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医療業界・病院業界のM&A動向

業界別M&A

2024.09.04更新日:2024.09.04

近年、医療法人や病院のM&Aは増加傾向にあり、医療・病院業界におけるM&Aが注目されています。病院M&Aを検討していて、どのようなスキームで実行すると良いか、メリット・デメリットはあるかが気になる方は多いでしょう。

医療・病院業界のM&Aには特徴があり、M&Aを進める際はポイントを押さえることが大切です。

今回は医療・病院業界におけるM&Aの特徴から、M&Aが注目される理由や主なスキーム、立場別でのメリット・デメリットとポイントまでを徹底解説します。

目次

医療・病院業界とは

医療・病院業界とは、病院や診療所、医療法人などの医療機関・組織で構成されている業界です。けがや病気の診察・治療、入院医療など、医療・病院業界は医療制度の根幹となる医療サービスを提供しています。

医療・病院業界は社会に対して重要な役割・責任を担っているものの、医療サービスを提供する施設数は減少を続けている状況です。厚生労働省が公表した調査結果によると、2000年頃には9,000施設以上あった全国の病院数が、2024年5月1日時点では8,075施設まで減少しています。

(出典:e-Stat「医療施設調査 医療施設動態調査」 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450021&tstat=000001030908&cycle=1&year=20240&month=12040605&tclass1=000001204900&result_back=1&tclass2val=0 )

医療・病院業界にはさまざまな課題が存在します。代表的な課題が、診療報酬のマイナス改定・薬価基準の引き下げといった政府の医療費抑制政策や、後継者の不在です。
厳しい局面を迎えている医療・病院業界では、経営の安定化などが図れるM&Aに注目が集まっています。

医療・病院業界におけるM&Aの特徴

そもそもM&Aとは、複数の会社を合併したり他の会社を買収したりする取り組みを指します。一般的なM&Aは合併や買収により、利益拡大を目指すことが特徴です。

しかし、医療・病院業界におけるM&Aでは、利益拡大を目的としたM&Aは起こりにくい傾向があります。特に医療法人は非営利性が求められるため、医療法人のM&Aでは基本的に利益拡大を目的にできません。

また、医療法人のM&Aは、社員・理事といった経営陣の承認がなければ進められません。買い手による強制的な合併・買収がないため、友好的なM&Aが行われます。

病院事業の承継を目的としてM&Aを行う場合は、医師が後継者であることが必要です。事業の後継者に特定の資格が求められる点も、医療・病院業界におけるM&Aの特徴となっています。

医療・病院業界のM&Aが
注目されている理由

医療・病院業界が抱える課題は、M&Aで解決できる可能性があります。事業の承継や経営安定化などを目的として、M&Aを検討する病院・医療法人が増えている状況です。

以下では、医療・病院業界のM&Aが注目されている理由を3つ挙げて、それぞれを詳しく解説します。

医業を承継・存続させるため

帝国データバンクの調査によると、2023年における医療業の後継者不在率は65.3%であり、後継者がいない医療機関は全国的に多い状況です。

(出典:帝国データバンク「全国企業「後継者不在率」動向調査(2023)」
chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p231108.pdf )

病院や診療所は、後継者の医師が医業を承継してくれなければ廃業の可能性が高まります。医療機関が廃業すると、地域の医療基盤が弱くなり、満足な医療提供ができなくなるケースもあるでしょう。

医業を承継・存続させるための手法として、医療・病院業界では事業譲渡ができるM&Aが注目されています。

病院経営の安定化を図るため

医療・病院業界では、政府が進める医療費抑制政策によって経営難に直面する病院や診療所が少なくありません。医療費は病院の収入源であり、抑制されると病院の収入が減るためです。

また、医療は年々進歩していて、新たなシステム・機器などに対応するための設備費が発生します。医師・看護師に代表される人件費や設備維持費もかかり、病院経営は支出が多い事業です。

病院経営の安定化を図るために、経営基盤の強化ができるM&Aを検討する病院は増えています。

医療提供体制を構築するため

厚生労働省は「地域医療構想」という制度のもとに、病床を高度急性期・急性期・回復期・慢性期の4機能に分化・連携を進める方針を取っています。 (出典:厚生労働省「地域医療構想」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000080850.html

地域医療構想の実現には、地方の病院や診療所の協力が欠かせません。病床機能の分化・連携ができるよう、各医療機関は機能の差別化や、医療提供体制の再構築が求められています。

医療・病院業界のM&Aは、医療法人や病院の組織再編を通じて病床機能の見直しができる方法です。病床機能を地域医療構想に沿わせると、地域の医療需要を満たせるようになり、経営安定化にもつながります。

医療・病院業界における
M&Aの主なスキーム3つ

そもそもM&Aのスキームとは、M&Aを実行する一連の流れや枠組みのことです。M&Aのスキームは譲渡側と譲受側の話し合い・交渉によって決定し、選択したスキームに沿ってM&Aを進めます。

医療・病院業界におけるM&Aには、主に3つのスキームがあります。

合併 2つ以上の法人格を1つに統合する
事業譲渡 事業の一部もしくはすべてを他法人に譲渡する
出資持分譲渡 譲渡議決を行使できる社員の地位を譲渡し、出資持分所有者を変更する

合併と事業譲渡は、一般的な業界のM&Aにも存在するスキームです。

しかし、一般的な業界のM&Aに存在する株式移転・株式交換・株式譲渡といったスキームは、医療・病院業界のM&Aにはありません。日本では、医療機関の経営を株式会社が行うことは原則としてできないためです。

ただし、医療法人の中には、出資者の財産権が認められている「出資持分あり」の医療法人が存在します。出資持分ありの医療法人が選べるM&Aのスキームが、出資持分譲渡です。

以下では医療・病院業界のM&Aで選択できる3つのスキームを、より詳しく説明します。

「合併」によるM&A

「合併」によるM&Aは、2つ以上の法人格が合併契約を締結し、1つの法人格に統合するスキームです。存続させる医療法人以外の法人格は消滅することとなり、消滅する医療法人が保有していた病院機能や部門などは、存続させる医療法人に集約されます。

合併は、大きく分けて「新設合併」「吸収合併」の2パターンがあります。

新設合併とは、合併対象の法人格をいずれも消滅させて、新しく設立した医療法人に統合する手法です。合併前の法人名などはすべて消滅し、新しい医療法人としてスタートを切ります。

もう1つの吸収合併は、1つの医療法人が他法人格を吸収する形で合併を進めます。存続する医療法人は従来の法人名を使い続けることが可能です。

なお、医療・病院業界が合併によるM&Aを進める際は、事務所がある都道府県への事前相談・申請を行い、認可を受ける必要があります。

「事業譲渡」によるM&A

「事業譲渡」によるM&Aは、医療法人が営んでいる事業の一部もしくはすべてを他法人に譲渡し、事業の引き継ぎを図るスキームです。譲渡側は譲渡対価として金銭などを得て、譲受側は譲渡された事業を承継します。

事業譲渡は、譲渡側が個人経営の病院・診療所か、出資持分なしの医療法人であるかによって譲渡対価の払い方が異なる点が特徴です。

譲渡側が個人経営の病院・診療所である場合は、譲渡対価は経営者である院長がすべて受け取ります。

一方で出資持分なしの医療法人は、譲渡側の社員が出資持分を持っていないため、譲渡対価を直接受け取ることはできません。出資持分なしの医療法人で事業譲渡によるM&Aを進める場合は、「役員退職金の支払い」などの方法で譲渡対価の間接的な支払いを行います。

なお、事業譲渡では医療機関の許認可は引き継がれません。譲渡側は病院・診療所の廃止届を、譲受側は開設許可申請などの行政手続きを進める必要があります。

また、従業員との雇用契約も承継できないため、雇用契約を解除・退職の後に再雇用します。

「出資持分譲渡」によるM&A

「出資持分譲渡」によるM&Aは、出資持分ありの医療法人が事業譲渡を進める場合に選択できるスキームです。

出資持分ありの医療法人では、譲渡側である医療法人の理事長が社員の出資持分を買い取ってからでなければ、譲渡手続きが進められません。出資持分のすべてを買い取った後に、譲受側へと持分を譲渡し、さらに社員・役員を入れ替えることで譲渡が完了します。

出資持分譲渡は、医療法人の資産や契約をそのまま承継できる点が特徴です。廃止届や開設許可申請などの手続きが不要であり、事業譲渡よりも短い期間でM&Aを完結できます。

従業員との雇用契約についても、譲受側へとそのまま承継させることが可能です。

ただし、譲渡側が抱える負債や医療提訴などのリスクもそのまま承継されるため、譲受側はリスクとリターンを適切に把握する必要があります。

【立場別】医療・病院業界における
M&Aのメリット・デメリット

医療・病院業界のM&Aでは、譲受(買い手)側と譲渡(売り手)とでそれぞれ異なるメリット・デメリットがあります。

病院や医療法人のM&Aを検討している方は、自分の立場ではどのようなメリット・デメリットがあるかを把握しておきましょう。

以下では、それぞれの立場におけるメリット・デメリットを解説します。

譲渡(売り手)側のメリット

病院・医療法人や事業を手放す譲渡側には、下記のようなメリットがあります。

  • 医療機関の廃業を防げる
  • 従業員の雇用を保てる
  • 合併を選択すれば事業拡大や収益改善につなげられる
  • 事業譲渡・出資持分譲渡の場合は譲渡対価が獲得できる

医療・病院業界のM&Aは、地域医療に貢献している医療機関の廃業や、廃業に伴う従業員の解雇を防げるメリットがあります。医療機関が少ない地域で後継者不在に悩んでいる場合も、M&Aを進めることで医業の承継が可能です。

また、合併であれば事業拡大や収益改善、事業譲渡・出資持分譲渡であれば譲渡対価の獲得といった、選択するM&Aのスキームによるメリットもあります。

医療・病院業界のM&Aは譲渡側・譲受側双方が納得できる形で進められるため、自院の利益となるスキームを選びやすいでしょう。

譲渡(売り手)側のデメリット

譲渡側は、スキームの選択・進行時や譲渡後にいくつかのデメリットが発生する可能性があります。後悔しないために、下記のデメリットを押さえましょう。

  • 譲受側との交渉に用いる各種資料を作成する必要がある
  • 選択するスキームによってはM&Aの完了に時間がかかる
  • 譲渡後に経営方針が変更される可能性がある

M&Aを行うにあたって、譲渡側は自院の経営状況や事業内容の詳細をまとめた資料を作成しなければなりません。情報が正確であり、かつ譲受側が魅力を感じる資料を作成するには多くの時間・労力がかかります。

選択するスキームによっては多くの行政手続きが発生し、M&Aの完了に時間がかかるケースもあります。

また、譲渡後に病院・医療法人の経営方針が大きく変更される可能性にも注意してください。

譲渡側は、自院の希望を満たせるスキームや譲渡先を慎重に選ぶことが大切です。

譲受(買い手)側のメリット

病院・医療法人や事業を承継する譲渡側のメリットは、主に下記の4点です。

  • 事業拡大が実現できる
  • 人材確保ができる
  • 既存設備や患者を引き継いで事業展開ができる
  • 病床規制や参入障壁の回避ができる

譲受側は病院・医療法人や事業を取得できるため、事業拡大が実現できます。

譲渡側が雇用していた医師・看護師といった人材や、病院経営に用いていた既存設備、患者の引き継ぎができる点も魅力です。新規事業を始めるよりもコストを抑えられて、事業展開をスムーズに進められます。

医療・病院業界では、地域医療計画に規定されている基準病床数の影響により、病院の新規開設が許可されないケースもあります。地域に展開している病院を合併や事業譲渡で取得すれば、規制を回避して地域の病院を経営することが可能です。

譲受(買い手)側のデメリット

譲受側は病院・医療法人や事業を承継できるものの、譲受後に当初の計画通りに運営できるとは限りません。譲受側の主なデメリットを3つ紹介します。

  • 新しい経営方針が地域に合わない可能性がある
  • 人材の離職が発生する場合がある
  • 建物の修繕や、設備の改修・新規導入が必要になる場合がある

多くの病院は、地域に合った経営方針で運営されています。譲受後に経営方針を変更すると、地域の医療ニーズや利用者層に合わず、経営がうまくいかない可能性があるでしょう。

経営方針の大きな変更は、人材の離職を招く可能性がある点にも注意してください。

また、譲受する病院の状態によっては、建物・設備の修繕などが必要になる場合があります。病院の譲受によるコストカットを狙う場合は、譲受後に新たに発生するコストがどの程度かを考えなければなりません。

【立場別】医療・病院業界における
M&Aのポイント

医療・病院業界のM&Aでは譲渡側・譲受側のいずれにもデメリットが存在します。M&Aのデメリットをできるだけ防ぎ、成功へとつなげるには、いくつかのポイントを押さえましょう。

医療・病院業界におけるM&Aのポイントを、譲受側・譲渡側それぞれについて解説します。

譲受(買い手)側のポイント

譲受側は、M&Aの目的を明確化することが大切です。自院がM&Aで達成したい目的は何かが明確になると、適切なM&Aスキームや譲受する病院・医療法人の選択ができます。

また、譲受側は病院・医療法人を単に取得するだけではなく、目的達成のために経営をしなければなりません。組織のガバナンスコントロールを行うには社員が何人必要か、経営安定のために人材派遣ができるかなど、譲受後の経営を見据えてM&Aの計画を立てる必要があります。

合併・事業譲渡のスキームでは多くの行政手続きが発生するため、行政手続きの手順についてもあらかじめ確認しておきましょう。

譲渡(売り手)側のポイント

譲渡側はM&Aの準備を早期に、かつ計画的に進めましょう。

M&Aにはさまざまな準備が必要であり、準備段階で多くの時間・労力がかかります。病院・医療法人の社員から譲受について賛同を固め、万全な資料作成ができるよう、M&Aの準備は早い段階で進めてください。

また、譲受側の候補となる医療法人について調査することも大切です。譲受側が経営している病院の経営方針や規模を調べたり、M&Aにおける希望条件を把握したりすると、自院の希望条件に近いかどうかを判断できます。

医療・病院業界のM&Aを実施する際は、譲受側・譲渡側いずれの場合も、M&Aアドバイザーをはじめとした専門家への相談がおすすめです。

M&Aアドバイザーの選び方

M&Aアドバイザーは、M&Aを検討している企業の準備から交渉、契約締結までを支援してくれる心強い存在です。
医療・病院業界のM&Aを相談するM&Aアドバイザーは、3つのポイントを押さえて選びまましょう。

POINT(1)実績

M&Aは病院・医療法人の経営規模や経営方針を大きく変える取り組みであり、支援を行うM&Aアドバイザーには知識・経験が求められます。知識・経験が豊富なM&Aアドバイザーを選ぶには、ホームページや問い合わせなどでM&A支援の実績をチェックしてください。

M&Aアドバイザーの実績は、件数はもちろん、支援した企業の業種を見ることが大切です。医療・病院業界のM&Aを支援した実績があるM&Aアドバイザーを選ぶと良いでしょう。

POINT(2)費用・手数料

M&Aアドバイザーに支援を依頼すると、着手金や月額報酬、成功報酬といった費用・手数料がかかります。M&Aアドバイザーによっては着手金が発生したり、月額報酬が長期間発生したりなどで、費用総額が高額になるケースがあるため注意してください。

M&A契約締結までに発生する費用・手数料の総額について、事前に分かりやすく説明してくれるM&Aアドバイザーがおすすめです。

POINT(3)得意とする業界

M&Aアドバイザーは得意とする業界が限定されているケースがあります。医療・病院業界のM&Aを依頼する際は、M&Aアドバイザーが医療・病院業界を得意としているかどうかを確認しましょう。

M&Aアドバイザーの中には、得意とする業界が多岐にわたる会社も存在します。医療・病院業界に精通したメンバーが在籍する会社を選択すると、業界の現状や自院の課題に対応したM&Aの提案が期待できます。

まとめ

医療・病院業界では、医業の承継や病院経営の安定化が図れるM&Aに注目が集まっています。

医療・病院業界におけるM&Aの主なスキームは「合併」「事業譲渡」「出資持分譲渡」の3つがあります。M&Aの譲渡側・譲受側はそれぞれの目的を達成できるよう、適切なスキームを選択することが重要です。

株式会社レコフは創業以来1,000件以上の豊富な実績があり、着手金無料の支援体制でM&Aの実現をサポートしております。事業拡大や医業の承継のためにM&Aを検討している方は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。

監修者プロフィール

株式会社レコフ リサーチ部 部長

澤田 英之(さわだ ひでゆき)

金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。

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