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食品卸売業界の現況とM&A動向

業界別M&A

2026.10.19更新日:2026.10.19

食品卸売業界は現代生活と切り離せない食品流通にかかわっていて、大手から中小まで多数の業者が存在しています。物流や消費行動の変化とも関係が深く、複雑な課題が多く存在する業界です。

食品卸売業界では大手企業を中心にM&Aが活発に実施されており、異業種や海外企業とのM&Aを行うケースも見られます。

今回は食品卸売業界の特色と市場規模・課題を説明した上で、業界のM&A動向や譲渡・譲受それぞれのメリット、M&Aを成功させるポイントなどを解説します。

目次
 
 

食品卸売業界とは?

食品卸売業界とは、農作物・水産物・食肉・加工食品などの食品を仕入れ、小売業者・メーカー・飲食店などに卸売を行う「食品卸売会社」で構成される業界です。食品卸売会社の基本的なビジネスモデルは、食品の仕入れ値と販売価格の利ざやによって利益を上げる仕組みとなっています。

食品卸売業界は一部の取扱品を除き、特別な許認可や専門的かつ特殊な知識が不要です。事業の参入ハードルはやや低い傾向があり、大手メーカーや大手小売業者ではグループ会社が食品卸業を展開するケースも増えています。

また、大手小売業者・メーカーは大手食品卸売会社と、小~中規模の小売業者・飲食店は中小食品卸売会社と取引することが慣習です。

食品卸売業界の特色

食品卸売は多くの種類の食品を仕入れ、全国各地の顧客に販売する業態であるため、他の業種には見られない独自の特色があります。食品卸売業界にかかわりを持つ方は、業界ならではの特色を理解しておきましょう。

食品卸売業界に見られる特色を2つ紹介します。

商流内での立ち位置によって3つの種類に区分される

ひとくちに食品卸売業界と言っても業界内は多層構造となっていて、商流内における立ち位置によって3つに種類分けがされています。

(1)一次卸(元卸業者)

生産・製造業者から食品を直接仕入れる事業者です。仕入れた食品は小売業者・メーカーや二次卸に販売します。

(2)二次卸(中間卸業者)

一次卸から食品を仕入れて、三次卸へと販売する事業者です。

(3)三次卸(最終卸業者)

二次卸から食品を仕入れて、小売業者やメーカーなどに販売する事業者です。

一次卸が商品を収集し、二次卸・三次卸によって全国に分散されることで、食品の効率的な取引・流通を実現しています。

売上原価率・販売コストが高い

売上原価率・販売コストが高い点も、食品卸売業界の特色です。

仕入れた食品の保管・輸送・販売が主な業務であるため、商品に付加価値を加えにくく、売上高を押し上げられない点が売上原価率の高さにつながっています。

販売コストの高さは、温度管理ができる倉庫・輸送車といった設備や高い配送頻度、ドライバーなどの人員が必要である点が理由です。

食品卸売は収益性が伸ばしにくい業種であり、業界上位に位置する企業であっても経常利益率は1%を切る水準となっています。

【食品卸売業界】市場規模の推移

経済産業省が公表するFBI(フード・ビジネス・インデックス)によると、食品卸売業界の市場規模は下記の表の通りに推移しています。

年名目事業規模
2023年 104兆980億円(※1)
2024年 110兆3,360億円(※1)
2025年 113兆1,590億円(※2)

(※1出典:経済産業省「2024年飲食関連産業の動向」/
https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/minikeizai/pdf/h2amini171j.pdf)

(※2出典:経済産業省「2025年 飲食関連産業の動向」/
https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/minikeizai/pdf/h2amini175j.pdf)

市場規模は2023年の104兆980億円から、2025年には113兆1,590億円へと順調に拡大しています。特に2023年から2025年にかけての伸びは大きく、成長率は約9%です。

また、2025年におけるフード・ビジネス全体の事業規模試算値は237兆4,410億円でした。そのうち113兆1,590億円は食品卸売業界であるため、食品卸売業界の市場規模は食品事業全体の約48%を占めています。

2025年はFBIの指数値が94.1(前年比▲2.3%)と4年ぶりに低下しました。
また、食品卸売業を含む「食料品流通業」の指数値は2021年から右肩下がりとなっており、収益性が低い食品卸売業界の現況を表しています。

食品卸売業界の現況と今後の課題

食品卸売業界は市場規模が拡大を続けているものの、現在の業界には特有の問題・課題が発生しています。物流コストの高さや収益性の低さなど、経営継続に大きな支障が出る課題もあるため、対策を考えることが重要です。

食品卸売業界の現況と今後の課題として、3つのポイントを解説します。

ドライバー不足によって物流コストが上昇傾向にある

近年の日本は物流業界全体でドライバーの成り手減少が深刻化しており、食品卸売業界もドライバー不足に悩まされています。ドライバーは仕入れ・販売する食品の輸送に欠かせない人員であり、ドライバーが十分に確保できなければ食品卸売は成立しません。

また、2024年4月からは自動車運転業務について「時間外労働の上限規制」が適用されたため、ドライバーの残業時間を減らす取組を各物流企業が行っています。
ドライバー不足と残業時間抑制への対応によって物流コストは上昇傾向にあり、食品卸売業界の収益率はさらに低下するおそれがあります。

小売業の大規模化によって直接取引が拡大傾向にある

スーパー・コンビニエンスストアなどの小売業が大規模化し、メーカーや一次卸から直接商品納入をしてもらう直接取引が拡大傾向にあります。直接取引は二次卸・三次卸を介さない商品流通であり、地域の中小食品卸売会社にとって大幅な売上減少につながる問題です。

大規模化した小売業が直接取引を進める理由は、流通マージンによる小売価格の高騰を避けるためです。物流コストの上昇によって食品卸売会社は流通マージンを上げざるを得ず、結果として小売業の直接取引が加速する流れにつながっています。

また、小売業界がM&A先として物流業界・卸売業界を選択し、食品流通を自社一貫で行うケースもあります。

フルファンクション化やM&Aの実施が大きな課題となる

物流コストの上昇や小売業の直接取引増加に加え、食品卸売業界には人口減少による食品卸売業の需要減少・横這いといった課題もあります。

食品卸売業界を取り巻く厳しい環境を乗り越えるには、フルファンクション化やM&A戦略の検討といった対策が欠かせません。

フルファンクション化とは、食品卸売の業務を多機能化し、取引先の要望に応えられる体制を整えることです。取り扱い商品の幅を全分野に広げる「フルライン化」などの方法があり、取引先のニーズを満たして市場競争力の強化ができます。

もう1つのM&A戦略は、事業拡大・課題解決などを目的として、大手企業の傘下に入ったり関連業界と提携したりする方法です。1社では対応が難しい食品卸売業界の課題も、M&Aで他社と提携することで解決を目指せます。

食品卸売業界におけるM&A動向

食品卸売業界は大手から中小まで多数の企業が事業展開をしており、実施されているM&Aには複数のスタイルが存在します。

食品卸売業界でM&Aを検討する際は、自社がどのスタイルのM&Aを選択するべきかをあらかじめ考えておきましょう。

ここからは、食品卸売業界における主なM&A動向を3つ紹介します。

事業拡大・業界再編を目的とした食品卸売会社同士のM&A

食品卸売業界では、食品卸売会社同士のM&Aが活発に行われています。事業拡大・業界再編が主な目的です。

特に業界再編の動きは2011年頃から起こっており、大手による買収・経営統合や中小食品卸売会社同士の合併・提携などのケースがあります。

食品卸売会社同士のM&Aは、取り扱う食品分野・提供地域の拡大や、二次卸・三次卸という構造の解消ができる方法です。フルファンクション化や流通マージンの抑制につながり、取引先の小売店・メーカーに新たな価値を提供できます。

市場変化への対応・販路拡大を目的とした隣接業界とのM&A

食品卸売業界の隣接業界には食品製造業界・物流業界・小売業界・飲食業界などがあり、M&A先として隣接業界の企業を選ぶケースも多く見られます。

隣接業界とのM&Aは、市場環境の変化に対応しやすくなり、顧客層・販売チャネルを広げられることで販路拡大ができる方法です。

具体的な例としては、食品メーカー・スーパーなどとの業務提携や、レストランチェーンの株式取得が挙げられます。

隣接業界ではないものの、Webサービスの運営を行うIT企業とのM&Aも行われており、DX推進や商品露出機会の増加が期待できます。

大手食品卸売会社による海外企業とのM&A

日本国内では人口減少による食品卸売業界の需要減少が予測されているため、大手食品卸売会社では将来的な需要維持が期待できる海外への進出も進められています。

特にアジア圏への進出が目立っており、アジア企業の買収や提携を目指すM&Aが盛んです。

海外企業とのM&Aでは、主に現地の食品卸売会社がM&A先として選ばれています。海外進出には現地の慣習への理解やネットワークが必要となるため、現地の食品卸売会社が持つノウハウ・人脈を活用できるM&A戦略が重要です。

【食品卸売業界】M&Aによる「譲渡(売り手)側」のメリット

M&Aによるメリットは、会社や事業を売却する譲渡側と、購入する譲受側とでそれぞれ異なります。

譲受側の立場でM&Aを行う際は、特に食品卸売業界の課題解決につながるメリットがあるかを確認しましょう。

以下では、食品卸売業界のM&Aによる譲渡側のメリットを4つ紹介します。

(1)大手企業への参入によって経営基盤が強化する

大手企業を譲受側とするM&Aを実施すると、大手企業傘下への参入によって経営基盤が強化できます。収益性の低さや、仕入れから販売までのタイムラグがある卸売業特有の資金繰りの難しさを、M&Aで解決可能です。

大手企業が持つブランド力・ノウハウ・デジタル技術などを取り入れられる点も、大手企業とのM&Aのメリットです。食品卸売業界はデジタル化の恩恵が大きい業界であり、M&AによってDX推進の流れを作れば業務効率化・生産性向上につながります。

(2)販売コストの削減につながる

M&Aによって食品卸売会社が子会社化すると、親会社の経営基盤を活かして大量仕入を実現できる可能性があります。従来の仕入れよりも仕入費用や輸送費用を抑えられるようになり、販売コストの削減につながります。

食品卸売業界のビジネスモデルは売上原価率・販売コストが高く、取引数を増やしても手元に利益を残しにくい点が課題です。M&Aによって販売コストの削減を実現することにより、収益性の改善ができます。

(3)事業承継によって後継者の不足問題を解決させられる

日本企業の多くは後継者問題を抱えていると言われています。食品卸売会社の経営者も、自身の高齢化によって後継者を探しているものの、社内に適切な後継者を見つけられないケースがあるでしょう。

M&Aで事業承継をすると、譲受側の企業から経営者を迎えられるため、後継者の不足問題を解決できます。食品卸売会社の廃業・倒産が回避でき、取引先との取引継続や、従業員の雇用維持につながる点もメリットです。

(4)株式・事業の売却によって創業者利益が得られる

M&Aで株式・事業を売却すると、経営者は創業者利益が得られます。食品卸売会社は独自のコネクションや設備・人員が存在するため、価値を高く評価してくれる譲受側の企業に売却すればまとまった額の創業者利益が得られるでしょう。

食品卸売会社は収益性が低く、経営者の手元に資金があまり残っていないケースがあります。M&Aによってまとまった額の創業者利益を得られれば、リタイア後の生活資金を確保したり、新規事業の資金に充てたりと自分の思い通りに使うことが可能です。

【食品卸売業界】M&Aによる「譲受(買い手)側」のメリット

M&Aによる譲受側のメリットは、食品卸売会社同士でのM&Aを行うか、隣接業界など異業種とのM&Aを行うかによって違いがあります。適切なM&A先企業を決めるには、譲受側のメリットを把握することが大切です。

次に、食品卸売業界のM&Aによる譲受側の代表的なメリットを3つ説明します。

(1)シナジー効果が得られる領域への進出が可能となる

食品卸売会社が譲受側となって隣接業界とのM&Aを実施すれば、シナジー効果が得られる領域への進出が可能となります。

食品製造業界・小売業界とのM&Aであれば仕入れから販売までを一貫して行うことが可能です。飲食業界とのM&Aでは、自社で仕入れた食材を使用したメニューの提供体制が作れるでしょう。

譲渡側企業の選び方によっては、新商品開発や流通にかかわる新しいシステムの構築を行える可能性もあります。業績向上・コスト削減につながる新しい価値創造ができる点もメリットです。

(2)事業に必要な経営資源をまとめて獲得できる

食品卸売会社が事業拡大を目指すには、設備・人材や新しい取引先といった経営資源を増やす努力が必要です。M&Aを行うと事業に必要な経営資源をまとめて獲得できるため、事業拡大の実現性を高められます。

特に人材は採用・育成に多くのコストが必要であり、取引先との良好な関係を構築できるようになるには時間もかかります。M&Aによる優秀な人材の獲得は、取引先との関係維持や販路拡大にもつながる重要なメリットです。

(3)業界における優位性が高まる

二次卸・三次卸の食品卸売会社は、地方に強い仕入れ・販売ルートを持っているケースが多い傾向にあります。食品卸売会社同士でのM&Aで二次卸・三次卸の食品卸売会社を子会社化できれば、地方の仕入れ・販売ルートを獲得でき、業界における優位性が高まるでしょう。

また、譲渡側企業が取り扱っている食品が、自社での取り扱いがない食品であれば、販売商品の幅を広げられて市場シェアを伸ばせます。

【立場別】食品卸売業界のM&Aを成功させるためのポイント

最後に、食品卸売業界のM&Aを成功させるためのポイントを立場別に解説します。

【譲渡側のM&Aポイント】

  • M&Aで実現したい目的を明確化する
  • 食品卸売会社としての強み・アピールポイントを整理する
  • M&Aは時間がかかることを認識し、計画的に進める

食品卸売業界がM&Aを実施する目的には「事業拡大」「市場変化への対応」「販路拡大」などがあります。目的によって選択するスキームや候補先企業が異なるため、自社の目的を明確化することが大切です。

M&Aには多くのプロセスが必要であり、完了まで時間がかかります。M&Aの検討を始めてからクロージングまでに1年以上かかることもあるため、早い時期から計画を進めるとよいでしょう。

【譲受側のM&Aポイント】

  • 相手業界の慣習やルールを理解する
  • 譲受側の取引関係を調べておく
  • デューデリジェンスでリスクの洗い出しを行う

食品卸売業界のM&Aを行う際は、業界の慣習やルールを理解しなければなりません。

例を挙げると、食品卸売会社が仕入先のメーカーとの間に特約店契約を結んでいるケースがあります。特約店契約はメーカーとの強固な関係を築ける一方、他社商品を取り扱いにくい、販売額目標が設定されているなど、M&A後はデメリットにもなり得る契約です。

M&A候補先選びでは、相手企業の取引関係やリスクを入念に調べることが重要と言えます。

M&Aを実施する際は業界知識のほか、会計・税務・法務についての専門知識が求められます。買い手企業・売り手企業をスムーズに探せる広いネットワークも必要です。

卸売業界のM&Aを円滑に進めるためには、M&Aアドバイザーを利用することがおすすめです。M&Aアドバイザーを利用すると企業のM&Aについてサポートやアドバイスを得られるほか、保有するネットワークによりM&A先候補企業の紹介設けることが出来ます。

まとめ

食品卸売業界には直接取引の増加や物流コストの上昇といった課題があり、対策としてM&Aが活発に行われています。

主要なケースは、事業拡大・事業再編を目指す同業他社とのM&Aや、市場変化に対応するための隣接業界とのM&Aです。大手企業は海外企業とのM&Aも実施しています。

食品卸売業界は独特の業界構造や慣習があり、M&Aをスムーズに行うには業界に詳しいM&Aアドバイザーの利用がおすすめです。

株式会社レコフはさまざまな業界のM&A成約をサポートしてきた実績があり、食品卸売業界のM&A相談にも対応しております。

監修者プロフィール

株式会社レコフ リサーチ部 部長

澤田 英之(さわだ ひでゆき)

金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。

 
 
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