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行政書士のM&A動向

業界別M&A

2026.07.24更新日:2026.07.24

行政書士事務所は、許認可申請や書類作成を通じて、企業や個人の事業活動を支える専門職です。一方で、登録者数の増加や業務のIT化が進むなか、従来のビジネスモデルだけでは安定した経営を続けることが難しくなりつつあります。

こうした状況を背景に、近年の行政書士業界では後継者不足への対応や事務所の存続・成長を目的に、同業種や隣接士業とのM&Aを選択するケースが増えています。

当記事では、行政書士事務所の概要と行政書士事務所が抱える課題を整理したうえで、最新のM&A動向や売り手・買い手それぞれのメリット、成功に向けたポイントについて詳しく解説します。行政書士事務所のM&Aを検討しているという人は、ぜひ参考にしてください。

目次
 
 

行政書士・行政書士事務所とは?

行政書士とは、官公署(各省庁、都道府県庁、市・区役所など)に提出する許認可申請書類や、権利義務・事実証明に関する書類の作成を主な業務とする国家資格者です。企業や個人に代わり、複雑で専門性の高い行政手続きをサポートする役割を担っています。

行政書士になるためには、行政書士試験に合格するか、一定の公務員経験などの要件を満たしたうえで、日本行政書士会連合会に登録する必要があります。登録後は、各都道府県の行政書士会に所属することで、独立開業や事務所運営が可能となります。

主な業務内容としては、会社設立、建設業許可、入管・在留資格関連手続き、相続・遺言書作成のサポートなどが挙げられます。取り扱う分野は幅広く、特定の領域や専門業務に特化している事務所も少なくありません。

なお、行政書士事務所とは、行政手続きの支援業務を提供するために開設・運営する拠点のことです。行政書士による個人事務所が中心ではあるものの、業務拡大や組織化に伴い、複数名体制で運営されるケースも増えています。

行政書士事務所と行政書士法人の違い

行政書士は、個人で事務所を構えるだけでなく、複数の行政書士が共同で法人を設立し、「行政書士法人」として活動することも可能です。

行政書士事務所と行政書士法人には、大まかに「組織面」と「運用面」に違いがあります。

●組織面の違い

行政書士事務所は、1人の行政書士が代表となって運営する個人事業であるのに対し、行政書士法人は複数名の行政書士を社員として構成する法人組織である点が大きな違いです。

行政書士法人では、代表社員を中心に、各行政書士の専門分野や実績を活かした役割分担が可能となり、業務の分業化や組織的なサービス提供を行いやすくなります。

●運用面の違い

行政書士事務所は、意思決定の速さや運営の柔軟性が強みである一方、事業承継や人材確保の面では個人に依存しやすい側面があります。

一方の行政書士法人は事業承継や人材採用、拠点展開に柔軟に対応しやすい反面、設立・運営に一定の手続きやコストがかかる点には注意が必要です。

このように、行政書士事務所と行政書士法人にはそれぞれ特性があるため、事務所の規模や将来的な経営方針に応じて適した形態を選択することが重要と言えます。

行政書士事務所が抱える課題

行政書士事務所は、社会や制度の変化に対応しながら安定した経営を続ける必要があります。

しかし近年は、外部環境の変化や業界構造そのものの課題により、従来と同じ形での事務所運営が難しくなっているケースも少なくありません。

そこで次に、行政書士事務所が抱えやすい代表的な課題を4つ紹介します。

行政書士の登録者数増加と人口減少による競争激化

行政書士の登録者数は年々増加しており、業界内の競争は激しさを増しています。

厚生労働省の公表データによると、行政書士数は2020年の8,213人から、2024年には10,957人へと大きく増加しています。

年度行政書士数
2010年 40,475人
2015年 44,740人
2020年 49,708人
2025年 54,261人

(出典:日弁連「日本行政書士会連合会・弁護士白書2019」/
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001424532.pdf

一方で、少子高齢化の進行により、顧客となる人口や事業者数は減少傾向にあります。供給側が増える一方で需要が伸び悩む構造となっており、価格競争や顧客獲得競争がより厳しくなっているのが実情です。

IT・デジタルの発展による需要の伸び悩み

IT・デジタルの発展は、行政手続きの利便性を高める一方で、行政書士の需要を抑制する要因にもなっています。

近年では、インターネット上で行政手続きに関する情報を容易に収集できるようになり、電子申請やオンライン手続きも拡大しました。結果として、「行政書士に依頼しなくても自分で対応できる」業務領域が増え、業務量の減少につながる可能性も指摘されています。

今後もデジタル化が進むなかで、付加価値の提供ができない事務所は需要低下のリスクを抱えやすくなることが大きな課題となっています。

専門特化による差別化と市場縮小のジレンマ

行政書士は扱える業務範囲が非常に広いため、幅広く業務を請け負う運営形態では強みが伝わりにくく、価格競争に陥りやすい傾向があります。したがって、多くの事務所が特定分野に専門特化することで差別化を図っています。

しかし、専門分野を絞ることで対象顧客が限定され、市場規模が小さくなるというジレンマも生じます。差別化と事業規模のバランスが、経営上の大きな課題と言えるでしょう。

行政書士の高齢化と後継者不足による将来的リスク

行政書士の平均年齢は40〜60代と言われています。個人事務所も多く、後継者が決まらないまま高齢化が進むケースも決して珍しくありません。

近年では、将来的な廃業リスクや顧客引継ぎの問題が顕在化しているという背景から、事務所の存続や顧客基盤の維持を目的に、第三者への承継を検討する動きが増えています。

行政書士事務所のM&A動向

行政書士事務所のM&Aは、一般企業のM&Aとは異なり、「資格業・士業」ならではの事情が色濃く反映される点が特徴です。業務の多くが資格保有者個人の専門性や信頼関係に基づいているため、単純な事業の売買とは異なる慎重な判断が求められます。

こうした性質から、行政書士事務所のM&Aは、行政書士同士による同業種M&Aが中心となっています。一方で近年では、事務所の存続を目的とした承継型のM&Aに加え、業務領域の拡大や競争力強化を狙い、隣接士業や親和性の高い分野と統合・グループ化する動きも見られるようになっています。

ここからは、行政書士事務所のM&Aにおいて代表的な2つの動向について解説します。

後継者問題の解決を目的とした同業種M&A

行政書士事務所のM&Aで特に多く見られるのが、後継者不在を背景とした同業種間のM&Aです。前述の通り、行政書士は個人事務所が多く、所長の高齢化が進むなかで、適切な後継者を見つけられず廃業を検討するケースも少なくありません。

しかし、同業種M&Aを選択することで、事務所を廃業せずに引き継ぐことが可能となります。

買い手が行政書士や行政書士法人であれば、業務内容や業界慣行への理解があるため、引き継ぎ後の業務運営も比較的スムーズに進めやすい点がメリットです。売り手は円滑な事業承継を実現でき、買い手は既存顧客や業務基盤を効率的に獲得できるでしょう。

領域の拡大や士業統合を目的とした同業種・隣接業種M&A

近年では、後継者問題の解決にとどまらず、事業成長や競争力強化を目的としたM&Aも増えています。例えば、異なる専門分野をもつ行政書士同士が統合することで、互いの強みを補完し合うケースや、税理士・社会保険労務士など隣接士業との連携を視野に入れたM&Aが挙げられます。

事業基盤の強化を目的としたM&Aを行うことで、自事務所だけでは対応が難しかった業務領域をカバーできるようになり、提供サービスの幅を拡大することが可能です。

特定分野への依存を抑えつつ、安定した経営基盤を構築できる点は、差別化や継続的な成長に課題を抱えやすい行政書士事務所にとって有効な課題解決の糸口となるでしょう。

【行政書士事務所】M&Aによる譲渡(売り手)側のメリット

行政書士事務所のM&Aは、事務所の存続や成長を図る手段として、売り手・買い手の双方にメリットがあります。なかでも売り手側にとっては、廃業リスクの回避や将来設計の選択肢を広げられる点が大きな魅力です。

まずは、行政書士事務所がM&Aによって得られる主なメリットを紹介します。

廃業を回避し従業員の雇用と取引先との関係を維持できる

経営の悪化や後継者不足を理由に、やむを得ず廃業を検討する行政書士事務所は少なくありません。しかし、M&Aによって第三者へ事業を引き継ぐことで、廃業という選択を避けることが可能となります。

事務所が存続すれば、従業員の雇用を維持できるだけでなく、廃業に伴う各種手続きやコストも不要となります。また、顧客との契約関係や業務ノウハウを引き継いだ形で承継が行われるため、長年かけて築いてきた信頼関係を失わずに済む点も大きなメリットです。

売却益(創業者利益)を得られる

M&Aによって事務所を譲渡することで、売却益、いわゆる創業者利益を得ることができます。得た資金の使い道に制限はなく、セミリタイア後の生活資金に充てることも、新たな事業や投資に活用することも可能です。

すでに複数の事業を展開している場合には、売却益を活用して経営資源を再配分し、事業の選択と集中を図るといった戦略的な判断もしやすくなります。

事務所の成長や発展を託せる

M&Aは、単に事務所を手放すための手段ではなく、自らが築いてきた事業の将来を託す選択肢でもあります。新たな経営体制のもとで運営されることで、これまで対応が難しかった分野への進出やサービス体制の強化が期待できます。

結果として、既存顧客への提供価値が高まり新規顧客の獲得につながるなど、事務所が次の成長段階へ進む可能性も広がるでしょう。

【行政書士事務所】M&Aによる譲受(買い手)側のメリット

行政書士事務所のM&Aは、売り手だけでなく買い手にとっても多くの利点があります。新規開業や事業拡大と比べて、リスクや負担を抑えながら成長を目指せる点が、M&Aを選択する大きな理由です。

ここでは、行政書士事務所を譲り受ける側の主なメリットを解説します。

即戦力となる人材と業務ノウハウを一括で引き継げる

M&Aによって、これまで事務所が培ってきた業務ノウハウや実務経験をもつ人材をそのまま引き継ぐことが可能です。新たに人材を採用し、教育を行う場合と比べて、引き継ぎ後すぐに実務を回せる点は大きなメリットです。

許認可業務の進め方や顧客対応のポイントなど、現場でしか蓄積できない知見も引き継がれるため、立ち上げにかかる時間や教育コストを抑えながら、安定した運営を実現しやすくなります。

新たなエリア・業務領域に展開できる

M&Aで行政書士事業を買収し、譲受した事務所が有する顧客基盤や営業エリアを活用することで、新たな地域や専門分野へスムーズに進出できます。ゼロから集客を行う必要がなく、既存顧客との信頼関係や紹介を土台に事業を広げられる点が強みです。

結果として、集客力の向上や売上拡大が期待できるだけでなく、事務所全体の対応力や競争力を高めることにもつながります。

事業を軌道に乗せるまでの時間を大きく短縮できる

M&Aでは、すでに運営実績のある事務所を引き継ぐため、事業の立ち上げや軌道化に要する時間を大幅に短縮できます。許認可業務の体制や顧客対応フロー、事務所運営の仕組みが整った状態からスタートできる点は大きな利点です。

新規開業や新規事業の立ち上げと比べて、試行錯誤の期間を抑えやすく、リスクを抑えた成長が期待できるでしょう。

行政書士事務所のM&Aで注意しておくべき「特有のリスク」

行政書士事務所のM&Aは、多くのメリットがある一方で、一般企業のM&Aとは異なるリスクにも注意が必要です。

行政書士事務所は、売上や設備といった有形資産よりも、顧客との信頼関係や実務経験といった無形資産の比重が大きい業態です。事務所の価値評価や顧客対応、業務の引継ぎ方法を誤ると、想定していた効果が得られない可能性もあります。

そこで次に、行政書士事務所のM&Aにおいて特に注意すべき代表的なリスクを詳しく説明します。

価値を客観的に評価しにくい

行政書士事務所の価値は、売上や利益などの数値だけで判断しにくく、顧客との関係性や実務ノウハウといった無形の要素に大きく左右されます。そのため、評価基準が曖昧なまま交渉を進めると、売り手・買い手の間で事務所価値に対する認識のズレが生じやすくなります。

こうしたリスクを避けるためには、M&Aに精通した第三者の専門家を活用し、客観的な視点で事務所の価値を整理・評価することが重要です。

経営者交代によって「顧客離れ」が起こる可能性もある

行政書士事務所では、代表者個人への信頼を前提に取引が継続しているケースが多く見られます。そのため、M&Aによる経営者交代が、顧客離れにつながるリスクも否定できません。

特に、引継ぎ期間が短かったり、顧客への説明が不十分だったりすると、顧客がほかの事務所との契約に切り替えてしまう可能性が高まります。

円滑な承継を実現するためには、事前の説明や段階的な引継ぎ体制を整えることが不可欠です。

組織体制の変化による業務品質の低下

M&A後は、経営方針や業務フローの変更により、従業員が新しい体制に適応できず、業務品質が一時的に低下するリスクがあります。特に、小規模な行政書士事務所では、一人ひとりの業務負担や役割が大きいため、変化の影響が表れやすい傾向にあります。

M&A後の安定した運営を目指すなら、従業員への丁寧なフォローや、無理のない段階的な体制移行を行うことも重要です。

行政書士事務所のM&Aを成功させるポイント

行政書士事務所のM&Aを成功させるためには、前章で触れた特有のリスクを理解したうえで、事前準備からM&A後の運営までを一貫して見据えることが欠かせません。

最後に、行政書士事務所ならではの事情を踏まえた、M&A成功のためのポイントを紹介します。

自事務所の情報を整理しておく

行政書士事務所のM&Aでは、直前になって準備を始めるのではなく、早い段階から事務所の状況を整理しておくことが重要です。財務状況はもちろん、主な業務内容や顧客層、得意分野などを可視化することで、事務所の強みや課題が明確になります。

各種情報が整理されていれば、買い手は事務所の実態や将来性を正確に把握しやすくなり、評価や条件交渉もスムーズに進みます。結果として、双方の認識のズレを防ぎやすくなり、M&A後のトラブルリスクの軽減にもつながります。

経営方針や価値観の合う譲渡先を選ぶ

M&A後のトラブルを防ぐためには、譲渡条件だけでなく、経営方針や価値観が合う相手を選ぶことが欠かせません。

行政書士事務所は、顧客との信頼関係を基盤として成り立つ事業であるため、事務所の考え方や業務スタイルを理解してもらえる相手であるかどうかが重要です。

短期的な条件面だけで判断せず、長期的な事務所運営を見据えた相手選びが求められます。

段階的な引継ぎを行う

M&Aを行う際は、経営者交代を一気に進めるのではなく、一定期間を設けて段階的に引継ぎを行うことが望ましいでしょう。

旧経営者と新経営者が協力しながら業務や顧客対応を引き継ぐことで、顧客や従業員の不安を軽減できます。結果として、顧客離れや業務の混乱を防ぎ、M&A後の運営を安定させやすくなるでしょう。

M&A後の運営体制と顧客対応を見据えておく

M&Aは、譲渡が完了して終わりではなく、譲渡後の事務所運営こそが本番と言っても過言ではありません。

双方の従業員や顧客が離れてしまわないよう、新体制における役割分担や業務フローを整理するとともに、従業員への説明やフォローを丁寧に行う必要があります。

顧客に対しても継続的なコミュニケーションを行い、信頼関係を維持・発展させていく姿勢が求められます。

M&Aに詳しい専門家のサポートを活用する

行政書士事務所のM&Aを円滑に進めるためには、業界特性や士業特有の事情を理解した専門家のサポートが欠かせません。

契約条件の調整や事務所価値の算定、引継ぎスキームの設計などを第三者の視点で整理してもらうことで、売り手・買い手双方の認識のズレを防ぎやすくなります。

M&Aの相談先には、金融機関や会計士・税理士などの士業のほか、M&Aアドバイザーなどもあります。

まとめ

行政書士事務所は、登録者数の増加や競争の激化、後継者不足など、複雑な経営課題を抱えています。特に、個人経営が多い業界特性上、将来を見据えた事業継続や体制強化が難しいと感じている方も少なくありません。

こうした課題の解決策として注目されているのが、行政書士事務所のM&Aです。M&Aを活用することで、後継者問題の解消や事務所の価値承継、経営基盤の安定化が期待できます。適切な相手とマッチングできれば、顧客や従業員との関係を維持しながら次のステージへ進むことも可能です。

行政書士事務所のM&Aを検討している方は、創業1987年の老舗M&A助言会社の「株式会社レコフ」にぜひご相談ください。

監修者プロフィール

株式会社レコフ リサーチ部 部長

澤田 英之(さわだ ひでゆき)

金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。

 
 
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