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業界別M&A
国内需要の伸び悩みや国際競争が激化し、厳しい状況に置かれているのが昨今の鉄鋼業界です。そんな鉄鋼業界の業界再編の手段として、M&Aが注目されています。
この記事では、
などについて解説いたします。この記事を読めば、苦境に立たされる鉄鋼業界の現在や、この苦境を乗り越えるために「業界再編」が進みつつある実情、そして業界再編を成功させる手段として、M&Aが注目を集めていること、などについて分かります。鉄鋼業界におけるM&Aの動向や、すでにM&Aで転身を遂げた企業の実例も紹介しています。近い将来、M&Aの導入を検討中の、鉄鋼業界の経営者の方にとっても有益な情報ですので、ご一読をおすすめ致します。
2000年代初頭まで、日本製鉄をはじめとした国内の大手製鉄会社の経常損益は右肩上がりの状態でした。しかし、2010年代に入ってから徐々に低迷を見せています。2020年2月には、国内外でトップクラスの企業規模を誇っていた「日本製鉄」が5,000億円近くの損失を計上しました。400億円の黒字が見込まれていたところから一転しての赤字決算でした。この発表は鉄鋼業界のみならず、多方面にショックを与えました。続いて同社は、子会社が運営する「呉製鉄所」を2023年9月に全て閉鎖しました。
こうした苦境を受け、当時国内の鉄鋼業者は「設備の大規模削減」を迫られており、生産量の調整を目的に高炉を停止したり、社員のボーナスを平均25%削減したりという対応に追われていました。
しかし、鉄鋼業界が国内経済を支える重要な産業であることは変わりありません。2022年11月に発表された経済産業省の資料「鉄鋼業の現状について」によると、鉄鋼業界は製造業全体のGDPの約8%を占めていると報告されています。これは金額にして6兆円以上となり、鉄鋼業界が産業全体に与える影響は決して小さくありません。
海外企業との競争が年々激化しているのも、鉄鋼業界の特徴です。特に大きな影響力を持っているのが、成長が著しい中国企業です。中国の鉄鋼業者が鉄鋼製品を過剰生産することで、世界的に鉄鋼製品の価格が低迷している状態にあります。その生産能力は増強し続けており、今後さらに競争が激化することが予測されています。世界経済の影響を受けやすい分野であるだけに、国内だけでなく国外を見据えた業界再編が必要となってきているのです。
鉄鋼業界は国内需要の伸び悩みや国際競争の激化を受け、新たな成長戦略の打ち出しを迫られています。そこで重要なのが「業界再編」です。業界再編とは、企業の吸収合併や統合によって業界内のパワーバランスに変化が起こることを指します。
一般的によくみられるのが、業界をリードする大企業が業界再編を主導するケースです。このケースをみて、「なぜ安泰にみえる大企業が積極的に業界再編に乗り出すのか」と考える方もいるのではないでしょうか。大企業の安泰はいつまでも続くものではありません。全業界のうち約10%にあたる業界は、毎年のようにトップ企業や周辺の勢力図が入れ替わるといわれているからです。
そんななかで1つのビジネスモデルに固執していると、成長が停滞するのは想像に難くありません。近年は海外企業が国内進出してくるケースも増え、同じやり方を通すだけではシェアを奪われるリスクがあるのです。この状況を受け、新たな成長戦略の一環としての業界再編が注目されています。
業界再編が起こる背景には、業界のライフサイクルがあります。業界のライフサイクルとは、業界が生まれる「導入期」に始まり、衰退する「最終期」に終わる一連の流れを指します。ライフサイクルには「導入期」「成長期」「成熟期」「最終期」の4段階があり、業界再編が起こるのは成長期から成熟期への移行段階であることがほとんどです。
特に分かりやすいのが、「成熟期」を迎えた業界の動向です。業界が成熟期を迎えると、大手企業によるローカルで活躍する優良企業の買収や、中小企業による成長戦略としてのM&Aが増えてきます。これによって業界再編が進み、業界内での勢力図が変化するのです。
業界再編の手段として有効なのがM&Aです。M&Aとは企業同士の売買や吸収合併、統合といった戦略のことで、事業承継問題の解消や事業の多角化等、様々なメリットがあります。業界再編を目的としたM&Aは、鉄鋼業界をはじめ建築や物流、ITなどの業種で行われています。近年ではこれらの業界だけでなく、食品や外食業界でも業界再編が進んでおり、多くの業界で業界再編M&Aが注目されています。
業界再編を目的としたM&Aが起こる要因は、業界のライフサイクル以外にも様々なものがあります。以下で、特によくみられる背景・要因をまとめました。
業界の中でリーディングカンパニーが出現すると、その企業が描くビジョンやビジネスモデルに賛同する中小企業も現れるものです。そうなると中小企業が大手企業の傘下に入るケースも増え、結果として業界再編M&Aが進みます。
技術改革は、業界のパワーバランスに大きな影響をもたらします。その刺激に乗じて、業界再編を意識した企業によるM&Aが活発化するのです。
景気が良いと、会社の拡大を検討する企業が増えます。大手企業が中小企業を傘下に入れて事業を強化したり、中小企業が生存戦略の一環でM&Aを行ったりして業界再編が進みます。
市場の縮小も、業界再編を進める要因になります。縮小する市場に対応するため、M&Aによって経営地盤を強化したり規模を拡大したりする企業が増えます。M&A案件が増えることで業界内のパワーバランスがアップデートされ、業界再編が促進されます。
異業種が業界へ参入してくると、業界内の競争が激化します。それに伴って業界内の勢力図が変化し、業界再編を意識する企業も増えるのです。
国をあげての規制改革も、業界再編を促す要因の1つです。規制改革が起こると価格競争や異業種による参入が増え、それまでのパワーバランスが変化します。その結果、自社の生き残りやさらなる発展を見込んだ業界再編M&A案件が増加するのです。
地方では、人口減少によって業界再編M&Aが増えるケースも報告されています。例えば2020年には、新潟県の地方銀行である「第四銀行」と「北越銀行」が経営統合を行いました。この事例の背景には、地域の人口減少に伴って資金の貸出先が減少し、銀行としての利益を単独であげにくくなったことがあります。
鉄鋼業界は、昭和時代からM&Aが活発だった業界でした。特に有名なのは、日本製鐵株式會社(現・日本製鉄株式会社)の事例です。日本製鐵株式會社が生まれた当時は、財閥や老舗企業によるグループ再編・業界再編が活発だった時期です。そんな中、昭和9年(1934年)に複数の民間企業と官営八幡製鉄所の合併により誕生したのが「日本製鐵株式會社」でした。その後の鉄鋼業界は大きく躍進し、昭和の日本経済を支える産業へと成長します。しかし昭和末期から平成初期にかけて少しずつ低迷を見せ、業界全体に危機感が募っています。
昭和時代から令和に至るまで、鉄鋼業界ではM&Aが活発に行われています。以下では、鉄鋼業界のM&A事例の一部をまとめました。
八幡製鉄と富士製鉄が合併したのは1970年です。両社の合併によって、現在の日本製鉄の前身である「新日本製鉄」が誕生しました。当時は、鉄鋼メーカー同士の価格競争が巻き起こっている真っただ中で、企業同士の消耗や、需要と供給のバランスのひずみが問題視されていました。八幡製鉄と富士製鉄の合併は、こうしたひずみの解消と競争力の向上を目的に行われた事例です。
こうして発足した新日本製鉄は、70年代のオイルショックや80年代のプラザ合意による円高から多大な影響を受けながらも躍進を続け、2019年には「日本製鉄」への転身を遂げています。
共英製鋼は、海外M&Aを積極的に進めている鉄鋼メーカーです。2016年には米国の鉄鋼メーカー「BD Vinton」を子会社化し、2018年にはベトナムの鉄鋼メーカー「VIS」を子会社化しました。直近の例を挙げると、2020年2月にカナダの「MCアルタスチール」の電炉事業を買収しています。同社は、日本製鉄と同じく設立以来さまざまなM&A案件や転身を経てきた鉄鋼メーカーです。時代に合ったM&Aを実施することで業界再編に大きく貢献し、現在まで躍進を続けているといえます。
2019年3月に、新日鐵住金(現・日本製鉄)が山陽特殊製鋼の株式を全取得して子会社化した事例です。両社が持つ業界ネットワークの活用や生産性の向上など、さまざまなシナジー効果を見込んでM&Aへ踏み切ったと報告されています。
鉄鋼商社である小野建が、森田鋼材の株式を全取得し完全子会社化した事例です。森田鋼材は鉄筋コンクリート用のパーツ加工・販売を行っており、小野建は同社のノウハウや技術力、販売基盤の取得を目的にM&Aを実施。技術力・競争力の強化にもつなげています。
こちらは2018年に実施されたM&Aの事例です。セイワ工業による東栄コーティングの事業継承M&Aです。セイワ工業は鉄鋼製品の一貫生産をはじめ、溶接や加工を行う企業でした。一方の東栄コーティングは自動車部位のコーティングを行うメーカーで、経営状態は安定していたものの後継者不在という課題を抱えていたのがポイントです。セイワ工業の代表は後継者不在の解消と両社のシナジー効果を見込んだうえで、経営権の獲得へ臨んだと報告しています。
また、同社代表は2025年問題に対する展望も描いています。2025年問題とは、127万社の中小企業が廃業危機に見舞われると予測される問題のこと。2025年問題の背景には後継者不在による廃業があり、同社代表はM&Aによる事業承継および支援、業界再編が急務だと報告しています。
業界再編M&Aは、自社だけでなく自社が置かれている業界そのものに影響を及ぼす取引です。適切なタイミングで取引が行えるよう、以下のポイントを意識するとよいでしょう。
業界再編M&Aが起こりやすいのは、成長期から成熟期にかけての期間です。最終期に入ると売り手市場は終わってしまい、取引が思うように進みません。自社や自社の置かれる業界のライフサイクルを見極め、取引のタイミングをうかがうことが大切です。
業界の最新動向を常にチェックすることも重要です。特に大手企業の動きは、業界のパワーバランスに大きな変革をもたらします。流れに乗り遅れないためにも、大手企業の動向にしっかりアンテナを立てておきましょう。
業界再編M&Aを成功させるためには、ゴールや目的を明確にすることが大切です。M&Aを行うこと自体を目的とするのは本末転倒。「従業員の処遇はどう決めるか」、「どのようなシナジー効果を期待するのか」といったビジョンを明確に持つことがM&A成功の秘訣です。
国内上場企業9割以上のM&Aを仲介業界再編M&Aは、業界の最新動向や国際的な視点が求められる取引です。当然ながら、売り手企業と買い手企業だけで手続きを完結させるのは難しいものです。手続きが思うように進まなかったり、利益よりも損害が大きくなったりすることも十分に考えられます。そこで活用すべきなのが、専門知識とノウハウを持ったM&A専門会社です。
株式会社レコフは、1987年の創業以来
大小さまざまな規模のM&A案件に携わってきた老舗です。
上場・未上場企業を含めると、
合計20,000社以上の企業と接触しております。
長年の経験で培った独自のネットワークを活かした、
高い提案力が魅力です。
国内の上場企業約3,500社のうち、
9割以上の企業のM&A相談役として活躍してきた経緯があります。
また、各業界の最新動向に詳しいのもレコフの強みです。
上場企業同士の業界再編M&Aをはじめ、
海外企業を相手に行うクロスボーダーM&A案件にも携わっています。
これまでの経験やノウハウに頼りきることなく、
常に業界の最新動向へアンテナを張って知識をアップデートし続けています。
M&A案件には、専属チームを編成したうえで対応。
戦略立案から適切なマッチング企業の選定・ご提案、
各種実務のサポートを実施しています。
各分野の専門知識を持ったチームによる
一貫してサポートするので、安心してご相談いただけます。
詳しくはこちらのレコフの強みをご覧ください。
監修者プロフィール
株式会社レコフ リサーチ部 部長
澤田 英之(さわだ ひでゆき)
金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。
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