Useful

M&Aにおけるクロージングの重要性

M&A初級編

2024.08.15更新日:2024.08.15

M&Aを完了させる「クロージング」を行う時期には、主要な交渉や手続きが済んでいるため、大した苦労はないだろう、と思っている方も多いかもしれません。しかし、中にはクロージングを実行できずM&A取引が破談になった事例もあり、主な交渉や手続きが済んでいたとしても、気が抜けないのがクロージングという手続きです。

この記事では、

  • クロージングの内容
  • クロージングの前提条件の重要性
  • クロージング後の手続き

などについて解説します。この記事を読めば、M&Aにおけるクロージングに関する基礎知識から、クロージング後の手続きまでの流れが理解できます。すでにM&Aを実行されている実務担当者の方や、M&Aをご検討中の企業経営者は是非ご一読ください。

目次

M&Aにおけるクロージングとは?

M&Aにおけるクロージングは、最終契約書に基づく手続きを実行し、M&A取引を完了させる手続きのことです。最終契約でクロージング実行の条件として定め、条件が整ったことを確認してからクロージングが実行されます。

クロージングの手続きには準備を要するため、最終契約から1ヶ月以上後に行われることがほとんどです。ただし、最終契約の時点で、既に取引実行条件を満たしている場合、条件を満たしていなくても後日手続きを完遂させることに互いが合意している場合は、最終契約日にクロージングを行うこともあります。

クロージングは、「株式譲渡」、「事業譲渡」、「株式交換」、「第三者割当増資」などM&Aスキーム(手法)の違いによって手続きが異なります。 例えば「株式譲渡」の場合、株式の引き渡しと対価の支払いによってクロージングが完了します。一方、「事業譲渡」では、第三者の承認を得ながら資産・負債や権利・義務を1つずつ移管していく必要があるため、クロージングの手続きが複雑になりやすく、時間もかかります。

クロージング実行条件の重要性

M&Aにおいて最後に締結する「最終契約」では、M&Aの実施方法やクロージングの実行条件を定めており、最終契約書には、売り手・買い手が交渉の末に譲れないと考えている条件を記しています。基本的には、実行条件が整わない限りクロージングを行うことはできません。最終契約書に記載するクロージングの前提条件には、下記のような内容が含まれます。

<クロージング実行条件の例>

前提条件内容
表明保証が真実・
正確であるか確認する
最終契約書には「表明保証」が記され、当事者や対象企業について記載された事項が真実・正確であることを表明し、内容を保証します。クロージングを行う前に、表明保証の内容に誤りがないようチェックします。
重要な役員・
従業員から転籍の同意を得る
経営権の移動に伴い、役員・従業員が退職する可能性は否定できません。役員・従業員の中に退職してほしくないキーマンがいる場合は、事前に転籍の同意を得ることが条件に組み込まれます。
重要な取引先から
契約承継の同意を得る
取引先から契約継承の同意を得ることが条件にあり、取引先企業との契約内容に「経営権の移動」への言及が存在しない場合は、書面や口頭で承諾を得ることができます。
COC(チェンジ・オブ・コントロール)条項の対応 重要な取引先との契約内容に、経営権の移動があった場合の対応について言及した条項「COC条項」が含まれている場合は、取引先に通知・承認が必須であったり、契約内容の解除が認められていたりするため、クロージング前に対応しなければなりません。
業務上の許認可の
取得・届出
A実行で経営権が移動するにあたって業務上の許認可の取得・届出を要する場合は、前提条件に定められます。
非事業用資産の
買い取り
特に「株式譲渡」の場合は売り手企業のすべてを買収することになるため、非事業用資産をM&Aから除外するため、売り手に買い取ってもらう旨を最終契約に組み込むこともあります。

前提条件はM&A取引の目的によって異なりますが、中には手続きだけで数日かかるような条件も多く含まれています。そのため、M&A取引では、最終契約の締結から取引実行まで最短でも1ヶ月、長い場合は半年以上の充足期間が設けられます。

ただし、軽微な条件が達成されず、クロージングが行えないという事態を避けるため、全ての条件が満たされなくても取引を実行すると合意するのが一般的です。その際には、双方でこれだけは確実に実行してほしいと交渉・契約した「履行条件」を設定し、履行条件が充足された時点で取引が成立します。

クロージングの主な手続き

前提条件の充足が完了したら、クロージングを実行します。M&Aスキームごとにクロージングの手続きは異なりますが、いずれのスキームでも売り手は株式・資産などを買い手に移管し、買い手は売り手に対して対価を支払う清算手続きとなります。

株式譲渡

「株式譲渡」は、株式の移転によって企業そのものを売買する取引です。このスキームでは、売り手からの株式譲渡と、買い手による対価の支払いによってクロージングが行われます。株式譲渡はもっともクロージングが簡易的であり、小規模な取引であれば1~3日程度で手続きが完了します。株式譲渡では、以下の流れでクロージングが行われます。

  • 株式譲渡承認請求
  • クロージングに必要な書類の提出
  • 対価の支払い
  • 株主名簿の書き換え
  • 臨時株主総会による役員決定

株式譲渡では、原則として株券の交付が必要です。売り手企業が株券を発行している場合には原則通り株券を交付し、株主名簿の書き換えを行います。一方、売り手が株券を発行していない場合は、株式を交付する必要はなく、最終契約書で対価支払いと同時に株式譲渡を行うことを明記するだけで、株式譲渡が成立します。

ただし、ほとんどの中小企業は、株式譲渡について制限を設けているので、株式譲渡を実行する場合は取締役会あるいは株主総会で承認を得なければなりません。また、株券の交付がない場合は、効力の生じている事実を第三者に対して明らかにするため(対抗要件の具備)、株式名簿の名義を書き換えることが重要になります。

事業譲渡

事業譲渡とは、企業そのものではなく、事業や資産の一部だけを売買するM&Aスキームです。事業譲渡のクロージングは株式譲渡と似ていますが、資産・負債・権利などを1つずつ移管させる必要があるため、手続きが煩雑になります。小規模な「事業譲渡」であれば、最終契約と同日にクロージングを実行することも可能です。しかし、第三者からの承認を得なければならない手続きもある大規模な「事業譲渡」の場合、クロージング日にすべての移管が完了していないケースもあります。

事業譲渡の場合、クロージング日までに実行しなければならない手続きは、法律上ありません。もしクロージング日にすべての移管が完了していない場合は、契約内容に留意しながら引き続き移管手続きを実施することになります。

合併

合併には、既存企業と合併して1つになる「吸収合併」と、新設企業と合併し、既存企業が消滅する「新設合併」の2種類があります。「吸収合併」も事業譲渡と同様に、合併の効力発生日(クロージング)のタイミングで法律上必須となる手続きはありません。もし効力発生日を変更する場合は、前日までに「効力発生日変更公告」で周知する必要があります。

「新設合併」の効力を発生させるためには、新設会社の登記が必要です。新設合併で効力発生日を指定したい場合は、法務局で登記できる日をクロージング日に指定し、その日のうちに登記を済ませなければなりません。

会社分割

会社分割には、事業を切り離して既存企業へ継承させる「吸収分割」と、新設企業に継承させる「新設合併」の2種類があります。吸収分割では、最終契約で示した前提条件が整っていれば、吸収分割が成立し、買い手が売り手に対して株式を交付します。ただし、後から効力発生日を変更する場合は、前日までに変更を広告する必要があります。

一方、新設分割も合併と同じく「設立登記」をもって、分割の効力が発揮されます。最終契約書で効力発生日を明記することは可能ですが、新設会社が登記されない限り効力は発生しません。

株式交換・株式移転

株式交換・株式移転は、既存会社を親会社・子会社の関係にするために行うM&Aスキームです。株式交換では、売り手がすべての発行済株式を買い手に取得させることで、完全親子会社の関係になります。一方、株式移転は組織再編で用いられる手法です。新たに会社を新設し、既存会社を完全子会社とします。クロージング手続きは、合併や会社分割と似ていますが、これらよりも比較的簡便な手続きとなります。

株式交換では、最終契約で定めた前提条件が充足されていれば、効力発生日に株式交換が成立します。ただし、何らかの事情で、株式交換の効力発生日を変更したい場合は、前日までに広告にて周知しなければなりません。株式移転では、合併や会社分割と同様に、新設会社の登記が完了しない限り、株式移転の効力が発生しない点に注意しましょう。

第三者割当増資

第三者割当増資とは、第三者に新株を受け取る権利を買い取ってもらうことで、資金調達を行う手法です。特に、上場していない中小企業でよく用いられます。しかし、中小企業の多くは、株式譲渡に制限を設けている「譲渡制限会社」に該当します。譲渡制限のある会社が第三者割当増資を行う場合は、株式総会を開いて決議を行わなければなりません。

株式譲渡に制限がない企業であれば、取締役会の決議によって、第三者割当増資をクロージングできます。ただし、第三者に対して乖離幅10%よりも安い、無償で新株を発行するなど「有利発行」とみなされるケースでは、株式総会による特別決議が必要です。

クロージング後の経営統合がM&Aの成功を左右する

クロージングの後は「PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)」と呼ばれる買収後の統合プロセスを行います。M&Aは、2つの企業・事業を1つに統合する取引であるため、これまで全く別の社風、別のやり方で業務を行ってきた企業同士を無計画に統合させてしまうと、現場に混乱が生じ、システム障害が生じたり、重大なミスが多発したりする可能性が高くなります。そうなると、業績悪化を招くばかりではなく、優秀な顧客や社員が離れたり、内部対立による事業低迷に陥ったりするリスクも考えられます。

このような事態を避けるため、PMIによって、「経営」と「業務」、そして「意識」の3つを統合するための準備を整えておく必要があるのです。M&Aというと、取引が成約(クロージング)するかどうかに大きな注目が集まります。しかし、買い手企業にとってはクロージングを終えたあとにもM&Aの成否を左右しかねない重要なプロセスが控えています。買い手企業は、クロージングの手続きを進めるのと当時に、PMIの準備も進めておくことが大切です。

M&A検討段階で専門家に相談しよう

M&Aでは、相手先企業の選定から成約後の統合まで、それぞれのプロセスに不備がないよう実行する必要があります。売り手・買い手ともに、最終契約書に基づく実行条件を履行することで、初めてクロージングの実行が可能です。さらに買い手企業は、クロージングと並行してPMIの準備を進め、M&A後の事業に支障が出ないような、統合プロセスを進めておかなくてはなりません。

取引実行までに要する専門知識は多岐に渡るうえ、M&Aスキームの違いによってクロージングの方法は異なります。また、買収価格や基本的な条件については、初期段階で締結する「基本契約書」の内容から、大きな変更が加えられることは滅多にありません。M&Aを円滑に進めることも大切ですが、自社のためになる取引を行いたいとお考えの場合は、M&Aを検討するタイミングでアドバイザーに助力を求めるのが良いでしょう。

1987年から続く
M&A仲介業者・レコフの強み

レコフは、1987年に創業してから
20,000社を超える企業と関わりを持つM&A仲介会社です。
規模を問わず、様々なM&A案件に携わり、支援を行ってきました。
中小企業のM&Aだけではなく、
上場企業同士の複雑なM&A案件にも関わった経験を応用して、
中立的なM&Aの相談役としてM&Aの成約をサポート致します。
また、長年の経験で得た独自ネットワークを活かして、
相手先企業の選定も承っております。
M&Aをお考えの企業経営者の方は、ぜひお気軽にご相談ください。
詳しくはこちらのレコフの強みでご覧いただけます。

監修者プロフィール

株式会社レコフ リサーチ部 部長

澤田 英之(さわだ ひでゆき)

金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。

M&Aを知る最新記事

選ばれる理由

  • 創業1987年の老舗イメージ画像
    1

    創業1987年の老舗

    レコフは日本にM&Aという言葉が広まる前から創業している歴史あるM&A助言会社で、豊富な実績がございます。

  • 業界トップクラスの成約件数実績イメージ画像
    2

    業界トップクラスの
    成約件数実績

    創業以来、1,000件以上の案件の成約をサポートして参りました。M&Aブティックの草分けとして様々な案件に携わってきた経験を蓄積し、新たなご提案に活用しております。

  • 約2万社の顧客基盤数イメージ画像
    3

    業界に精通した
    アドバイザーがサポート

    プロフェッショナルが業界を長期間担当し精通することにより、業界の再編動向、業界を構成する各企業の歴史や戦略、トップマネジメントの人柄に至るまで、対象業界に関する生きた情報を把握しております。

ご相談無料

M&Aのことなら、
お気軽にご相談ください。

お電話で
お問い合わせ

電話アイコン
03-6369‐8480

営業時間 / 平日9:00〜18:00