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M&A初級編
企業の成長や事業の多角化に伴い、複数の事業やグループ会社を効率的に管理するためには、組織体制を見直すことが重要です。経営と事業運営の役割を整理することで、意思決定の迅速化や経営資源の有効活用につなげやすくなります。
組織再編の手法の1つが「ホールディングス化」です。ホールディングス化には、グループ全体の経営効率を高めやすいといったメリットがある一方、管理コストの増加などのデメリットもあるため、自社に適した方法かを慎重に検討する必要があります。
そこで今回は、ホールディングス化の概要や主な手法から、メリット・デメリット、実行する際の流れ、国内企業の事例まで詳しく紹介します。ホールディングス化について知りたい方はもちろん、ホールディングス化を検討している企業担当者の方も、ぜひ参考にしてください。

ホールディングス化とは、持株会社を親会社として、その傘下に複数の子会社を配置する企業グループの経営形態へ移行することです。
そもそも「ホールディングス(Holdings・HD)」とは、持株会社を意味し、子会社の株式を保有することで、グループ全体の経営方針や戦略、財務などを統括する役割を担います。一方、傘下の子会社は、それぞれが担当する事業の運営を担うのが基本です。
持株会社は、その役割によって主に「純粋持株会社」と「事業持株会社」の2種類に分けられます。
●純粋持株会社
純粋持株会社とは、自ら製造や販売などの事業を行わず、子会社の株式を保有し、グループ全体の経営管理や事業戦略の策定などを担う会社です。一般的に「ホールディングス」という場合は、純粋持株会社を指すケースが多く見られます。
●事業持株会社
事業持株会社とは、子会社の株式を保有して経営を管理しながら、自社でも製造・販売・サービスなどの事業を行う会社です。持株会社としての機能と事業会社としての機能をあわせ持つ点が、純粋持株会社との主な違いです。
ホールディングス化を行う目的は企業によって異なりますが、経営と事業運営の役割を明確にし、グループ全体の経営効率を高めることや、経営資源を適切に配分することなどが代表的です。
また、各事業会社の独立性を確保しやすいため、M&Aによる企業の受け入れや事業再編を進めやすくする目的で採用される場合もあります。

ホールディングス化には、既存会社の事業を子会社へ移す方法や、新たに持株会社を設立する方法など、複数の手法があります。現在の組織体制やホールディングス化の目的によって適した方法は異なるため、それぞれの仕組みや特徴を把握しておくことが大切です。
ここからは、ホールディングス化の主な3つの手法をそれぞれ詳しく紹介します。
既存会社が営んでいる事業を新設した子会社へ移し、既存会社自体を持株会社へ移行させる手法です。会社分割などを活用して事業部門を切り離し、既存会社が子会社の株式を保有する形に再編します。
経営を担う持株会社と実際の事業を担う子会社の役割を分けられるため、グループ全体の経営戦略の策定や各事業の管理に注力しやすくなる点がメリットです。すべての事業を子会社へ移せば、既存会社を純粋持株会社とすることもできます。
複数のグループ会社がすでに存在する場合に、新たに持株会社を設立し、各社の株式を持株会社に集約する手法です。株式移転などの仕組みを活用することで、各社を持株会社の傘下に置き、グループ全体を統括する体制を構築します。
既存の各社を存続させたまま資本関係を整理できるため、それぞれの事業や組織の独立性を保ちながら、グループとして一体的な経営を行いやすい点がメリットです。複数の会社を束ね、経営管理機能を集約したい場合などに適しています。
既存会社の複数の事業をそれぞれ別会社として切り出し、その上位に新たな持株会社を設ける手法です。
事業部門ごとに会社を分けることで、各事業会社がそれぞれの市場環境や課題に応じて事業運営を行い、持株会社がグループ全体の経営戦略や資源配分を担う体制を構築できます。
事業ごとの責任や収益性を明確にしやすく、意思決定の迅速化を図れる点がメリットです。多角的に事業を展開している企業や、将来的な事業再編・M&Aを見据えて組織を整理したい企業にも活用しやすい方法です。

ホールディングス化には、持株会社と事業会社の役割を明確に分けることで経営の効率化を図れるほか、事業リスクの分散や経営人材の育成、M&A・事業承継への対応など、多くのメリットがあります。
ここでは、ホールディングス化によって期待できる代表的なメリットを5つ紹介します。
ホールディングス化することで、持株会社はグループ全体の経営戦略の策定や経営資源の配分などに注力でき、各子会社はそれぞれの事業運営に専念できます。役割分担が明確になることで、グループ全体の経営効率を高めやすくなる点がメリットです。
また、各子会社に一定の権限を委譲すれば、市場環境や顧客ニーズなどの変化に応じて迅速に意思決定しやすくなります。人事・総務・経理などの管理機能を持株会社へ集約し、グループ内の重複業務を減らすことも可能です。
複数の事業をそれぞれ別法人として運営することで、事業ごとにリスクを切り分けやすくなります。特定の事業で業績悪化やトラブルなどが発生した場合でも、ほかの事業への影響を抑えやすいことがメリットです。
また、各社の収益や財務状況が明確になるため、事業単位で経営状況やリスクを把握し、不振事業の売却・撤退・再編なども検討しやすくなります。
ただし、グループ会社間の契約や債務保証などの状況によっては、ほかの会社にも影響が及ぶ可能性があり、リスクを完全に切り離せるわけではありません。
ホールディングス化によって各事業を子会社として独立させれば、それぞれに経営を任せることで、次世代の経営人材を育成する機会を設けやすくなります。
後継者候補などに1つの会社の経営を担わせ、意思決定や組織運営、収益管理といった実践的な経験を積ませることが可能です。
また、グループ各社の株式を持株会社に集約することで、グループ全体の資本関係や経営権を整理しやすくなります。株式の分散を抑えながら、後継者への計画的な事業承継を進めるための手段として活用される場合もあります。
各事業が子会社として独立していれば、グループ全体の組織を大きく変更することなく、子会社単位で買収・売却・統合などを検討しやすくなります。
例えば、M&Aによって取得した会社を新たな子会社としてグループに加えたり、成長が見込まれる事業へ経営資源を重点的に配分したりすることが可能です。反対に、不採算事業を子会社単位で売却したり切り離したりすることも検討しやすくなります。
このように、事業ポートフォリオの見直しや「選択と集中」を柔軟に進められる点も、ホールディングス化のメリットです。
ホールディングス化では、企業の状況や採用する制度によって税務上のメリットを得られる場合があります。
例えば、一定の要件を満たして「グループ通算制度」を適用すれば、グループ内の法人間で損益を通算できるため、グループ全体の法人税負担の軽減につながる可能性があります。
また、事業承継に向けた株式・資産の管理や自社株対策などの一環として、持株会社が活用されるケースもあります。
ただし、ホールディングス化そのものが必ず節税につながるわけではありません。税務上の効果は企業の状況や移行スキームによって異なるため、事前に税理士などの専門家へ相談することが重要です。

ホールディングス化には多くのメリットがある一方で、持株会社や子会社など複数の法人を運営することで、管理面の負担が増える可能性があります。導入を検討する際は、メリットだけでなく、組織体制の変化によって生じる課題についても把握しておくことが重要です。
ここでは、ホールディングス化の代表的なデメリットを3つ紹介します。
ホールディングス化によって法人の数が増えると、それぞれの会社で会計・税務・登記などの手続きが必要となり、管理コストや事務負担が増える可能性があります。
また、人事・総務・経理などの管理部門を各社に設置すれば、業務が重複し、人件費やシステム費などが膨らむ場合もあります。
こうした負担を抑えるには、グループ内で共通する管理機能を持株会社などに集約する方法が考えられます。ホールディングス化を検討する際は、移行後の組織体制や管理方法まで含めて設計しておくことが大切です。
ホールディングス化によって各子会社の独立性が高まると、それぞれが自社の業績や利益を優先し、グループ内での情報・ノウハウの共有が進みにくくなる場合があります。
事業方針のずれや会社間の利害対立が生じれば、期待していたグループシナジーを十分に発揮できない可能性も出てくるでしょう。
各社の独立性を活かしつつ連携を維持するためには、グループ共通の目標や経営方針を明確にすることが重要です。定期的な会議や情報共有の仕組みを設けるなど、会社の枠を越えて連携できる体制を整える必要があります。
子会社の数が増えるほど、持株会社が各社の経営状況やリスクを把握し、グループ全体を適切に統制する難易度は高くなります。各子会社に大きな裁量を与えすぎると、グループとしての経営方針にばらつきが生じる可能性があります。
一方、持株会社による統制を強めすぎれば、子会社の自主性が失われ、ホールディングス化のメリットである迅速な意思決定を妨げかねません。
そのため、権限や責任の範囲を明確にし、子会社の独立性とグループ全体の統制を両立できるガバナンス体制を構築することが重要です。

ホールディングス化は、単純に持株会社を新設したり既存会社を再編したりするだけで完了するものではありません。現在の組織・財務状況の分析から、移行スキームの検討、法務・税務上の各種手続きまで、複数の工程を経て進める必要があります。
また、企業の状況や採用するスキームによって必要な手続きは異なります。弁護士や税理士、司法書士などの専門家と連携しながら、自社に適した方法を検討することが重要です。
ここでは、ホールディングス化の一般的な流れを3つのステップに分けて紹介します。
まずは、自社・グループの事業内容や組織体制、財務状況、株主構成などを整理し、現状の課題を洗い出します。
そのうえで、「経営資源を効率的に配分したい」「事業ごとのリスクを分散したい」「M&Aや事業承継を進めやすくしたい」など、ホールディングス化によって実現したい目的を具体化します。
目的が曖昧なままでは、自社に適した移行スキームや組織体制を判断しにくくなります。現在の課題を解決することだけにとらわれず、今後の事業展開やグループ全体の成長戦略なども踏まえ、将来的にどのような経営体制を構築したいのかまで明確にしておくことが大切です。
次に、ホールディングス化の目的や現在の組織・株主構成などを踏まえ、具体的な移行スキームを検討します。代表的な方法には「株式移転」「株式交換」「会社分割」などがありますが、それぞれ仕組みや適したケース、法務・税務上の取り扱いが異なります。
移行方法だけでなく、持株会社と各子会社の役割分担や資産・負債の取り扱い、移行後の組織図などもあわせて設計することが重要です。
また、スキームによっては税負担や株主への影響が生じる可能性もあります。必要に応じて税理士や弁護士などの専門家に相談し、税務シミュレーションや法務面の確認を行ったうえで計画を具体化します。
移行スキームが固まったら、株主や従業員、取引先などの関係者に、ホールディングス化の目的や新たな組織体制、今後の方針などを説明します。
必要な理解や承認を得たうえで、採用する手法に応じて株主総会などでの機関決定、登記、税務・労務上の手続き、許認可の変更・承継などを進めます。
また、ホールディングス化は新体制へ移行すれば終わりではありません。移行後は、持株会社と各子会社の権限・責任の範囲や情報共有のルールなどを整備し、適切に運用していく必要があります。
当初設定した目的が達成できているかを定期的に確認し、必要に応じて組織体制や運用方法を見直すことも重要です。

ホールディングス化は、大企業だけでなく、複数の事業会社を抱えるさまざまな企業グループで採用されています。目的は企業によって異なりますが、経営と事業の役割分担を明確にすることや、意思決定の迅速化、各事業の競争力強化などが代表的です。
最後に、国内企業におけるホールディングス化の事例を2つ紹介します。
●パナソニック
パナソニックは、2022年4月に持株会社体制へ移行し、商号を「パナソニック ホールディングス株式会社」へ変更しました。移行の背景には、各事業の競争力を高め、中長期的な企業価値の向上を図る狙いがあります。
持株会社はグループ全体の戦略立案や各事業会社の支援などを担い、各事業会社には大幅に権限を委譲しています。経営と事業の役割を分け、各社の責任と権限を明確にすることで、外部環境の変化に応じた迅速な意思決定や、それぞれの事業特性に適した運営を目指しています。
●村本建設グループ
村本建設グループは、2026年6月に「ムスブホールディングス株式会社」を設立し、ホールディングス体制へ移行しました。グループ各社の強みや専門性をさらに活かしながら、迅速な意思決定と持続的な成長を実現することを目的としています。
新設されたムスブホールディングスはグループ全体の経営戦略の策定や経営管理を担い、各事業会社はそれぞれの専門分野に注力する体制となりました。事業領域の拡大なども見据え、グループ全体の成長につなげる方針を掲げています。
ホールディングス化には、経営効率の向上やリスク分散、経営人材の育成、M&A・事業再編の柔軟化などが期待できる一方、管理コストの増加やガバナンスの複雑化といった課題もあります。
導入する際は、目的を明確にしたうえで、自社に適したスキームを選ぶことが重要です。また、ホールディングス化を含む組織再編では、将来的なM&Aや事業ポートフォリオの見直しまで踏まえて検討することも大切です。
「株式会社レコフ」では、長年にわたり培ってきた知見やネットワークを活かし、M&Aに関する幅広い支援を行っています。M&Aや事業再編についてお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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