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ホテル業界のM&A事情

業界別M&A

2024.08.27更新日:2024.08.27

2020年には新型コロナウイルスが蔓延して、観光業は大きなダメージを受け、宿泊業界も厳しい戦いを迫られましたが、2022年後半以降、観光需要は回復傾向にあります。このような背景から、ホテル・旅館といった宿泊業界では業界再編が本格化しています。

この記事では、

  • 日本のホテル・旅館業界の特色
  • ホテル・旅館業界がM&Aを行うメリット
  • ホテル・旅館業界のM&A成功事例

などについて解説します。この記事を読めば、日本のホテル・旅館業界で盛んにM&Aが行われている理由や成功事例が分かります。ホテル業界の経営に携わっている方、ホテル・旅館業界の再編にご興味のある企業経営者の方は、ぜひご一読ください。

目次

ホテル・旅館業界の現状

日本のホテル・旅館はレストラン、ケータリング、婚礼、宴会など、様々な部門を有しており、宿泊業だけを手がけているわけではありません。また、これらの部門を365日体制で営業するためには、接客や調理など一定のスキルを有する人材を常駐させることが不可欠です。一方で、売上は施設設備に左右されます。施設数に上限があるうえ、客室単価の調整も容易ではありません。従って、ホテル・旅館業の経営は、すぐに方針転換できるほどの柔軟性がない、という特色があります。

国土交通省観光庁の「令和6年版観光白書」によると、2020年は新型コロナウイルスの影響により宿泊業の売上の落ち込みが顕著でしたが、2022年後半から回復傾向で推移しており、宿泊・飲食サービス業の雇用状況も同様に、2022年後半以降人員不足を感じている企業割合が高い状態が続いています。

また、公益財団法人日本生産性本部の「レジャー白書2023」では、コロナ禍が続いた2020年には、余暇に観光・行楽を楽しむ割合が前年比43.7%と著しく減少したものの、2022年には、国内観光旅行の参加人口が2019年以来の首位となったと記載されています。

ホテル・旅館のM&Aは増加傾向

コロナ禍の影響を受けた売り手企業の決断により、2019年からホテル・旅館の譲渡は増加しています。一方、買い手企業にとって、土地・建物が必須のホテル事業は、「不動産投資」の対象でもあります。ホテル投資は経済状況に左右されますが、2023年10月時点の期待利回りは5%前後と、条件次第では高収益物件として運用することも可能です。そのため、ホテル業界のM&Aでは、同じホテル事業を営む企業のみならず、投資ファンドや不動産賃貸業といった異業種の参入も目立ちます。

また、宿泊業・飲食サービス業では、人材確保が重要な課題であり、同業種であるホテル会社が、人材確保を叶える手段として事業売買を行うこともあります。厚生労働省の「産業別の入職と離職」によると、2022年上半期時点の宿泊業・飲食サービス業の入職者数は980.8千人、離職者数は792.0千人と、入職・離職いずれも他産業を抑えて、もっとも多い結果となっています。

上記の背景から、2020年以降は、コロナ禍の影響でインバウンド需要が減少したことを受け、期待利回りも下がっていましたが、官民一体となってインバウンド対策に取り組んでおり、宿泊施設不足の解消に力を注いでいました。今後更にインバウンド需要が回復すれば、ホテル・旅館の需要もおのずと上がっていくでしょう。買い手にとって、ホテル事業は十分に将来性のある事業です。

2019年には、事業継承M&Aプラットフォームで、後継者不在のホテル・旅館を対象に継承公募が行われました。2020年には、インバウンド需要が盛んな地域の1つである沖縄県の会社が、宿泊施設に特化した売買マッチングプラットフォーム「M&Aホテル」を、始動させるといった試みもスタートしています。

出典:
国土交通省観光庁「令和6年版観光白書」
公益財団法人日本生産性本部「レジャー白書2023」
厚生労働省「令和5年上半期雇用動向調査結果-産業別の入職と離職の状況」
一般財団法人日本不動産研究所「第49階不動産投資家調査(2023年10月現在)」

ホテル業界がM&Aを行うメリットは?

ホテル業界では今、M&Aの需要が高まっています。ホテル事業のM&Aは、売り手・買い手ともに大きなメリットを享受できる可能性があるうえ、売り手にとってはコロナ禍によって傾きかけた事業を立て直すチャンスでもあるからです。ホテル事業でM&Aを行うメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。以下に売り手と買い手、それぞれの視点におけるメリットを解説します。

売り手企業のメリット

ホテル事業の譲渡・売却を行うことで、以下のメリットがあります。

  • 後継者問題を解決できる
  • 従業員の雇用を継続できる
  • 中核事業・新規事業へ投資できる

前述の通り、ホテル・旅館では接客・清掃・調理など、一定のスキルのある従業員を常勤させなければ、サービスの品質を維持できません。そのため、多くの従業員を抱えています。後継者の不在・経営不振を理由に廃業すると、これまでホテル・旅館で働いていた従業員を解雇しなければなりません。解雇した従業員やその家族は収入を失って不安定な生活を強いられるため、従業員への負担が大きくなります。不当な解雇として訴訟されるリスクもあり、これまで培ってきた技術・ノウハウの流出が避けられないというデメリットもあります。

しかし、事業を他企業へ譲り渡し、従業員に買い手企業へ転籍してもらうことで、従業員は変わらず業務を続けることができ、訴訟リスクを回避できます。また、売り手は自社の技術・ノウハウを存分に活用してくれそうな買い手を選べるため、多くの同業他社に技術・ノウハウが流出してしまうというリスクも避けられます。

従業員本人にとっては、事業買収できる程度の資本力を有する買い手企業へ転籍することで、待遇改善につながることも珍しくありません。売り手企業にとっては、一部事業を売却することで対価を得ることができるため、廃業の前にM&Aを検討しておくほうがよいでしょう。M&Aが成立すれば、事業売却によって手に入れた資金で、中核事業や新規事業への投資ができ、経営基盤を整えられるというメリットもあります。

買い手企業のメリット

買い手企業については、どのような目的で譲受・買収するかによってメリットが異なります。不動産価値向上のために、ホテル事業を買い取る企業もあれば、ホテル再生事業を生業としている企業もあるからです。買い手企業の目的はさまざまですが、メリットは以下に集約されます。

  • スケールメリットがある
  • 既存事業の拡大
  • 新規事業参入の成功率が上がる
  • 優秀な人材や経営資源を確保できる

事業は規模が大きくなるほど、ブランド力の強化、生産性・効率性向上、コスト削減につながる性質があり、これをスケールメリット(規模の優位性)といいます。同じホテル業を営む企業から事業買収を行うことで、買い手企業にはスケールメリットが生まれ、事業の高収益化を図れます。

また異業種であれば、新規事業の参入を迅速に行えるという利点もあります。ゼロから事業を立ち上げるのは時間もコストもかかるうえ、成功するかどうか分かりません。ましてホテル・旅館は、「不動産」が絡んでくるため初期費用が高く、成功のビジョンが見えないとなかなか手を出しにくい事業です。M&Aによって、自社に足りない経営資源を持つ事業を買収することで、迅速にホテル事業へ新規参入できるほか、新規事業を軌道に乗せるのも容易になります。

買い手にとってM&Aとは「経営資源」というリソースを手に入れる手段です。そして、事業や資産・権利だけではなく、優秀なスキルを持つ「人材」の確保も可能となる、というのも大きなメリットになります。

ホテル・旅館業界のM&A事例

近年のホテル・旅館業界では、様々な目的からM&Aが活発に行われてきています。以下では、ホテルや旅館のM&A事例について紹介します。

近鉄グループの事業譲渡

近畿日本鉄道や近畿日本ツーリストなどを中核事業とする「近鉄グループホールディングス」は、2021年10月に、8つのホテル資産を米投資ファンドのブラックストーン・グループへ譲渡しました。M&Aを行ったのは、コロナ禍によってホテル事業が低迷したことをきっかけに、コスト削減や構造改革を決断したためです。

近鉄グループのホテル資産を有意義に活用してくれるパートナーを探しており、ヒルトン・ワールドワイドやラスベガスのカジノリゾートベラッジオなど2.5兆円相当のホテル資産を運用する、ブラックストーンに白羽の矢が立ちました。売却したホテルの運営は、ブラックストーンからの受託という形で引き続き、近鉄グループが行っています。

アトリエブックアンドベッドが全株式を譲渡

不動産賃貸業や貸金業を行うGFAは、2020年2月にホステル(低予算の宿泊施設)を運営する、アトリエブックアンドベッドのすべての株式を取得し、両社は完全親子会社の関係となりました。GFAは2018年から不動産価値向上や高収益化を目的に、株式取得による子会社化を精力的に進めている企業です。

GFAが今回のM&Aに踏み切った目的は、不動産事業の高い収益化と優秀な人材の確保でした。アトリエブックアンドベッドは、「泊まれる本屋」というユニークなコンセプトの宿泊施設を運用しています。ホステル事業が不動産業の高収益化に寄与すると判断し、アトリエブックアンドベッドの代表取締役の能力が、不動産価値向上に寄与するという点に魅力を感じたことがM&Aを後押ししています。

小田急電鉄が子会社の全株式を譲渡

小田急電鉄は、ホテル事業を担う子会社・ホテル小田急静岡が保有する、すべての株式をブリーズベイホテルに譲渡しました。譲渡後、ホテル小田急静岡は「ブリーズベイ静岡」に社名変更しています。

ホテル小田急静岡は、1997年に「ホテルセンチュリー静岡」を開業。静岡でも数少ないシティホテルとして支持されてきました。ブリーズベイホテルは、ホテル事業とホテルの買収再生事業を行う企業です。時代に合わせてシティホテル業界を取り巻く事業環境の中、上質なサービスを長期に渡って提供し続けるため、小田急電鉄は買収再生の実績が豊富なブリーズベイホテルへ子会社を譲渡するに至りました。

ホテル事業のM&Aは活発化している

近年では、同じホテル業を営む企業のみならず、異業種や投資ファンドがM&Aに参入し、ホテル事業の売買が活発化しています。ホテル事業を営んでいた売り手企業は、「中核事業へ専念するため」、「資金確保のため」、「従業員の雇用を維持するため」、「後継者不在のため」といった経営上の問題から、事業の売却を行っています。

買い手企業として不動産業界だけではなく、投資ファンドが名乗りをあげている背景には、ホテルが不動産投資の対象であるという事情があります。コロナ禍以前には、宿泊施設不足の解消に官民一体となって乗り出していたため、コロナ禍による経済ダメージが大きかった、2019年~2020年には収益物件としての期待利回りが低迷したものの、コロナ禍収束後の需要を見越した投資がすでに行われていました。

ホテル事業を売却したい、あるいは買収したいとお考えの企業経営者の方は、自社の経営戦略にあわせてパートナー企業を選び、譲渡・譲受する事業について交渉を行うことが大切です。

インバウンド需要や経済状況に左右されるホテル事業の売買は、国際的な最新動向を把握しながら、進めていくことが求められる取引です。売り手・買い手だけで手続きを進めようとすると、思ったような利益が出なかったり、後から大きなトラブルに発展したりすることも十分に考えられます。

また、事業の一部だけを切り離して売買する「事業譲渡」は、手続きが煩雑になりやすいため、効率よくM&Aを進めるには、アドバイザーなど専門家に相談するのも1つの手段といえます。

M&A助言会社・レコフの強み

1987年に創業したレコフは、20,000社を超える企業とのネットワークを持つ
M&A助言会社です。
36年以上に渡りM&A支援を行う中で、
業界再編やクロスボーダーなど、あらゆるM&Aを経験してきました。
中小企業だけではなく、
上場企業同士の複雑なM&A案件にも携わっています。
また、各業界の最新動向に特化した専属チームを編成して
M&A案件に対応するのもレコフの強みです。
戦略立案からパートナー企業のご提案、
実務のサポートまで一貫したサポートを行います。
M&Aをご検討中のご担当者の方、事業承継問題にお困りの企業経営者の方は、
ぜひ一度レコフまでご相談ください。
詳しくはこちらのレコフの強みでご覧いただけます。

監修者プロフィール

株式会社レコフ リサーチ部 部長

澤田 英之(さわだ ひでゆき)

金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。

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