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M&A初級編
M&Aとは企業の合併・買収のことですが、近年では不動産取引を目的にM&Aを行う「不動産M&A」が新しい手法として注目を集めています。売り手企業にとっては通常の不動産売却に比べ節税効果が高く、売却にかかるコストも抑えられるためメリットの多い手法です。
この記事では、
など不動産M&Aの基礎知識や売り手・買い手それぞれのメリット・メリットをご紹介し、注意点もまとめています。
不動産を取り巻くビジネス環境が変わる中で、不動産M&Aの知識はますます重要になっている状況です。しかし、不動産M&Aと不動産売買の違いや税務面での影響など、基本的なことがよく分からない方も多いでしょう。不動産M&Aについて知ることで、所有している物件を低コストで手放せる/入手できるようになります。
不動産M&Aに興味のある企業経営者の方はぜひご一読ください。
不動産M&Aとは、法人が所有する「不動産」の獲得を主な目的として行うM&Aのことです。一般的なM&Aの目的は資産・事業を継承する際に不動産も取得しますが、不動産M&Aは、不動産取引を行ったうえで、事業を継承します。稀に不動産会社とのM&A取引を「不動産M&A」と呼ぶケースもありますが、基本的には、不動産を所有する法人であれば業態を問わず不動産M&Aの取引が可能です。
不動産M&Aと不動産売買の大きな違いは、譲渡対象となる対象物と課税対象にあります。不動産売買では直接不動産が譲渡されますが、不動産M&Aでは不動産を保有する会社の株式が譲渡対象です。この違いにより、取引の性質が大きく異なります。
税務面では、不動産売買では不動産売却益が課税対象となりますが、不動産M&Aでは株式譲渡益が課税対象です。不動産売買の場合、会社清算時には所得税が発生しますが、不動産M&Aでは株式の譲渡代金を直接得られるため、税金の面で節税効果が期待できます。
さらに、不動産M&Aでは不動産の所有権移転に伴う不動産取得税や、登録免許税が発生しません。会社の株主が変わるだけで、不動産の所有者は変わらないためです。
また、不動産売買の場合は不動産のみが精査対象ですが、不動産M&Aでは不動産に加えて会社も精査対象となります。これにより、より高度な専門知識が必要で、取引自体に手間がかかります。
不動産M&Aの対象となるのは、不動産を保有する企業です。これには、不動産事業を行う企業だけでなく、事業の一環として不動産を保有している企業も含まれます。
例えば、オフィスビルや商業施設、住宅地などを保有する不動産会社はもちろん、自社ビルを持つ製造業や流通業なども対象です。また、廃業を検討している企業が保有する不動産もM&Aの対象となることがあります。不動産M&Aは不動産だけではなく、その不動産を所有する企業の資産や負債、従業員も含めて取引の対象となる点が特徴です。
近年、不動産M&Aが注目を集めています。その理由の1つとして、事業の後継者不足・人手不足による廃業の増加が挙げられます。帝国データバンクが発表した「全国・後継者不在企業動向調査」によると、2023年時点で後継者がいない事業は53.9%と半数以上を占めています。今までは「同族承継」が多かったのですが、同調査によると、「第三者承継」を選択する企業が増えています。ここで言う「非同族(他人)」への継承方法として、M&Aが用いられているのです。
特に、不動産を所有する企業を廃業する場合、M&Aを行うことは売り手企業に大きなメリットがあります。 廃業をするとなると、企業で所有する不動産の売却が必要です。しかし、通常の不動産取引を行うと損をするケースがあります。通常の不動産取引は、不動産売却益に対して、30%程の法人税がかかります。さらに、余剰金を株主に配当すると、オーナーには最大で45%の所得税がかかってしまい、手取りが少なくなってしまうのです。
しかし、法人の株式譲渡で不動産も含めて法人を譲渡するM&Aで取引を行うと、株式の譲渡益に20%程の税金がかかるだけで済みます。不動産を売却したい企業にとってM&Aの方が有利なこともあるのです。
不動産を保有する企業を法人から建物まですべて含めて売買することで、不動産を単純に売買するよりも高い節税効果を得られる可能性があるという点で、不動産M&Aが注目を集めています。
不動産M&Aには、売り手企業・買い手企業ともにメリットがあります。買い手が請け負うリスクが大きい故に売却が難しいという課題をクリアする必要はありますが、不動産M&Aの良い取引先が見つかれば、売り手・買い手ともに金銭的なメリットがあります。
<取引先別の不動産M&Aメリット・デメリット>
取引先 | メリット | デメリット |
---|---|---|
売り手企業 | ・節税効果が高い ・廃業コストを削減できる ・現金化しやすい |
・売却に手間と時間がかかる ・売却先が限られる |
買い手企業 | ・節税効果が高い ・物件取得を有利に進められる |
・見えないリスクがある ・労力・コストがかかる |
売り手企業にとってもっとも大きなメリットは、「不動産売却益」に対する法人税・所得税がかからないという点で節税効果が高いところです。通常の不動産取引を行うと、売却益に対して法人税・所得税が課されます。一方、M&Aによる不動産取引を行うと、「株式譲渡益」に対して一律20.315%の所得税・住民税が課されるだけで済みます。「株式譲渡益」に対する課税のほうは税率が低く、手元に多くの金額が残るのがメリットです。
廃業時には、解散登記をはじめさまざまな登記の処理や賃貸の原状回復、設備の処分、厚生年金保険や雇用保険の廃止手続きを行うなど煩雑な処理に追われ、コストもかさみます。しかし、M&Aで事業譲渡した場合にはこれらの処理が不要になるというのがメリットとして挙げられます。売り手側は不動産を含めた事業を丸ごと売却する形になるため、廃業コストがかからないのです。
シンプルに廃業を選ばないことは、コスト以外のメリットもあります。「先代あるいは自身が創りあげた事業を潰したくない」という思いを持ちながらも後継者に恵まれなかった企業にとっては、有利に不動産と事業を手放す手法といえるからです。
好条件の立地に不動産を持っていても、オーナーが必ずしも高い収益を得ているとは限りません。自社ビルを建てて自分たちで使っているというケースも往々にしてあります。価値の高い不動産はそれだけ固定資産税も高くなるので、何とか収益性を出したいというのが正直なところです。その際に、不動産M&Aを利用して売却することで、より多くの現金が手元に残る形で売却することが可能です。
また、非上場企業の場合、市場に株式を公開していないため株主を募って資金を得るという手法が使えません。そのため、株式の現金化がしにくいと言えます。そのため、不動産M&Aによって不動産だけでなく株式も譲渡することで、非上場株式を現金化できます。
不動産M&Aでは買い手との交渉・株主総会会議・買収監査(デューデリジェンス)など、通常の不動産売却では行わないスキームがあります。廃業をする手間はかかりませんが、オーナーの同意を得たり買い手企業による監査の手が入ったりと、不動産M&Aとして会社を譲渡する以上はそれなりの手間と時間がかかるのがデメリットです。
不動産M&Aによる不動産の譲渡には、M&Aの性質上、6~12ヶ月ほどかかります。また、手続きには期限が設けられていることが多いので、計画的にスケジュールを立てたうえでM&A取引に臨みましょう。
売り手にとってM&Aを行う最大のリスクは、「売却先が見つからない」という状況に陥ることです。不動産M&Aでは、不動産だけではなく事業継承も同時に行います。そのため、譲渡を望んでいても経営状況が思わしくない場合は、なかなか買い手が見つからないといったケースがあるのです。経営状況が悪い場合は買い手が交渉上は有利となるため、売却価格を安くするよう交渉されることも珍しくありません。
もし、不動産売却の方法としてM&Aを検討されているなら、通常の不動産売却でどれくらい利益が出るか、M&Aを行うメリットがあるかをよく考えて実行に移す必要があります。また、M&Aに臨む際には簿外債務の解消や経営状況の改善に注力し、企業価値を上げておくことも大切です。
買い手のメリットは、売り手と同様に「節税効果が高い」という点です。例えば、不動産を購入した場合は登録免許税、不動産取得税、登記申請、不動産登記費用などの処理や費用が発生します。しかし、不動産取引ではあるものの、あくまで「事業」の譲渡・譲受を行うM&Aでは、登記の変更こそ必要ですが、取得税や登録免許税は発生しません。そのため、通常の不動産売買で取引するよりも比較的安価に好条件の不動産を入手できるのです。
買い手にとって不動産M&Aは、通常の不動産取引よりも安く不動産を手に入れるチャンスです。不動産M&Aは売り手の手取り額が増えるというメリットがある一方で、買い手にとっては手間が増えるというデメリットがあります。それを踏まえたうえで交渉をすれば、売却価格を調整することもできるでしょう。
また、売り手のデメリット②でも触れましたが、もし売り手企業の業績悪化が発覚した場合、あるいは後継者問題など売り手側の都合によって売却を急いでいるケースにおいては、それを理由に売却価格の引き下げ交渉を行うことも可能です。さらに、通常M&Aでは独占交渉権を求めることができるため、売り手からの同意を得られれば、競合を気にせず取引に注力できるというメリットもあります。
買い手は不動産だけではなく、売り手企業の事業継承まで行います。つまり、未払賞与、リース債務、あるいは訴訟中の案件など帳簿上に現れない「簿外債務」も含めて継承しなければならないということです。
そのために行われるのが、第三者が売り手企業の財務や労務などを監査するデューデリジェンスです。見えないリスクを引き受けて事業が暗礁に乗り上げるのを防ぐためにも、買い手はデューデリジェンスを徹底して、購入予定の企業に見えないリスクがないかどうかをチェックする必要があります。
しかし、売り手は簿外債務が存在していないことを表明・保証することが多いため、デューデリジェンスや最終契約の後で簿外債務が見つかった場合には、契約違反を追及することができます。見えないリスクを避けるためにも、デューデリジェンスの徹底と簿外債務が存在しないという表明・保証の項目を契約に含めることが大切です。
通常の不動産売買であれば、不動産の評価・調査だけで良いのですが、事業継承も同時に行うため、買い手のデメリット①で触れた簿外債務について調べるための財務・法務の調査(デューデリジェンス)に労力とコストを割かれてしまうというデメリットがあります。通常の不動産取引であれば3~6ヶ月程度で完了しますが、不動産M&Aになると6~12ヶ月はかかる取引になるのです。不動産取引を第1の目的に置いている場合は、これらの労力・コストをかけても不動産取得をするメリットがあるかどうかをよく考えたうえ購入希望を伝えましょう。
買い手は会社を丸ごと引き受けるリスクを踏まえたうえで、購入希望企業のリスクを隅々まで把握することが不動産M&A成功のカギとなります。買い手が注目するべきリスクは、主に以下3点です。
簿外債務リスクの中には、「確定申告の内容が間違っていた」として修正申告を要するケースもあります。買い取ってから修正申告の必要性に気づくということがないよう、買収前にデューデリジェンスできちんと調査しておき、売り手側で対応するように依頼しておくと良いでしょう。
また、そもそも「不動産」そのものに問題がないかどうかも調査しておく必要があります。境界トラブルや著しい劣化、あるいは土地汚染など様々な事情で、買収後すぐに多額の修繕費や手続きが発生するケースもあります。そのような事態に陥らないように、購入予定の不動産そのものにリスクが無いか調査しておき、先んじて対策を講じておく必要があります。
さらに、引き継いだ後の人材流出リスクにも予め手を打っておくことをおすすめします。M&Aの目的が不動産取引であっても、売り手企業に優秀な人材がいればそのまま引き継ぎたいと思うケースもあります。しかし、M&Aに反発されることもあるため、私的な理由で離職してしまう可能性も否定できません。人材の継承にも注力するのであれば、あらかじめ面談をして、継承後も会社に残ってくれるかどうか確認を取っておくと安心です。
場合によっては、売り手企業を丸ごと買収するのではなく、事業の一部を継承することもあるかもしれません。その場合は、「会社分割」を行って事業を買い手企業へ継承します。会社分割とは、権利・義務の一部もしくは全部を別の会社に承継することを指し、新規設立した会社へ事業承継する「新設分割」と既存の会社へ事業を承継する「吸収分割」に分けられます。不動産M&Aでは「新設分割」が多く用いられます。
不動産M&Aの取引が成立したら不動産を所有するための完全子会社を設立し、株式を新設分割した企業へ譲渡するという形を取ることで、手続きの簡略化が可能です。
不動産売買に売買や会社清算を選ぶか、あるいは不動産M&Aにするかによって税金の扱いが大きく変わります。不動産M&Aによる節税効果を期待するのであれば、どのケースでどの税金がかかるかを理解しておきましょう。
ここでは、不動産M&Aによって発生する税金をケース別に解説します。
<「不動産売買」にかかる税金>
不動産売買にかかる税金には、譲渡側と譲受側それぞれ以下のような税金が課せられます。譲渡側の税金 |
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◆法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税 売却で得た利益に対して課税され、税率は合計で約30%~34%です。 ◆消費税 土地の取引では非課税ですが、建物には消費税が課せられます。 |
譲受側の税金 |
◆不動産取得税
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<「会社清算」にかかる税金>
会社を廃業し解散する場合、資産を処分して換金、債務を返済した後、残った財産を株主に分配します。分配される残余財産は、「譲渡部分」と「配当部分」に分けて所得税が課されます。
残余財産に関連する税金は以下の通りです。
◆法人税など
残余財産がプラスであれば、法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税などが課税されます。税率は合計で約30%~34%です。
◆消費税
資産の売買には、土地や有価証券など非課税の取引を除き、消費税がかかります。
◆所得税
残余財産を株主に分配した際、譲渡部分は一律20%の所得税が、配当部分は株主の年間所得合計額に応じた所得税が課されます。
法人税などで引かれる割合と所得税率を考慮した場合、最終的に残余財産の大部分が税金として徴収され、株主の手取り額は相対的に少なくなる可能性があります。
<「株式譲渡スキームの不動産M&A」にかかる税金>
株式譲渡スキームの不動産M&Aでは、主に譲渡側に課税されます。
◆申告分離課税
株式譲渡益に対して、約20%が課税されます。
◆消費税・印紙税
不要です。
◆所得税
株式譲渡の対価から必要経費を差し引いた金額が株主の譲渡所得となり、所得税がかかります。
株主の譲渡所得にはいくつかの計算方法がありますが、会社の清算を予定している場合は清算後の残余財産額を株主価値とみなすやり方が一般的です。譲渡対価は最終的に交渉で決定され、基本的に残余財産額と同等になる傾向にあります。
譲受側には、M&Aの実施時点で特に課税は発生しません。ただし、後に不動産を売却する場合の売却益には法人税などが課せられます。また、子会社となった売り手企業を解散し清算する際にも、特に課税の影響はありません。
<「新設分割+株式譲渡スキームの不動産M&A」にかかる税金>
新設分割を利用した不動産M&Aスキームで通常課せられる税金は以下の通りです。譲渡側の税金 |
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◆継承する資産や負債の譲渡損益に対する法人税 ◆株主へ対価を交付する場合の配当所得に対する所得税 |
譲受側の税金 |
◆不動産承継のための不動産取得税 |
ただし、新設分割が組織再編税制の適格要件を満たす場合、上記の税金は非課税となります。適格要件は、新設会社の株式が株主の持分比率に応じて交付される、売り手企業の全株式が支配株主によって占有されていることなどです。
さらに、次の要件を満たせば不動産取得税も課されません。
・分割事業の主要な資産が新設会社に移転済みである
・新設会社でも事業が継続される
・新設会社でも80%以上の従業員が継続雇用される
新設分割に続いて行われる株式譲渡に関しては、株式譲渡のみのスキームと同様の税務処理が行われます。このため、新設分割+株式譲渡スキームの不動産M&Aは、税金面でのメリットを享受しやすいと言えるでしょう。
税務上の扱いが複雑になり、不動産M&Aの実施が困難となる可能性が高いのは、下記2つのケースです。
株式譲渡が短期所有土地の譲渡と判断されるケース |
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以下のいずれかの条件に該当すると、
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税務調査により新設分割が租税回避行為と指摘されるケース |
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「包括的な租税回避行為防止規定」により、 |
不動産M&Aを検討する際には、税務上のリスクを適切に管理し、合理的な事業再編を目指さなければなりません。
不動産M&Aは、ただでさえ幅広い専門知識を要するM&A案件に加えて、不動産取引の知識も必要になる煩雑な取引です。通常のM&A案件に加えて、不動産取引にも精通する経験豊かな専門家を探しましょう。
レコフは、1987年に創業してから上場企業・中小企業を問わず
さまざまなM&A案件の支援に携わってきました。
中小企業のM&Aはもちろん、上場企業同士のM&A案件にも
着手してきた経験を生かして助言いたします。
また、案件の分野ごとに専門家を交えた
チーム・業界に詳しいスタッフを編成しているため、
M&Aの目的や業界に合わせて柔軟なサポートが可能です。
不動産M&Aの仲介を検討されている企業経営者の方は、
ぜひレコフへご相談ください。
詳しくはこちらのレコフの強みでご覧いただけます。
監修者プロフィール
株式会社レコフ リサーチ部 部長
澤田 英之(さわだ ひでゆき)
金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。
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