは、近年行われた代表的なM&A事例を3つ紹介します。
イメージ情報開発株式会社は、2025年4月に株式会社TENJIN SYSTEM CONSULTING(TSC社)を連結子会社化しました。
譲渡(売り手)側 | 株式会社TENJIN SYSTEM CONSULTING |
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譲受(買い手)側 | イメージ情報開発株式会社 |
M&Aの目的 |
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M&Aのスキーム | 株式譲渡(過半数取得) |
イメージ情報開発は、ITソリューションを主力とする企業です。
TSC社は、AI活用や大規模Webサービスの開発に強みを持つ新興のIT企業で、優秀なプロジェクトマネージャーが独立して設立しました。
今回の株式取得により、イメージ情報開発は自社の技術領域を広げると同時に、グループ全体のエンジニアリソースと育成体制の強化を図っています。
コムチュア株式会社は、2025年3月に株式会社ヒューマンインタラクティブテクノロジー(HIT社)を連結子会社化しました。
譲渡(売り手)側 | 株式会社ヒューマンインタラクティブテクノロジー |
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譲受(買い手)側 | コムチュア株式会社 |
M&Aの目的 |
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M&Aのスキーム | 株式譲渡(全株取得) |
コムチュアは、DXやクラウドを中心としたソリューションを展開するIT企業です。
HIT社は、Microsoft AzureやAI分野に強みを持ち、コンサルティングから運用支援まで幅広く対応しています。
今回のM&Aにより、コムチュアはインフラ構築から教育支援までの体制強化と、AI関連事業への注力を強める方針です。
株式会社NSDは、2024年6月に株式会社アートホールディングス(アートホールディングス社)を完全子会社化しました。
譲渡(売り手)側 | 株式会社アートホールディングス |
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譲受(買い手)側 | 株式会社NSD |
M&Aの目的 |
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M&Aのスキーム | 株式譲渡(追加取得) |
NSDは、2023年にアートホールディングス社の株式89.5%を取得しており、2024年6月に残りの株式を追加取得することで完全子会社化しました。
アートホールディングス社は、福井県を拠点とするシステム開発企業で、ITソリューションや人材派遣、教育支援事業も展開しています。
NSDグループとしての連携をより強化し、地方拠点を含む事業基盤の拡充が目的のM&Aです。
システム開発会社は、IT市場の成長と人材不足の影響から、M&Aの動きが活発な業界です。市場規模の拡大やDX化の進展を背景に、同業種・異業種・クラウド関連と多様なM&Aが実施されるようになってきました。
M&Aは、人材不足や技術革新といった課題への対応策として、売り手・買い手双方に多くのメリットが期待できる手段の1つです。M&Aを成功させるには、信頼できる専門家の支援を受けながら戦略的に交渉を進めることが大切です。
監修者プロフィール
株式会社レコフ リサーチ部 部長
澤田 英之(さわだ ひでゆき)
金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。
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