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業界別M&A
ホームセンター業界は市場規模が大きく、全国展開の大手企業から地域密着の中小企業まで多くの事業者が存在する業界です。近年は事業者間の競争が激化し、大手事業者への集中や、M&Aによる再編が進みつつあります。
ホームセンター業界でのM&Aを検討している方は、業界のM&A動向や事例などを把握しておきましょう。
今回は、ホームセンター業界の動向や課題から、M&Aによる譲渡側・譲受側それぞれのメリットとM&A事例、M&Aの流れとポイントまでを徹底解説します。
ホームセンター業界とは、住宅資材・建築資材・DIY用品・園芸用品などの住まいに関連した商品販売を主要事業とする、大型小売店の事業者で構成される業界です。
そもそもホームセンターという呼び方は和製英語であり、同系統の店舗は英語圏では「DIY Store」と呼ばれます。日本では1960年代にホームセンターという名称が使われ始め、同じ頃に現代のホームセンターに近い形態の店舗が広く普及しました。
現代においても、一般消費者のDIYやハウスキーピングのニーズに応えられる商品を取り扱う店舗は「ホームセンター」と呼ばれます。
近年はホームセンターに対する消費者のニーズが拡大し、リフォーム事業やガーデニングサービス事業、家具・家電販売を行うホームセンター事業者も増えています。
(出典:経済産業省「商業動態統計調査 時系列データ」 https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syoudou/result-2/excel/h2slt44j.xls )
また、商品別販売額での内訳は下記の通りとなっています。
DIY用具・素材 | 約7,598億円 |
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電気 | 約2,199億円 |
インテリア | 約2,006億円 |
家庭用品・日用品 | 約7,093億円 |
園芸・エクステリア | 約5,293億円 |
ペット・ペット用品 | 約2,946億円 |
カー用品・アウトドア | 約1,692億円 |
オフィス・カルチャー | 約1,414億円 |
その他 | 約3,167億円 |
合計 | 約3兆3,411億円 |
(出典:経済産業省「商業動態統計調査 時系列データ」 https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syoudou/result-2/excel/h2slt44j.xls )
商品別販売額では「DIY用具・素材」が最も高く、以降は「家庭用品・日用品」「園芸・エクステリア」の順となっていることが分かります。
ホームセンター業界の市場規模は、過去9年間で2020年の「約3兆4,963億円」が最も高くなっていました。対して2021年は「約3兆3,904億円」、2022年は「約3兆3,420億円」と2年連続で微減しています。中長期的な視点では、市場規模の推移は横ばいの状態です。
(出典:経済産業省「商業動態統計調査 時系列データ」 https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syoudou/result-2/excel/h2slt44j.xls )
しかし、商品別販売額で見た場合は、商品によって販売額の増加・減少傾向が顕著に見られます。ホームセンター業界でのM&Aを検討する場合は、市場規模の拡大が見られる分野と縮小傾向にある分野を理解することが重要です。
ホームセンター業界でのM&Aでは、業界の動向と課題についても把握しなければなりません。
ホームセンター業界における主要な動向と今後の課題を3つ紹介します。
●飽和状態となっている
近年におけるホームセンター業界の市場規模は3兆円台前半で推移しており、市場は飽和状態となっています。市場規模の大幅な縮小こそないものの、大幅な進展も見込みにくい状況です。
ホームセンター各社は日本各地に積極的な新規出店を行ったため、新たな市場の開拓も難しくなっています。飽和状態の市場に対して店舗数が増加しすぎたことにより、ホームセンター1店舗あたりの売上は減少傾向にあると言われています。
●同業他社やその他小売企業との競争が激化している
市場が飽和状態にある中で、ホームセンター各社が新規出店を続けたことにより、近年は同業他社との競争が激化しています。
くわえて、ホームセンターの中にはオフィス用品・家電製品・衣類・食料品などを取り扱う事業者も多く、その他小売企業との競争も存在する業界です。
日本は少子高齢化が進んでおり、将来的な市場の縮小が大きな課題となります。同業他社やその他企業との競争はさらに激しくなることが予想されるため、ホームセンターの事業者には勝ち残るための対応策が必要です。
●上位寡占が進んでいる
近年、ホームセンター業界ではM&Aが活発に行われています。特に大手ホームセンターによる買収や提携のM&Aが多く、上位企業のシェア寡占化が進んでいる状況です。
ホームセンター業界におけるM&Aは、市場の飽和状態に対応するための方法です。M&Aの流れは加速化すると見られており、上位寡占もさらに進行するとされています。
ホームセンター業界がM&Aを行うことには、譲渡側・譲受側のどちらにもさまざまなメリットがあります。M&Aを検討する際は、双方のメリットを正しく理解することが大切です。
まずは売り手となる譲渡側のメリットを3つ挙げて、それぞれのポイントを説明します。
M&Aの手法としては「買収」が広く知られているものの、他にも「合併」や「分割」といった手法があります。合併や分割を選べば、譲渡側にとっては事業の統合・再編につながる点がメリットです。
例えば同じホームセンター事業者との合併では、既存事業の統合によって経営基盤の強化が図れます。また、分割であれば、自社が切り離したい事業を選んで他社に承継させることが可能です。
ホームセンターが取り扱う各種事業は、当該事業を専門的に取り扱う事業者が存在しているため、分割による事業再編を目指しやすい業界と言えます。
M&Aの譲渡側は不要な資産を売却できるため、資産の最適化ができます。業種の特徴として幅広い事業を手がけるホームセンター事業者にとって、資産の最適化は重要な課題です。
例えばホームセンターがアパレル事業も行っている場合、衣料品の陳列用資材や保管倉庫などがコストとして発生しています。アパレル事業を切り離す場合に、関連する資産も売却をすれば、コスト圧縮と資産の現金化が可能です。
資産の最適化によって、より重要な事業のために資産を使えるようになり、経営安定化も図れます。
近年は日本全体で企業経営者の高齢化が進んでおり、ホームセンター業界においても事業を継いでくれる後継者の確保が問題となっています。
ホームセンター業界のM&Aは、譲渡側にとって後継者問題を解決させられる点もメリットです。
M&Aで株式譲渡などのスキームを選択することで、新しい経営陣を迎えて事業を継続できるようになります。取引先との取引継続や従業員の雇用維持もできるため、後継者問題に悩む方にとって魅力の多い選択肢となるでしょう。
M&Aにおける譲受側は、事業を受け取って活用する側です。ホームセンター業界におけるM&Aは譲受側にも多くのメリットがあるため、自社が目的とするメリットを明確にしてM&Aを進めましょう。
以下では、M&Aによる譲受側の代表的なメリットを3つ紹介します。
ホームセンター業界のM&Aでは、譲受側は既存事業の強化や新規事業の展開ができます。新たな商品の取り扱いが可能となり、より幅広い消費ニーズに応えられます。
例えば特定事業に強みを持つ企業と提携すると、共同開発によって独自性の高い商品・サービスを提供することも可能です。事業譲渡や吸収分割といったスキームを選んだ場合でも、自社にとって重要性が高い事業を承継すれば販売品目を増やせるでしょう。
事業範囲の拡大・成長を目指すホームセンター事業者にとって、M&Aは関連技術・ノウハウを入手できる機会となります。
買収や合併のM&Aでは、譲渡側が構築していた仕入先との関係性をM&A後もそのまま利用できます。メーカーとの提携であれば、提携先から商品を直接仕入れることで仕入れ価格の低下が狙えるでしょう。
仕入れルートの最適化によってコストを削減できると、顧客に多くの商品をより安価で提供できます。競合他社と比べて商品提供価格を押し下げることができ、価格競争力の向上が可能です。
ホームセンターの競合には専門店・スーパー・ドラッグストア・ネット通販などさまざまな業界が存在するため、価格競争力を向上させる重要性は高いと言えます。
有名なブランドを持っている企業とM&Aをした場合は、譲受側のホームセンターも同一のブランドを展開できます。ブランドを一から築く必要がなくなり、ブランド力が向上する点がメリットです。
例えば若年層に人気のブランドを保有するアパレル企業を吸収合併すれば、ホームセンターが同名のブランドを展開して若年層の顧客を取り込みやすくなります。
M&Aによるブランド力の向上は、顧客開拓や認知度向上を目指す事業者にとって見逃せないポイントです。
ホームセンター業界におけるM&Aを成功させるためには、事例を参考にすることも有効です。
ホームセンター業界のM&Aは近年活発化しており、大手が絡むM&A事例も増えています。
ここからは、ホームセンター業界のM&A事例を3つ取り上げて、どのようにM&Aが行われたのかを解説します。
カインズは、2021年12月22日に東急不動産ホールディングスの連結子会社である東急ハンズの買収を行いました。
譲渡(売り手)側 | 株式会社東急ハンズ |
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譲受(買い手)側 | 株式会社カインズ |
M&Aの目的 | 2社の強みを生かすことによる「新たなDIY文化の共創」 |
M&Aのスキーム | 株式譲渡 |
2社はいずれもホームセンター事業者であり、カインズは「くらしに、ららら。」をプロミスとし、一方の東急ハンズは「生活文化の創造」を理念としています。親和性の高い理念を掲げる2社は「新たなDIY文化の共創」を目指し、カインズが東急ハンズの発行済全株式を譲受する形で買収を完了しました。
東急ハンズは2022年3月31日付でカインズグループの傘下となり、同年10月1日には商号を「株式会社ハンズ」に変更しています。
カインズとunerryは、2021年5月26日に資本業務提携を結びました。
提携企業 | 株式会社カインズ、株式会社unerry |
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M&Aの目的 | カインズが推進するSBU戦略に必要なデータの収集と活用 |
M&Aのスキーム | 資本業務提携 |
unerryは、日本最大級のリアル行動データプラットフォームを運営し、さまざまなビッグデータなどを活用したリテールDXサービスを提供する企業です。
unerryはM&A以前にもカインズへのデータ活用支援を行っていたものの、より連携を強化するために資本業務提携を結びました。
両社はM&Aにより、利用客のくらしの質をより良くするためのデータ収集と活用に本格的に着手し、商品開発や販促活動に生かすことを目指しています。
コーナンは、2023年3月1日に同社の連結子会社であるビーバートザンを吸収合併しました。
譲渡(売り手)側 | 株式会社ビーバートザン |
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譲受(買い手)側 | コーナン商事株式会社 |
M&Aの目的 | 組織の一体化と、より効率的な経営の実現 |
M&Aのスキーム | 吸収合併 |
コーナンとビーバートザンはいずれもホームセンターを展開する企業であり、2017年にコーナンがビーバートザンを完全子会社化しています。2023年の吸収合併は、両社の組織の一体化と経営効率化を目的として行われました。
吸収合併によりビーバートザンは解散となり、同社の事業はコーナンに承継されています。
ホームセンター業界におけるM&Aの流れを、11個のステップに分けて説明します。
STEP(1)M&Aの目的・方向性の明確化 |
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まずは自社がM&Aを実施する目的と大まかな方向性を明確化します。ホームセンター全体の経営状況や事業、資産などを正確に把握する作業も行います。 |
STEP(2)M&Aアドバイザーへの相談 |
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M&Aをスムーズに進めるために、M&Aアドバイザーなどの専門家に相談して、サポートを受けられる体制を構築します。 |
STEP(3)スキームの検討と必要資料の作成 |
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専門家と相談しつつ、M&Aで選択するスキームを検討します。同時に、自社の価値を算定する「企業価値評価」の実施と、M&A先に提出する「企業概要書」の作成も行いましょう。 |
STEP(4)M&A候補の選定・交渉 |
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M&A候補の選定・交渉を行います。候補の選定は、まず候補先企業をピックアップしたリストで行い、2~3社ほどに絞られた後にトップ面談を行う流れです。 |
STEP(5)基本合意書の締結 |
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M&A先の決定後は、スキーム・譲渡範囲・取引価格などの基本条件について定めた「基本合意書」を締結します。 |
STEP(6)譲受側によるデューデリジェンスの実施 |
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デューデリジェンスとは、譲受側が譲渡側に対して行う監査のことです。譲受側が選定した専門家により、法務面・税務面などのさまざまな観点から調査を行います。 |
STEP(7)最終条件の交渉 |
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基本合意書の内容をベースにして、最終的な譲渡範囲や取引価格、譲渡後のホームセンター事業の在り方や従業員の待遇などについて交渉を実施します。 |
STEP(8)最終契約書の締結 |
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両社で最終条件の合意ができたら、最終契約書を締結します。最終契約書には法的拘束力が発生するため、契約内容を十分に確認した上で締結に進みましょう。 |
STEP(9)クロージング |
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最終契約書の内容にもとづき、ヒト・モノ・カネといった企業の資産を移動する手続きが「クロージング」です。クロージングの実施により、M&A自体の手続きは終了します。 |
STEP(10)統合プロセスの実施 |
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M&Aの事後処理として統合プロセスを実施します。ホームセンターM&Aでは、ホームセンター各店のシステムや給与体系といったハード面と、従業員の意識統一や社風整備といったソフト面での統合が必要です。 |
STEP(11)情報開示と事業展開 |
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M&Aの実施を取引先や金融機関などに報告し、投資家向けにも情報開示を行います。情報開示後にはホームセンター事業の展開に進み、M&A全体の流れは完了です。 |
上記を見て分かるように、ホームセンター業界のM&Aには多くの手続きが必要です。譲渡側・譲受側のいずれの立場であっても、綿密な計画を立ててM&Aを進められるようにしましょう。
最後に、ホームセンター業界のM&Aを成功させるためのポイントを3つ紹介します。
●消費者ニーズに応じた販売チャネルの拡大も検討する
近年はECサイトやショッピングアプリが登場しており、従来のホームセンターでは対応しにくい消費者ニーズを満たしています。ホームセンター業界でM&Aを実施する際は、消費者ニーズに応じた販売チャネルの拡大も検討してください。
ECサイト・アプリといった新しい販売チャネルに強い企業と提携できれば、今まで逃していた消費者ニーズへの対応が可能となり、業績向上につながる可能性があります。
●スタッフの教育・研修を行いつつ人材流出を防止する
ホームセンター業界のM&Aでは新しい事業を展開することが多いため、M&Aに合わせてスタッフの教育・研修を適宜行いましょう。
M&Aを実施すると、職場環境や社風の変化に不安を覚えるスタッフも少なくありません。スタッフの教育・研修と同時に、働きやすい職場環境の整備や待遇の見直しなどを進める必要があります。
●ホームセンター分野のM&Aに知識のあるアドバイザーを選ぶ
ホームセンター業界はさまざまな事業を内包しており、M&A先の候補が多く存在します。自社の目的に合った候補先企業を探すには、ホームセンター分野のM&Aに知識のあるアドバイザーを選ぶことが大切です。
ホームセンター分野に詳しいアドバイザーは業界の動向を熟知しており、候補先企業の詳細な情報も収集できます。自社の課題を解決できる提案により、ホームセンター業界におけるM&Aを成功に導いてくれるでしょう。
ホームセンター業界には市場規模の飽和や企業間の競争激化といった課題があり、近年はM&Aが活発化しています。ホームセンター業界でM&Aを成功させるには、メリット・デメリットと流れを理解した上で、ポイントを押さえたM&Aを実施することが重要です。
株式会社レコフでは、さまざまな業界に精通したアドバイザーによる、企業の目的に合わせたM&Aを提案しております。
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監修者プロフィール
株式会社レコフ リサーチ部 部長
澤田 英之(さわだ ひでゆき)
金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。
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