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業界別M&A
ゼネコン業界は、老朽化施設の建替えなどにより需要が高まっています。これまで、ゼネコン業界は他業界に比べてM&Aに積極的ではありませんでした。しかし、近年ではさまざまな課題解消の手段として、M&Aを実施する企業が増えてきています。
当記事では、ゼネコン業界の現状や業界が抱える課題、M&Aの動向とそれに伴うメリットやデメリット、成功につながるポイントを解説します。M&Aを検討している方はもちろん、業界動向に興味のある方もぜひご参考ください。
ゼネコンは「総合建設業者」と呼ばれ、日本の建設業界の中核を担う企業です。
そもそも建設業界は、建設業法により建設工事の完成を請け負う事業と定義されています。中でも、ゼネコンは設計から施工、研究まで自社で行う総合性の高い企業です。発注者から直接工事を請け負い、サブコンと呼ばれる専門工事業者に工事を委託しながら、プロジェクト全体を統括する役割を果たします。
建設業界には、年間の完成工事高に基づいて「スーパーゼネコン」「準大手ゼネコン」「中堅ゼネコン」「地方ゼネコン」の5つの分類が存在します。
日本でスーパーゼネコンと呼ばれるのは、大林組・鹿島建設・清水建設・大成建設・竹中工務店の5社のみです。いずれも技術力や開発力が非常に高いことで知られており、国内外での大規模プロジェクトに関わることが多い企業です。
一方で、地方ゼネコンは特定地域に特化し、地域密着型の事業を展開しています。
ゼネコン業界の現状は、国土交通省のデータから把握できます。
令和6年度の建設投資見通しでは、建設投資総額が約73兆200億円に達する見込みで、前年度比で2.7%の増加が予想されています。政府投資は約26兆2,100億円と3.7%の増加、民間投資は約46兆8,100億円と2.2%の増加といずれも増加する見込みです。
特に民間非住宅建築投資は、前年度比4.4%増加の17兆8,500億円になるとの予測がされています。これは、首都圏を中心とした再開発の活発化が一因です。また、スーパーゼネコンの売上高も増加傾向にあり、建設業界全体では増収が見込まれます。
一方、建設業許可を持つ業者数は令和6年3月末で479,383業者となり、前年同月比で0.9%の増加を示しました。しかし、これはピーク時の平成12年3月末の601,980業者から約20%減少したことを意味する数値です。また、新規許可を取得した業者数は前年度比で0.8%減少しています。
このような背景の中、建設業界ではウクライナ情勢や資材費の高騰により、建設コストが大幅に上昇しています。大手デベロッパーの値下げ圧力が強まっており、受注競争が激化しているのが現状です。
(出典:国土交通省「建設業許可業者数調査の結果について https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001742597.pdf )
(出典:国土交通省「令和6年度(2024年度)建設投資見通し」 https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001760431.pdf )
ゼネコン業界は現在、複数の重要な課題に直面しています。人材の不足・高齢化や資材価格の高騰、働き方改革、建築物省エネ法へといった課題にどう対処するかで、各企業の今後の発展が左右されると言っても過言ではありません。
ここからは、ゼネコン業界が抱える4つの課題について解説します。
ゼネコン業界を含む建設業界全体では、人材不足と高齢化が深刻な課題です。
建設業への就業者数はピーク時の1997年の685万人から2022年には479万人へと減少しました。特に技能者の数は、同期間で455万人から302万人へと大きく減っており、この傾向は今後も続くと予想されます。
業界の高齢化も顕著で、就業者の約35.9%が55歳以上、29歳以下はわずか11.7%にすぎません。特に全体の約25.7%を占める60歳以上の技能者は、今後10年で多くが退職すると予想されます。
若年層の確保と育成が業界全体の大きな課題であり、技術の継承はもちろん、処遇改善や働き方の改革、生産性の向上などが急務となっています。
(出典:国土交通省「建設業を巡る現状と課題」 https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001610913.pdf )
ゼネコン業界では、資材価格の高騰も大きな課題となっています。
コロナ禍からの需要回復、ウクライナ危機に伴う原燃料価格の上昇、円安の進行などが、建築資材価格高騰の主要因です。国土交通省の資料によると、生コンクリートや鋼材、セメントなどの主要建設資材は、2023年4月時点で前年に比べ大幅に価格が上昇しました。
資材の価格高騰は建設業界への負担が大きく、プロジェクトの予算オーバーや計画の見直しを余儀なくされるケースが増えています。経済産業省と国土交通省は、建設業関連団体に対し円滑な価格転嫁を進めるよう要請していますが、現状では価格上昇が続くと予想されます。
(出典:国土交通省「建設業を巡る現状と課題」 https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001610913.pdf )
2024年4月以降、建設業も働き方改革関連法に基づく時間外労働の上限規制の適用対象です。時間外労働は原則月45時間以内、年360時間以内に抑えなければなりません。働き方改革への対応として、建設現場の生産性向上が不可欠です。効率的な人員配置や作業方法の見直し、適切な給与設定、省人化技術の導入などが求められています。
ゼネコン業界の劣悪な労働環境は従来から問題視されているものの、未だ多くの建設労働者が上限を超えて働いているのが現状です。BIMやロボット技術の活用など、DXの取り組みも進められていますが、これらの施策が現場に浸透するにはさらなる時間がかかると見られています。
建築物省エネ法は、建築物のエネルギー消費性能の向上を目指す法律です。カーボンニュートラルの実現や温室効果ガス排出削減を目標に、2018年に施行されました。建築物分野はエネルギー消費量の約3割、木材需要の約4割を占めているため、省エネ対策が重視される分野です。
2024年に続いて2025年には、この法律に大きな変更が予定されています。主な変更点は、省エネ基準の適合義務化、適合性審査の変更、省エネ性能の表示です。この変更により、ゼネコン業界では省エネ基準を満たした建築が求められます。
ゼネコン業界が法改正に対応するには、既存のビジネスモデルや施工方法を見直さなければなりません。新たな省エネ基準を満たす資材の導入や従業員への教育・指導など、やらなければならないことは山積みです。
(出典:国土交通省「建築物省エネ法のページ」https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/shoenehou.html )
さまざまな課題に直面しているゼネコン業界では、近年M&Aが活発化しています。長らく業界再編が難しいとされてきた業界ではあるものの、最近では事業基盤の拡大をはじめ、さまざまな目的のもとM&Aが進みつつある状況です。
そこで次に、ゼネコン業界におけるM&Aの主な動きを解説します。
ゼネコン業界のM&Aの動向の1つとして、事業基盤の拡大を目的としたM&Aがあります。この種のM&Aは、特定地域での事業基盤を強化し、シェアを拡大するのが目的です。例えば、地方のゼネコンを取得することで、その地域における営業範囲を広げたり、施工力を強化したりできます。
また、建設業界全体のマーケットが縮小傾向にある中、営業基盤の拡大を通じて売上を維持・拡大するのも狙いです。技術者や労働者の不足という課題に対処するため、人材確保の目的でM&Aを行うケースもあります。
ゼネコン業界では、新たなノウハウや技術力の獲得を目的としたM&Aも増えています。この種のM&Aでは、再生可能エネルギーやIT技術など、特定分野の専門知識や技術力を持つ企業を取得するのが一般的です。
例えば、土木管理や建築関連のソフトウェア開発企業の買収によって、生産性向上やデジタルトランスフォーメーションの推進が期待されます。
また、水関連のインフラや鉄骨材料の製造企業の買収による新しいビジネス領域への展開を目指す動きも少なくありません。M&Aで自社の事業範囲を拡大し、新しい市場への進出や技術革新を図る動きが散見されます。
ゼネコン業界では、異業種による買収が活発化している状況です。特にハウスメーカーや設備工事会社、不動産会社など、建設業界と近い業種からの参入が目立ちます。これら異業種の企業が狙うのは、ゼネコンの買収による事業領域の拡大や連携、シナジー効果です。
例えば、ハウスメーカーがゼネコンを傘下に入れることで、住宅市場の縮小に伴うリスクを分散し、非住宅分野への進出を図る動きがあります。また、買収により新しい技術や専門知識を取り入れ、自社のサービス範囲を広げるのも目的の1つです。
ゼネコン業界では、海外市場への参入を目的としたクロスボーダーM&Aもトレンドの1つです。国内市場の縮小に対応し、新たな成長機会を求める動きとして、海外の建設会社や関連企業を買収するケースが増えています。M&Aであれば、海外でのビジネス基盤の確立や、地域特有の市場ニーズに応えることが容易となるためです。 また、海外企業の専門技術やノウハウを取り入れれば、自社の事業展開や技術力の向上も図れます。さらに、再生可能エネルギーやインフラメンテナンスなど、特定の分野での事業拡大を目指す動きも見られます。
M&Aは、譲受側と譲渡側それぞれに、メリットとデメリットをもたらします。ゼネコン業界でM&Aを行う際は、自社にとってどのようなメリットとデメリットがあるかを把握してから動くことが大切です。
ここからは、立場ごとのメリットとデメリットについて詳しく説明します。
ゼネコン業界において、譲渡側がM&Aによって得られるメリットはいくつかあります。
●後継者問題の解消
建設業界では後継者不足が深刻な課題です。M&Aを行えば、親族や社内に後継者がいない場合でも事業承継が可能となり、廃業にかかる費用を節約できます。また、従業員の雇用や取引先との関係が維持できる点もメリットです。
●譲渡利益の獲得
M&Aによる建設会社の売却は、一般的に時価純資産プラス営業利益の数年分の譲渡利益をもたらします。得られた現金は、新規事業や主力事業への再投資が可能です。また、経営者が退職金を得るための有効な手段にもなり得ます。
●従業員の雇用維持
M&Aの実施により、従業員は職を失うリスクが軽減されます。特に、財務基盤が安定した会社と統合すれば、従業員はより安定した環境で働くことが可能です。
●相手先企業の経営資源の活用
大手の傘下となれば潤沢な経営資源の恩恵を受けられ、建設事業の安定性が増します。豊富な資金や最新の設備機器、優秀な人員、ブランド力などを活用し、事業の成長を加速できる可能性があります。
これらのメリットは、ゼネコン業界で譲渡側がM&Aを検討する際に重要なポイントです。
譲渡側のデメリットとして挙げられるのは、以下の3つです。
M&Aでは譲渡側が納得できる評価額が付かないこともあり、譲渡価格が想定よりも低い場合、売却後の計画変更が必要となる場合があります。従業員や取引先からの反発は、M&A取引の成立を困難にするケースも珍しくありません。また、譲受側との交渉や契約書の作成には相応の時間と労力が必要です。
ゼネコン業界における譲受側のM&Aメリットは、以下の通りです。
●新規事業の進出・推進の迅速化
M&Aを実施することで、新規事業への進出や推進が迅速化できます。売却側が持つ人材や設備機器、ブランド力などを利用すれば、市場調査や顧客確保などにかかる時間を大幅に短縮できるでしょう。
●人材不足の解消
建設業界は深刻な人材不足に直面しています。M&Aを通じて、有資格者や優秀な人材をまとめて獲得することが可能です。これにより、事業拡大や新規プロジェクトに必要な人材を迅速に確保できます。同時に、人材の育成にかかる人的・時間的なコストも節約が可能です。
●事業規模の拡大
M&Aにより、人員や機械設備などのリソースが潤沢になれば、事業規模の拡大も視野に入ります。特に、地域に特化した企業を買収すれば、商圏の拡大や市場シェアの増大が容易です。
●コスト削減
大量の資材を一度に購入することが可能になるため、単価交渉力の向上や購頻度の抑制が期待できます。資材購入や輸送にかかる全体のコストが削減可能です。
譲受側は新しい市場への迅速な進出や、事業成長の促進、効率的なコスト管理や人材確保を通じて、競争力の強化も期待できるでしょう。
譲受側のデメリットとして挙げられるのは、以下の3つです。
経営方針の変更や職場環境の変化に対する抵抗感が原因で、従業員が退職するケースは珍しくありません。
また、技術面や事業方針の相違、市場の変化などにより、期待されるシナジー効果が得られない場合もあります。株式譲渡によるM&Aでは、買収先企業の簿外負債を引き継ぐリスクもあるため、綿密な調査が必要です。
ゼネコン業界のM&Aを成功させるためには、譲渡側と譲受側がそれぞれの立場に応じたポイントを押さえることが重要です。納得のいくM&Aを目指すには、双方が注意点や成功の鍵となる要素を理解し、計画的に進めていかなければなりません。
以下では、ゼネコン業界のM&Aを成功に導くポイントを立場別に解説します。
ゼネコン業界において、譲渡側がM&Aを成功させるポイントは下記が挙げられます。
技術力の向上や元請比率の増加は、会社価値を高める重要な要素です。また、譲受側との進行中の案件のスムーズな引き継ぎや、売却タイミングの選定も成功に向けた鍵となります。自社の持つ強みやアピールポイントを明確にしておくと、交渉力を高められるでしょう。
ゼネコン業界において、譲受側がM&Aを成功させるポイントは下記が挙げられます。
売却企業の人材構成や財務状況の詳細な分析は、M&Aの成功に必須です。また、建設業には特有の許認可や規制があるため、これらを十分に理解し、適切な手続きを行う必要もあります。売却側企業の受注状況や取引先の状況を把握し、M&A後の事業運営をスムーズに行うための準備を整えることも欠かせません。
ゼネコン業界のM&Aを円滑に進めるためには、専門的な知識を持つM&Aアドバイザーのサポートが非常に重要です。M&Aには複雑な手続きや交渉が必要となり、自社だけで進めるのは困難です。優秀なM&Aアドバイザーを利用すると、次のようなメリットが得られます。
また、M&Aアドバイザーを選ぶ際には、下記の点を考慮することが重要です。
これらの点を基準にM&Aアドバイザーを選ぶと、ゼネコン業界のM&Aをより成功に近付けられます。専門家のアドバイスをもとに、戦略的なアプローチでM&Aを進めることが重要です。
ゼネコンは、設計から施工、研究まで多岐にわたる業務を手がける総合建設業者です。しかし、人材不足や後継者問題などにより廃業する企業も増えており、M&Aが重要な手段となっています。M&Aを通じて廃業を回避しつつ、新たな技術や顧客基盤の獲得が可能です。
また、M&Aの成功には、経験豊富なM&Aアドバイザーのサポートが欠かせません。
レコフは、業界に精通したアドバイザーが事業承継や業界再編をサポートする、M&Aブティックの草分け的存在です。クロスボーダーM&Aにも多くの実績があり、相談料や着手金は無料、完全成果報酬型でサービスを提供しています。ゼネコン業界でM&Aを検討している方は、ぜひレコフへご相談ください。
監修者プロフィール
株式会社レコフ リサーチ部 部長
澤田 英之(さわだ ひでゆき)
金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。
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