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業界別M&A
働き方改革関連法の改正により、物流業界では労務管理に大きな変化が起こっています。どのように対応するか、経営について頭を悩ませている経営者も少なくありません。
物流業界の2024年問題を解決するためにM&Aを検討する方も増えました。
今回は、働き方改革関連法の施行にあたり物流業界が取り組むべき課題とM&Aの動向を解説します。M&Aのメリット・デメリットや物流業界におけるM&Aの事例も紹介するため、ぜひ参考にしてください。
そもそも物流とは、物資を供給者から需要者へ時間的かつ空間的に移動する一連の流れを意味する言葉です。物流に含まれる主な活動は、下記の通りです。
(出典:国土交通省「物流分野における標準化の対象について」 https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001410777.pdf )
物流には生産・調達・販売の3つの領域があり、それぞれの領域の中で包装から情報管理までの流れが成り立っています。
物資の輸送には営業用トラックが多く用いられており、トラック運送業が全体の約70%を占めていることが特徴です。近年は、EC市場の活発化により宅配便取扱実績の増加が続いています。
(出典:国土交通省「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」 https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001514680.pdf )
一方、働き方改革関連法が2024年4月1日に改正され、物流業界ではさまざまな問題が生じることが懸念されていました。法改正により生じる「2024年問題」は、運送業界が今後も成長を続ける上でクリアしなければならない課題です。
2024年問題は、働き方改革関連法の施行によって、自動車運転業務における時間外労働時間の上限規制が行われることで生じるさまざまな問題の総称です。ドライバーの労働時間が短くなることは、輸送能力の低下につながります。
働き方改革関連法で定める物流に関わるドライバーの時間外労働時間の上限は、下記の通りです。
時間外労働時間の上限 | 年間960時間 |
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(出典:厚生労働省「働き方改革関連法のあらまし(改正労働基準法編)」 https://www.mhlw.go.jp/content/000611834.pdf )
上限規制に違反した場合、6か⽉以下の懲役または30万円以下の罰⾦が科せられる可能性があります。
(出典:厚生労働省「時間外労働の上限規制わかりやすい解説」 https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf )
2024年問題に向けて物流業界が取り組むべき主な課題は、下記の3つです。
労働時間の上限規制により、長時間労働や長距離輸送などが難しくなります。フレックスタイムや時短勤務など、労働環境の見直しが必要です。
また、従来通りの輸送量を維持するには、新たにドライバーを増やす必要があります。収入減少によって、離職するドライバーが出てくる可能性もゼロではありません。
IT活用による業務の効率化は、労働時間の改善や人材確保にも役立ちます。予約システムや伝票の電子化など、物流業界にはIT活用できる業務が豊富です。
M&Aは企業規模を問わず実施できるため、自社の経営資源の有効活用を考える物流会社も増えています。M&Aの最大の魅力は、譲渡(売り手)と譲受(買い手)側の双方が抱えている課題をクリアできることです。 ここでは、物流業界におけるM&Aの動向を、4つのテーマに分けて紹介します。
物流業界では、事業承継を目的としたM&Aが増加しています。
経営者が年齢などの理由でリタイヤする場合、廃業または事業承継のどちらかを選択しなければなりません。物流業界の事業承継は親族内承継が多いものの、近年では事業を引き継ぐ意思のある親族が見つからないケースも増えています。
親族内承継や社員などに事業を引き継ぐ親族外承継が難しい場合は、M&Aによる事業承継が有効です。
M&Aによる事業承継では、株式を譲渡して経営権を移転させる株式譲渡の形を選択するケースが一般的です。
物流業界のM&Aは、人材確保を目的としているケースも多く見られます。
物流業界へのニーズが高まる一方で、物流会社は人材不足が深刻化しています。2024年問題への対応も必要となり、人材確保は物流業界にとって大きな課題です。
物流業界内のM&Aの場合、適性や経験のある従業員を一度に確保できます。雇用契約も引き継がれるため、新たに人材を採用するより大幅に手間を省けます。
従来の輸送量を維持することはもちろん、事業拡大も目指しやすくなるでしょう。
物流業界では、物流DXの実現に向けたM&Aも増加しています。
物流DXとは、デジタル技術の活用により物流のビジネスモデルを革新することです。電話・紙・FAXなどを用いたアナログなやり取りをデジタル化することは、業務の生産性の向上につながります。
DX化を目的としたM&Aでは、DX推進を担う人材の確保やデジタル化にかかるイニシャルコストの削減などのメリットが得られます。イニシャルコストやランニングコストの負担がネックになっている物流会社にとって、M&AはDX化を進める大きなチャンスと言えるでしょう。
経営基盤の強化に向けてM&Aをするケースも多く見られます。
経営資源が豊富でブランド力がある大手の傘下に入ることで、自社の経営基盤を強化できます。大手の傘下に入るメリットは、「交渉力を高められる」「経費を削減できる」などさまざまです。
近年は、高騰する燃料費などのコストを運賃に転嫁できない物流会社も多く、大手とのM&Aを検討する物流会社が増えています。同業種だけでなく、物流業務への進出を考えている異業種とのM&Aもニーズがあります。
自社に不足している経営資源を補うことで、事業規模の拡大も目指しやすくなるでしょう。
物流業界におけるM&Aには、譲渡(売り手)側・譲受(買い手)側にそれぞれメリットがあります。
M&Aを検討している方は、どのようなメリットがあるのかチェックしておきましょう。
ここからは、M&Aのメリット・デメリットを立場別に解説します。
譲渡(売り手)側のメリットは、下記の通りです。
後継者問題に悩む経営者にとって、他社へ事業を引き継げることは大きなメリットです。大手の傘下に入ることで、車両や設備にかかるコストを大幅に削減できます。新規事業の立ち上げや事業拡大などのチャンスも広がり、会社自体が大きく成長する可能性もあるでしょう。
株式譲渡の場合は、株式の譲渡に対する対価を得ることもできます。廃業とは異なり会社を維持できるため、従業員の雇用の場を守ることもできます。
また、個人保証を負っている経営者は、M&Aにより譲受(買い手)側に個人保証を肩代わりしてもらうことも可能です。個人保証の解除には手続きが必要となるため、譲受(買い手)側や金融機関と事前に相談しておきましょう。
譲渡(売り手)側のデメリットは、下記の通りです。
競業避止義務は、M&Aの譲渡(売り手)側に課せられる義務です。事業を引き継いだ後に競合となる事業を行うと、譲受(買い手)側は不利益を被ることになりかねません。譲受(買い手)側の利益を守るために、一定期間は同一の市町村や隣接する市町村の区域内での事業が禁止されます。
譲受(買い手)側の経営方針が合わないことが原因で、取引先から反発が起こる可能性もあります。M&Aによるトラブルを防ぐためにも、取引先の理解が得られるように丁寧に説明をしておきましょう。
また、M&Aを成功させるには、譲渡(売り手)側・譲受(買い手)側の双方にとってメリットがある形での合意が必須です。すべての希望条件が実現するケースは少なく、ある程度譲歩しなければなりません。
譲受(買い手)側のメリットは、下記の通りです。
M&Aで得た譲渡(売り手)側の経営資源は、事業規模の拡大にフル活用できます。自社の力だけで事業規模の拡大を目指すより、効率的かつ低コストで実現が可能です。低リスクで実績のある物流拠点を増やせることも、M&Aならではの魅力と言えるでしょう。
また、従業員をまとめて雇用できることも大きなメリットです。特にドライバーには適正やノウハウが求められるため、経験豊富な人材は即戦力となります。
物流拠点・人材・ノウハウなどの経営資源を上手く活用することで、生産性の向上も期待できるでしょう。
譲受(買い手)側のデメリットは、下記の通りです。
株式譲渡の場合は、負債もすべて譲受(買い手)側が引き継がなければなりません。貸借対照表には記載されていない未払い賃金などの簿外債務も引き継ぎの対象となるため、簿外債務が多いと事業に支障をきたす可能性もあるでしょう。 基本的に譲渡(売り手)側の従業員は譲受(買い手)側に引き継がれます。しかし、経営方針の違いや人間関係の構築の難しさなどが原因で、離職者が出る可能性もあります。優秀な人材の離職は、譲受(買い手)側にとって大きなデメリットです。 また、輸送中の事故や荷物の破損・汚損への損害賠償など物流業界ならではのリスクが増えることもデメリットの1つです。
M&Aを検討している場合は、適切に交渉を進めるために自社の企業価値を把握しておく必要があります。
物流会社の企業価値を算定する手法は、「コストアプローチ」「インカムアプローチ」「マーケットアプローチ」の3つです。
ここからは、それぞれの手法の特徴について解説します。
コストアプローチは、会社の純資産を基準にして企業価値を算定する手法です。
コストアプローチには、「簿価純資産法」「時価純資産法」の2種類があります。
簿価純資産法 | 貸借対照表の資産で算出する |
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時価純資産法 | 貸借対照表の資産を時価で評価して算出する |
いずれも貸借対照表の記載内容を基に算出するため、客観的に企業価値を把握できることが特徴です。ただし、将来の収益性は含まれないため、将来の収益性を反映するには時価純資産法に営業権を加えて算出する必要があります。
インカムアプローチは、会社の収益性を基に企業価値を算出する手法です。
インカムアプローチには、「DCF法」「収益還元法」「配当還元法」の3種類があり、M&AではDCF(ディスカウントキャッシュフロー)法を用いるケースがほとんどとなっています。
DCF法 | キャッシュフローをもとに算出する |
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収益還元法 | 将来的な収益価値をもとに算出する |
配当還元法 | 株主への配当金をもとに算出する |
いずれも会社が持つ稼ぐ力を重視する手法で、現在の価値だけでなく将来の収益性も反映できることが特徴です。ただし、主観が入りやすく客観性はコストアプローチに劣ります。
マーケットアプローチは、市場価格に注目して企業価値を算出する手法です。
企業価値の算出で着目される主な項目は、下記の通りです。
会社と同業他社の時価総額やM&A事例を比較することで、客観的に企業価値を算出できます。市場の価格動向を反映できることもメリットと言えるでしょう。ただし、市場変動の影響を受けやすいため、タイミングによっては評価額が低下する可能性もあります。
物流業界におけるM&Aの相場は、「株式譲渡」「事業譲渡」でそれぞれ算出方法が異なります。
株式譲渡(全部譲渡)する場合のM&Aの相場は、下記の通りです。
M&Aの相場 = 時価純資産 + 営業権(のれん代)
営業権として、数年分の営業利益を見込んだ金額を時価純資産に加えて算出します。
事業譲渡する場合のM&Aの相場は、下記の通りです。
M&Aの相場 = 運送事業の資産 + 営業権(のれん代)
運送事業の資産は、保有する車両や倉庫などが対象です。営業権として、数年分の運送事業の営業利益を見込んだ金額を運送事業の資産に加えて計算します。
営業利益の加算年数は、具体的に決まっているわけではありません。一般的には、3~5年分を加算するケースが多く見られます。
物流業界におけるM&Aを成功させるには、事例を参考にすることも有効です。M&Aの目的や手法を知ることで、自社のM&Aをイメージしやすくなります。
以下では、M&Aに成功した企業の大まかな情報とM&Aの概要を紹介します。
セイノーホールディングスは、2023年4月にグループ会社4社を合併しました。
M&Aの詳細は、下記の通りです。
譲渡(売り手)側 | 西濃運輸、関東西濃運輸、濃飛西濃運輸、東海西濃運輸 |
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譲受(買い手)側 | セイノーホールディングス |
M&Aの目的 | 効率的かつ柔軟な物流プラットフォームの構築 |
M&Aのスキーム | 吸収合併 |
セイノーホールディングスは、貨物自動車運送事業や倉庫業、国際複合一貫輸送事業など物流を支える大手物流会社です。貨物自動車運送事業を行うグループ会社4社を吸収合併することで、西濃運輸が存続会社となり他3社は消滅会社となりました。
M&A後は、幹線ダイヤの再編や運行効率の最適化などを進めています。
SBSホールディングスは、2018年8月にリコーロジスティクスを連結子会社化しました。
M&Aの詳細は、下記の通りです。
譲渡(売り手)側 | リコーロジスティクス |
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譲受(買い手)側 | SBSホールディングス |
M&Aの目的 |
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M&Aのスキーム | 株式譲渡(一部譲渡) |
SBSホールディングスは、物流だけでなく不動産事業などさまざまな事業を展開しています。リコーロジスティクスは、精密機器やオフィス向け商品などの運送事業を行う会社です。
リコーロジスティクスを連結子会社化することで、SBSホールディングスは企業成長を実現しています。一方、リコーロジスティクスは、SBSホールディングスとのM&Aにより、ネットワークの強化や海外事業の拡大などの相乗効果を得ています。
アサヒロジスティクスは、2021年4月にフレッシュ・ロジスティックとM&Aを実施しました。
M&Aの詳細は、下記の通りです。
譲渡(売り手)側 | フレッシュ・ロジスティック |
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譲受(買い手)側 | アサヒロジスティクス |
M&Aの目的 |
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M&Aのスキーム | 株式譲渡(全部譲渡) |
アサヒロジスティクスは、食品分野における物流事業を展開しています。フレッシュ・ロジスティックは、食品配送センター事業を展開する物流会社です。
フレッシュ・ロジスティックの親会社であった明治は、さらなる企業成長を目指すためにアサヒロジスティクスへすべての株式を譲渡しました。アサヒロジスティクスは、フレッシュ・ロジスティックが持つ事業基盤を活かし、事業規模の強化に取り組んでいます。
働き方改革関連法が施行され、物流業界では2024年問題に直面しています。時間外労働時間の上限規制によって人材不足や輸送能力の低下などが起これば、物流会社が受けるダメージは甚大です。
M&Aは、2024年問題の解決につながるとして物流業界でも注目されています。事業承継や経営基盤の強化など、M&Aの目的はさまざまです。
M&Aは専門知識が求められるケースも多いため、まずは信頼できる仲介会社へ相談してみましょう。M&Aを検討している方は、M&Aに向けたサポートに特化した「株式会社レコフ」にお気軽にご相談ください。
監修者プロフィール
株式会社レコフ リサーチ部 部長
澤田 英之(さわだ ひでゆき)
金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。
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