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食品業界のM&A動向

業界別M&A

2024.09.19更新日:2024.09.19

近年、食品製造業界のM&Aが盛んとなっています。後継者問題の解決、事業の立て直しなどの事例もあり、関心を寄せている経営者も多いでしょう。

しかし、食品製造業界でM&Aを成功させるためには、まず周囲の動向や双方のメリットといったM&A知識に対し理解を深めておくことが重要です。

そこで今回は、食品製造業界の現状や今後の課題から、M&Aの重要性・動向を解説します。さらに、買い手・売り手双方のメリットや成功のポイントも網羅的にまとめています。最後まで確認しておくと、今後M&Aを検討していく上でスムーズな行動ができるようになるでしょう。

目次

食品製造業界とは

食品製造業界とは、原材料から食品を製造・加工し、製品を消費者に販売することで収益を得る事業の総称です。食品製造業者にはあらゆる種類がありますが、代表的なジャンルとしては下記が挙げられます。

  • パン工場
  • 弁当工場
  • 冷凍食品工場
  • 食肉加工工場
  • 水産加工工場

M&Aを実施する場合、自社製品と相手企業との相性を見極めなければなりません。そのため、自社がどういった種類の食品製造業界に該当するかを把握しておくことが大切です。

食品製造業界の市場規模と現況

農林水産省が公表する「令和5年度 食料・農業・農村白書」によると、⾷品製造業界の国内⽣産額は令和元年まで数年間増加傾向にあったものの、2020年はコロナ禍で外食産業が甚大な影響を受けたことによって、前年比約▲9.6兆円と大きく減少したことも見てとれます。

(出典:農林水産省「令和5年度 食料・農業・農村白書 第6節 新たな価値の創出による需要の開拓」https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r5/r5_h/trend/part1/chap2/c2_6_00.html )

2020年に流行した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では、人々の生活やビジネスにあらゆる規制がかかり、日本経済は停滞期を迎えました。業績悪化に追い込まれた企業も多く、新型コロナウイルス感染症の影響は日本経済に大きな打撃を与えたと言っても過言ではありません。

しかし、同じく農林水産省が調査した「食品産業動態調査」の「食品製造業をめぐる市場経済動向」によると、食品製造業生産額指数は2020年を皮切りに現在まで上昇傾向にあり、令和5年は対前年比8.3%とかなりの程度上昇しました。

(出典:農林水産省「令和5年 食品産業動態調査」https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/jki/j_doutai/attach/pdf/doutai_top-145.pdf )

ワクチン接種や各種政策によりアフターコロナを迎え、経済停滞も回復傾向に転じるようになりました。人々が再び活発に活動できるようになり、景気回復への期待もますます大きくなっていることが実情です。

こうした現状がある一方で、いまなお物価高騰は収まらず、食料品価格上昇により一般家庭の消費低迷は継続しています。実際に一部小売店・外食チェーンの売上を感染症流行前の水準と比較しても大きな回復は見られず、食品製造業界が厳しい現状にあるのは明らかです。

食品製造業界におけるM&Aの動向

食品製造業界におけるM&Aは、「株式譲渡」または「事業譲渡」の手法が一般的です。

そして、食品製造業界の最新動向として大きな柱となっているのが「食品製造業界同士のM&A」「異業種M&A」「クロスボーダーM&A」の3つとなります。それぞれM&A先が異なるため、自社に合った企業選びを行うためにも各動向を把握しておくことが重要です。

ここでは、食品製造業界の3つのM&A動向を解説します。

「食品製造業界同士のM&A」の増加

食品製造業界は、大きく「素材型」と「加工型」の2種類に分けられます。

製粉や製油といった「素材型」は、事業規模が大きいほど生産効率化やコスト削減が期待できる点が特徴です。生産性の水準が低い食品製造業界だからこそメリットが大きく、同じ素材を扱う企業との間で経営統合を進める動きが強まっています。

一方、「加工型」はコア事業の強化や事業ポートフォリオ拡充といったあらゆる目的での買収が盛んです。

「異業種M&A」の増加

食品製造業とはまったく別の業界と売買を行う「異業種M&A」も急増しています。

異業種M&Aには、新たな販路の獲得・生産性の向上・サービス開発の加速など、食品製造業だけでは叶えるのが難しい分野でメリットを見出せることが特徴です。

また、M&Aが関心を強めている近年、異業種M&Aは食品製造業界のみならずあらゆる業界に注目してもらえるメリットもあります。

「クロスボーダーM&A」の増加

日本市場は人口減少に伴い縮小の傾向にあるため、大手企業を中心に海外市場を対象としたM&Aも増えています。

事業を世界規模に拡大させられ、販路の確保や自社製品の提供といった数多くのメリットを得ることが可能です。

新型コロナウイルス感染症が流行していた頃はどこの国も閉鎖的な活動となっていましたが、アフターコロナで渡航制限が解消されたこともあり、クロスボーダーM&Aも増加の傾向を見せています。

【食品製造業界】M&Aによる
「譲渡(売り手)側」のメリット

「売る」という行為から、最初に思い浮かべるのは譲渡益でしょう。そのため、事業譲渡は経営不振に陥っている企業が行うものというイメージが強いのが実情です。

しかし、譲渡側のメリットは譲渡益だけではありません。ここでは、食品製造業界でM&Aを行う際の売り手側メリットについて解説します。

メリット(1)倒産・廃業を回避できる

M&Aで売り手となれば、事業を資金化でき倒産や廃業を回避できる可能性があります。

経営不振で廃業を選択すると、従業員の未来まで潰してしまうことになります。経営者だけがダメージを負うものではないため、経営不振でも会社清算に踏み切れないという経営者も少なくありません。

しかし、M&Aを行えば企業存続が期待できます。経営の立て直しが可能となり、落ち込んでいた業績を向上させるきっかけにもなり得るでしょう。

メリット(2)後継者問題を解決させられる

事業を譲渡すれば、後継者問題に悩まされる心配がなくなります。

食品製造業界は、小規模で事業を行っている会社が多いため、経営者も高齢であるケースが多いです。さらに、昔のように実子を跡継ぎにする風潮も薄れてきていることから、後継者が見つからないという問題もあります。

しかし、M&Aで事業承継を行えば、後継者の候補を社外にまで広げることが可能です。もしも相手企業の経営者が若ければ、今後を安心して任せられるでしょう。自ずと後継者問題が解消され、事業の継続が期待できます。

メリット(3)従業者の雇用を維持できる

M&Aは事業の発展が期待できます。将来が明るい方向へと向いていくことから、雇用の安定化につながるでしょう。

会社は、従業員だけでなく従業員の家族や生活も担っています。つまり、経営者は自分のことだけでなく従業員や従業員の家族も守っていくことを念頭に置いて経営をしなければなりません。経営が悪い方へと傾けば、従業員の減給や解雇を検討しなければならないでしょう。

しかし、M&Aは従業員の雇用継続が条件となるのが一般的なため、事業形態が変わっても従業員の雇用は継続されます。さらに、事業発展が期待されることで雇用が安定し、経営そのものの不安も解消されるでしょう。

メリット(4)経営基盤の安定化につながる

買い手の事業規模によっては、経営安定の恩恵を受けられます。

例えば、大手傘下に入ることができれば、資金とノウハウの共有が可能です。小規模の食品製造業者であっても、経営基盤を安定化させられるでしょう。

さらに、双方の良さを活かせば相乗効果により事業成長も見込めます。経営基盤に不安がある事業者にとって、資金に匹敵する大きなメリットです。

【食品製造業界】M&Aによる
「譲受(買い手)側」のメリット

食品製造業界は、小規模事業者が多く生産性も低い企業が多いのですが、実はいくつかの譲受メリットがあります。

では、具体的に買い手にはどういったメリットがあるのでしょうか。ここでは、3つのメリットを解説します。

メリット(1)事業拡大につながる

M&Aによって他社のノウハウ・技術を獲得できれば、事業の成長が期待できます。

例えば、生産性の向上、新たな分野への参入、優秀な人材の確保など、自社では成しえなかったことが実現可能です。伸び悩んでいた企業であれば、食品製造業界でのM&Aが突破口ともなり得るでしょう。

結果的に、M&Aで他社を買収することは事業拡大にも大きな役割を果たします。

メリット(2)ブランド力・商品開発力を強化できる

M&Aで他社と手を組むことは、競争力の強化にもつながります。

日本市場は少子高齢化によって縮小の一途をたどっており、不況が長引いている現状です。特に、食品製造業界は労働力の水準が低く、経営環境の厳しさも顕著に表れています。大きく躍進するためには、ブランド力の強化や新たなヒット商品の開発も必要となるでしょう。

M&Aを実施すれば、相手企業のノウハウを獲得できます。自社にはなかった戦力を得ることで、現在のブランド力と商品開発力の強化が図れて、他社と戦う力を身につけられるでしょう。

メリット(3)製造・物流拠点や販売チャネルを新たに獲得できる

M&Aの実施により、販売チャネルの拡大を効率的に行える可能性があります。

新たな販売チャネルを持つための市場調査、地域特性の把握などには、多大な時間とコストが必要です。しかし、M&Aによって自社とは違った販売チャネルを有する企業の傘下に入ることができれば、スピーディーに事を進められます。

さらに、過去の実績があるため、新たな販売チャネルを一からスタートさせるよりもリスクが抑えられる点も大きなメリットです。

食品製造会社の売却価格の決まり方|
代表的な算出方法

自社がいくらで売れるのか、また他社をいくらで買収できるのか、資金面で気になっている経営者も多いでしょう。

M&Aにおける売却価格の協議は、企業価値評価が基準となります。企業価値評価には3つのアプローチがあり、それぞれのアプローチをもとに理論的な価格決定がなされるため、M&A交渉の円滑化が可能です。

ここからは、食品製造会社の売却価格の具体的な決まり方を、「インカムアプローチ」「マーケットアプローチ」「コストアプローチ」の3つに分けて詳しく解説します。

インカムアプローチ

インカムアプローチとは、企業の収益性から見積りを出す手法です。事業が生み出すキャッシュフローをもとに評価を行うため、具体性があり根拠を提示しつつ価格交渉ができます。

バリエーションの中で最もポピュラーな手法で、種類は大きく以下の3つです。

  • DCF法
  • 収益還元法
  • 配当還元法

M&Aの売却価格を決める際は、DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)を採用するのが一般的です。DCF法における具体的な計算式は、下記の通りとなっています。

企業価値 = 各会計年度におけるFCF(フリーキャッシュフロー) ÷ 割引率

マーケットアプローチ

マーケットアプローチとは、類似企業と比較して企業価値を見極める手法です。また、上場しているかどうかも大きなポイントとなります。

マーケットアプローチにおける比較方法は、次の4種類です。

  • 類似企業比較法
  • 類似取引比較法
  • 市場株価法
  • 類似業種比較法

種類によって比較基準が異なるため、M&Aの目的によって適切な種類を選択する必要があります。

コストアプローチ

コストアプローチとは、純資産額をもとに企業価値を算出する手法で、「純資産法」とも呼ばれます。貸借対照表をはじめとする明確な資料から算出できるため、企業価値を可視化するのに最適です。

コストアプローチは、取引における納得度の高さがメリットとなります。特に、価値が分かりにくい中小企業のM&Aで利用されることが多い傾向が強いです。

コストアプローチの代表的な種類には、下記が挙げられます。

  • 簿価純資産法
  • 時価純資産法
  • 時価純資産+営業権(のれん)法
  • 超過収益還元法・年買法
  • 清算価値法
  • 再調達原価法

どの種類を採用するかは、M&Aの目的や対象企業等で異なります。例えば、時価純資産法は保有資産を処分し負債を支払う考え方をとる手法です。したがって、事業清算を目的としたM&Aで利用されることが多くあります。

食品製造業界の
M&Aを成功させるためのポイント3つ

食品製造業界でM&Aを成功させるためには、いくつかポイントがあります。闇雲に取り組んでも相手企業に迷惑をかける恐れがあるため、事前に成功ポイントを押さえておくことは重要です。

ここでは、食品製造業界のM&Aを成功させるために必要なポイントを3つ紹介します。各ポイントを十分に理解し、成功率を高めましょう。

M&Aの実施目的を明確にしておく

M&Aを実施する前には、目的を明確にしておくことが重要です。

M&Aによって何を実現したいかが分かっていれば、自ずと希望条件が浮かび上がります。さらに、希望条件に優先順位をつけておくことでM&A先の選定もスムーズになるでしょう。

M&Aの実施タイミングを見極める

M&Aの実施には、タイミングの見極めも重要です。

M&Aはいつやっても成功するという単純なものではありません。結果が出せなくては意味がないため、適切なタイミングでM&Aを実施する必要があります。検討を推奨するタイミングとしては、下記が挙げられます。

●業界再編のタイミング

業界再編が進行している時は売り手市場となる傾向にあります。事業が高く売れる可能性も高くなるため、売り手にとって最適なタイミングとなるでしょう。

●好景気のタイミング

一般消費者と同様に、企業も景気が良い時は購買意欲が高まります。事業が高値で売れやすくなるため、資金重視のM&Aでは見逃せません。

●経営者の健康状態が良好なタイミング

前向きにM&Aを検討しているのであれば、経営者が元気なうちが良いでしょう。経営者に万が一のことがあってからでは売却が最優先となるため、相手企業への価格交渉が難しくなります。

いつM&Aを実施するかに悩んだ場合は、上記3つのタイミングを意識すると動きやすくなるでしょう。

信頼できるM&Aアドバイザーに相談する

M&Aを成功させるための手段として有力なのが、「M&Aアドバイザー」の利用です。

M&Aを検討したいものの、具体的に何から始めればいいのか分からないという食品製造事業者も多いでしょう。M&Aアドバイザーは適切な対処をしてくれるため、成功までスムーズに話を進められます。

M&Aアドバイザー選びに悩んだ際は、「実績の豊富さ」に注目することがおすすめです。

1987年創業の株式会社レコフは、M&Aアドバイザーの老舗であると同時に、中小企業から大手企業まで豊富な実績を保有しています。信頼できるM&Aアドバイザーをお探しの方は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。

まとめ

食品製造業界は、製造業界の中でも生産性水準が低く、厳しいとされる業界です。事業規模も小さい傾向にあり、大きな発展を目指すことや後継者を見つけることも容易ではないケースがあります。

しかし、M&Aで他企業と協力関係を結べば、発展の幅が広がります。成功事例も多く、厳しい食品製造業界でも力強く生き残っていくことが可能です。

失敗できない、不安が強いという場合は、信頼できるM&Aアドバイザーからのサポートを受けることをおすすめします。株式会社レコフは、長年の経験と実績を有するM&Aアドバイザーです。経営基盤の強化や事業承継に向けてM&Aを検討している方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

監修者プロフィール

株式会社レコフ リサーチ部 部長

澤田 英之(さわだ ひでゆき)

金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。

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