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M&A初級編
シナジー(synergy)は、2つ以上のものが相互に作用して1つの効果・機能を高める「相乗効果」や「共同作用」を意味する英語です。シナジーはもともと生理学の用語ですが、薬品や物理の共力作用などさまざまな分野で使われる言葉であり、業務提携・合併など2つのものが合わさるケースが多いビジネスでは特に多く聞かれます。
この記事では、
などについて解説します。シナジー効果はM&Aにおいて、売上増加やコスト削減が期待できる重要な概念です。M&Aで得られるシナジー効果を理解するためにも、M&Aをご検討の企業経営者の方はぜひご一読ください。
「合併と買収(Mergers and Acquisitions)」という意味がある通り、M&Aは2つ以上の会社・事業を組み合わせてシナジー効果を狙うビジネス戦略です。M&Aで得られるシナジー効果には、以下のような種類があります。
同じ業界に存在する2つ以上の会社・事業が1つになると、単純に決算が連結されるだけでなく、販路が増えて経営規模が大きくなり、売上のシナジー効果が現れます。A社の販路でB社の製品を売り、B社の販路でA社のサービスを提案するといったクロス・セリングも可能です。また、大規模展開を進めることで特定の市場に展開する製品・サービスの数が増え、市場における影響力を強められるというのもメリットとして挙げられます。
「市場支配力」とは、自社製品・サービスの販売価格に対する影響力のことです。例えば「自社の製品・サービスの供給を減らした場合、価格・サービスの価格をどれくらい引き上げられるか?」という点も市場支配力によるため、売上増加の重要な要素の1つといえます。どの企業であれ市場支配力は多かれ少なかれ持っているものですが、同業界の合併・統合で規模を拡大することでより市場支配力の強化が図れるのもシナジー効果の一種といえるでしょう。
合併・統合では「コスト面」でも有利に働きます。例えば、製品を少なく作っても多く作っても、オフィス・工場の賃料や清算に直接かかわらない人件費にかかる固定費は変わりません。したがって、企業規模あるいは生産・販売の規模を拡大する戦略は、製品1つあたりのコストを減らす効果をもたらします(規模の経済)。
また、1つの企業が複数の製品・サービスを取り扱うほうが、それぞれの企業が販売するよりもコストを削減できます(範囲の経済)。Amazonや楽天に代表される大手ECサイトや各コンビニエンスストアが多数の製品を取り扱っているのも、そのほうがコスト上有利になるからです。
M&Aでは交渉を重ね、簿外債務リスクを避けるために買収監査(デューデリジェンス)を実行します。どちらかというと、買い手のコストや手間が増加する取引といえるでしょう。もし売り手企業が簿外債務を持っていたら、それを背負うリスクも存在します。
それでも買い手がM&Aをわざわざ選ぶ理由は、M&A後に「買収価格以上の成果を得られる」というシナジーを考慮しているからです。単純なスケールメリットを得る「1+1=2」の考えではなく、お互いの事業が良い方に作用し合うことで「1+1=3」以上になるような著しい売上増加・コスト削減などの効果を生むシナジー効果を確信しているからこそ、M&Aが敢行されます。
企業にとってプラスとなるシナジー効果がある一方で、相互にマイナスの作用を与える「負」のシナジー効果も存在します。マイナスの影響を与える効果は、シナジーに対して「アナジー(Anergy)」と呼ばれます。M&Aは、うまく使えば飛躍的な成長を遂げられるチャンスですが、買い手があらゆるリスクを放置した状態でM&Aを実行するとコスト増加・売上低迷や人材流出に見舞われ、事業をわざわざ窮地に追い込むことになりかねません。
だからこそ、シナジー効果を狙ってM&Aを行う場合にはデューデリジェンスによって慎重に譲受企業を診断し、最終契約を結ぶかどうかを判断しなくてはならないのです。
「シナジー」は漠然とした概念ですが、M&Aにおいては重要項目の1つです。M&Aの最終条件交渉時点で予想されるシナジーはすべて抽出されます。その理由は、「シナジー効果で得られる予想売上額」と「実現にかかるコスト」を「実現可能性(%)」で割り引くという形で定量化したうえで企業評価が算定され、企業統合計画の判断材料に組み込まれるからです。シナジー効果を得るのは買い手が中心ですが、売り手にもシナジーが想定されるのであればそちらも考慮されます。
しかし、シナジーを考慮した企業価格評価が買収価格として合意されることはほぼありません。なぜなら、買い手はM&Aで多くのコストやリスクを背負う立場にあるため、労力に見合わない買い物に感じられるからです。そのため、シナジーを考慮しない買収価格よりも高額にはなりますが、シナジーを含めた企業価格よりも低い買収価格で最終合意されるケースがほとんどです。
「シナジー」とひとくちにいっても実に多様です。そのため、以下のようなフレームワークを用いて抽出・分類する方法があります。基本的には買い手が買収価格を算定する目的で用いられるフレームワークですが、売り手にとってはより良い条件で譲渡できる企業を探す手掛かりになるでしょう。
「アンゾフの成長マトリックス」とは、事業の成長・拡大戦略を考えるためのフレームワーク。組織の成長・拡大に欠かせない「市場」と「製品」を4つに分け、どの戦略が効果的か模索するためのツールです。
それぞれの潜在リスクを考慮しながらアンゾフの成長マトリックスを用いることで、「自社に足りない戦略は何か」、「M&Aの実行で4つある戦略のうちどれが強化されるのか」といった成長戦略を描いていきます。
<アンゾフの成長マトリックス>
M&Aでは、売り手からもたらされる製品・技術・市場といった「新規」のフェーズを取り込むことで、どれくらいのシナジーを得られるかが成功の鍵を握るケースもあります。M&Aによってどの戦略を強化したいのか、あるいは売り手企業が持つノウハウや技術がどれほど自社の戦略に貢献するかを分析する際に適したフレームワークといえます。
PPMは経営分析を行う手法の1つ。複数の事業を抱える企業が、事業・製品の組み合わせを模索し、資金分配を判断するためのフレームワークです。縦軸に「市場の成長性」、横軸に「市場シェア」を置き、事業・製品が4つのエリアのどこに位置するのかを分析していきます。
<プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント>
事業・製品は「問題児」、「花形」、「金のなる木」の順番で成長を遂げるのが理想的です。もし事業の成長を見据えるのであれば、成長性はないもののシェアの高い「金のなる木」で資金繰りをしながら「花形」や「問題児」に投資していくことになります。M&Aを行う際には、足りない要素を補填してくれるパートナー企業を探す必要があります。
PPMで市場シェア・市場成長率がともに低いと判断された「負け犬」に属する事業は負のシナジー効果を誘発しかねないため、早めに撤退したほうが良いと思われるかもしれません。事実、損切りをしてでも撤退するべきケースも存在します。しかし、「社会貢献」という第三の軸を加えた場合、著しく存在価値の高い事業・製品になる可能性もあるのです。アンゾフの成長マトリックスもそうですが、2つの軸で見る2次元マトリックスには限界もあります。だからこそ、複数のマトリックスを使い、多角的に評価を下す必要があるのです。
ここでは具体的にM&Aでシナジー効果を得た企業をご紹介します。「アンゾフの成長マトリックス」の提唱者であるイゴール・アンゾフは、「企業が持続的な優位性を確立するためには多角化(新規顧客に新規製品を売る)戦略が必要である」と位置づけています。
M&Aで飛躍的に成長を遂げた企業として「ニデック」は外せません。ニデックはモーターの製造・開発事業に特化した企業ですが、M&Aで事業を拡大する際も徹底的に「モーター」に関わる企業とのM&Aにこだわってきました。自社の強みを強化するような戦略が、部品調達や技術開発の一元化によるコスト削減シナジーや販路拡大による売上シナジーに繋がり、M&Aによる売上の合算にとどまらない成果をあげています。
富士フイルムはまったく異なる業界とのM&Aによって生き残り、戦略に成功した企業といえます。以前は写真用フィルムで名を知らない者はないというほどの確固たる地位を築き上げた企業ですが、カメラのデジタル化に伴いフィルムが使われなくなるにしたがって事業の存続が危ぶまれていました。そんな時に富士フイルムが出した結論は「新しい事業」を模索することであり、バイオ・医療という、まったく新しい分野でM&Aを行っていき、従来持っていた写真フィルム技術と組み合わせた製品の研究・開発に心血を注ぎました。その結果、現在の富士フイルムには「カメラ・写真」、「複合機・プリンター」と並ぶ「ヘルスケア・高機能材料」という第三の事業を確立するに至ったのです。
M&Aにおける「シナジー」とは、2つ以上の企業を合併・統合させることで「1+1=3」以上の成果が期待できる相乗効果のことを指します。日本電産や富士フイルムといった企業はM&Aによるシナジー効果で成功を収め、時には危機から脱しています。
一方で、せっかく合併・統合したのにかえって業務が煩雑になったり売上が低迷したりといった負のシナジー(アナジー)が生じるケースも往々にしてあるのです。売り手企業の場合は、M&Aの前に事業の見直し・改善・修正を行うことで好条件の取引ができます。買い手企業は「M&Aによってどれくらいのシナジー効果が見込めるのか?」を、フレームワークなどを用いて具体的に把握し、交渉の材料に用いることで、事業をより飛躍的に成長させられるでしょう。
しかし、M&Aにおいては、シナジー効果が見込める取引企業とマッチングをするだけでも骨の折れる作業です。何度も交渉を重ねながらデューデリジェンスを実行し、「本当にシナジー効果が見込めるのか」や「どれくらいのリスクがあるのか」を早めに判断しなくてはなりません。また、契約を締結して合併・統合を進めたからといって、いきなりシナジーが発揮されるわけでないのが、M&Aの難しいところです。
合併・統合して得られる効果を最大限に活かすためには、経営・業務・従業員の意識までを速やかに統合しなければならず、M&A終了後の処理となるPMI(ポスト・マージャー・イングレーション)がM&Aの成否を握るとさえ言われています。マッチングして、契約を結んでも、やることは山ほどあるのです。
ただでさえ通常業務で忙しい合間を縫って、
専門的かつ煩雑なM&Aの手続きを進めるのは難しいものです。
自社にぴったりのパートナーを紹介するM&A助言会社や、
M&Aの実務を手がけるM&Aアドバイザー、
デューデリジェンスの実行が可能な専門家の存在が不可欠です。
M&Aの成果はシナジーをどれくらい引き出せたかに左右されます。
シナジーを抽出・分析するなら、M&Aの専門家に
サポートを依頼することが大切です。
レコフでは、1987年の創業以来、36年以上にわたり
20,000社を超える上場・未上場企業と関わり、
買い手企業・売り手企業のマッチングに役立てています。
中小企業だけではなく、
複雑な上場企業同士のM&Aも実現させてきたレコフでは、
業界に対応した組成、
パートナーとの交渉戦略の立案・実行など総合的に対応可能です。
また、各業界に担当者を設け、最新動向を常にアップデートしています。
これまで培ってきた専門性や実績を駆使して
最大限のシナジー効果を引き出し、M&Aを成功に導きます。
M&Aをご検討の企業経営方やM&Aご担当者の方は、
レコフまでお気軽にご相談ください。
詳しくはこちらのレコフの強みでご覧いただけます。
監修者プロフィール
株式会社レコフ リサーチ部 部長
澤田 英之(さわだ ひでゆき)
金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。
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