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業界別M&A
IT系・物流・製造など、多くの業種で活発にM&Aが行われています。近年は飲食店のM&Aも増加しており、事業拡大や事業承継の手段の1つとして注目が高まっています。
飲食店のM&Aを検討している方は、まずは飲食店が抱えている課題を把握することが重要です。その上で、業界のM&Aに関する知識を深めておくことM&Aの成功を目指しやすくなります。
今回は、飲食店の特色・市場動向・課題について詳しく解説します。立場別のメリットや案件の探し方にも触れるため、ぜひ参考にしてください。
飲食店とは、お客様からの注文を受けて調理した料理・飲み物を提供する事業を意味します。具体的には、レストラン・居酒屋・カフェなどが挙げられます。近年増加しているデリバリー専門店やテイクアウト専門店も飲食店の1つです。
ここでは、飲食店に共通する特色を5つ解説します。
飲食店は初期投資が大きく、資金面での負担が大きくなりやすいのが特徴です。小規模な飲食店を開業する場合でも、1,000万円前後かかると言われています。
飲食店の開業にかかる主な初期費用は、下記の通りです。
近年では、維持費用の大部分を占める人件費を削減する目的でセルフオーダーシステムを導入する飲食店が増加しています。セルフオーダーシステムには、「滞りなく注文を受けられる」「注文ミスを防げる」などのメリットもあります。
ただし、新しいシステムを導入するとなれば、その分初期投資が必要です。
飲食店の売上には、店舗の立地条件が大きく影響します。 料理の質が高くコンセプトが確立されていても、立地条件が悪ければ十分な集客に繋がらない可能性があります。飲食店経営の成功は立地にかかっていると言われるほど、立地条件は重要な要素です。
しかし、立地条件が良いエリアには競合がすでに店舗を構えていることも多く、新規出店が難しいケースも少なくありません。立地条件が良い物件は物件取得費やランニングコストが高くなりやすい傾向にあるため、物件の見極めは慎重に行う必要があります。
飲食店の経営は、外的要因の影響を受けやすいことも特徴です。 世界情勢による市場の停滞や、景気動向による物価の高騰などの影響で、ランニングコストの負担が大きくなります。増えた負担の価格転嫁にも限界があり、経営危機に至る飲食店も少なくありません。 また、SNSで気軽に情報発信できる時代だからこそ、流行の影響も受けやすいと言えます。流行に乗れば売上アップが見込めるものの、同じ売上水準を長期的に維持できるとは限りません。
飲食店は参入ハードルが低く、条件がクリアできれば個人でも開業が可能です。
飲食店開業の具体的な条件は、下記の通りです。
従業員を雇わない場合は、労災保険・雇用保険の加入手続きは不要です。深夜0時以降にお酒を提供するお店は、深夜酒類提供飲食店営業の届出が必要となります。
新規事業への参入を支援する融資制度も充実しており、自己資金が不足していても融資を受けて飲食店開業を目指すことが可能です。
小規模飲食店では、業務が属人化しやすい傾向にあります。 仕入れ・仕込み・調理・お金の管理などを限られた人数でこなさなければならず、担当者の休暇取得や離職によって業務停滞が発生してしまう場合があります。従業員一人ひとりが店舗に与える影響は大きく、負担やプレッシャーが大きくなりやすいことも特徴です。
個人や少人数の従業員で飲食店を営業する場合は、属人的な要素によるリスクが伴います。
飲食店の市場は、M&Aが活発化していることもあり、大手企業による市場占有率が上昇しています。
外食産業動向調査によるコロナ禍前後の売上高・客数・客単価の伸び率(前年比)は、下記の通りです。
売上高 | 客数 | 客単価 | |
---|---|---|---|
2019年 | 101.9% | 100.2% | 101.7% |
2020年 | 84.9% | 82.2% | 103.3% |
2021年 | 98.6% | 98.0% | 100.5% |
2022年 | 113.3% | 106.2% | 106.7% |
2023年 | 114.1% | 106.3% | 107.3% |
2024年 | 108.4% | 104.3% | 103.9% |
(出典:日本フードサービス協会「外食産業市場動向調査 令和6年(2024年)年間結果報告」https://www.jfnet.or.jp/files/nenkandata-2024.pdf )
2020年は、コロナウイルス感染症の拡大により多くの飲食店が膨大な影響を受けました。事業継続が困難となり、倒産・廃業した飲食店も少なくありません。 とは言え、新型コロナウイルスの拡大が落ち着いてからは、客足が回復してコロナ禍以前よりも売上が大幅に伸びていることが分かります。
アフターコロナを迎えた2023年には、飲食店の売上が大きく回復しました。しかし、さまざまな課題に頭を抱える経営者も多く、すべての飲食店の経営が順風満帆とは言えません。
以下では、飲食店が抱える主な課題を解説します。
多くの業種では、深刻な人手不足に直面しています。飲食店も例外ではなく、十分な従業員を確保できずに労働力不足に陥っているお店が多く見られます。
飲食店の人手不足の主な原因は、下記の通りです。
労働人口自体が減少している以外に、飲食店は他の業種に比べて賃金が低く労働環境が過酷なイメージが強いことも人手不足に大きく影響しています。
世界情勢の影響を受けて、飲食店の仕入れ価格が大幅に上昇しています。 消費者ニーズを考えると安易に価格の値上げもできず、売上維持が困難になっているケースも珍しくありません。飲食店経営では、いかに原価率を下げるかが大事なポイントになります。
また、働き方改革の影響や燃料費の高騰を受けて物流コストが上昇していることも、飲食店経営にダメージを与えています。
飲食店経営のライバルは、同業他社だけではありません。近年は異業種との競争も激化しており、差別化が難しくなっています。
コンビニのイートインスペース併設や、スーパー・デパートの総菜のクオリティーが上がっていることなどが影響して、外食より内食を好む人が増えています。
総菜やおつまみはもちろん、スイーツに力を入れているコンビニやスーパーも多く、飲食店にとって強力なライバルと言えるでしょう。
キャッシュレス導入は、会計の手間が省けることにより業務効率の向上や釣銭不足の回避が見込まれ、お店側にとっても様々なメリットがあります。非接触で衛生的なことも飲食店には大きなメリットです。 一方で、キャッシュレス導入にはコストがかかります。端末の設置やサービス提供元に支払う手数料などの導入コストは、経営が厳しいお店にとって負担が大きいのが現状です。
手数料負担が経営に影響を与える場合は、決済事業者と交渉をしたり他の決済事業者を探したりといった対策が必要となります。
飲食店は慢性的な人手不足が続いており、後継者不足に悩む経営者も少なくありません。
事業承継のスタイルは、親族内承継が多い傾向にあります。しかし、少子化や職種の多様化により親族内承継ができないケースが増えています。経営者が高齢で事業を任せられる人材がいない場合、店を存続させることは困難です。
廃業を選択する場合、従業員は職を失い新たな雇用先を探すことになります。
近年、複数の課題を抱える飲食店が増加しており、小規模飲食店を中心にM&Aが行われています。
飲食店のM&Aは他の業種・業界に比べて相場が安価なため、企業だけでなく個人にも人気です。ただし、飲食店のM&A相場は、売上高・ブランド力・立地が大きく影響します。店舗が駅に近く、交通量が多い幅の広い道路に面している場合は、価格が高くなりやすいでしょう。
飲食店のM&Aの目的は、それぞれの立場によって異なります。譲渡側・譲受側のM&Aの主な目的は、下記の通りです。
譲渡側 |
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譲受側 |
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譲渡側は、事業の安定や成長を目指してM&Aを行うケースが多く見られます。一方、譲受側には異業種が多く、飲食業界への参入や事業強化が主な目的です。海外市場への進出を狙ってM&Aを行うこともあります。
飲食店のM&Aは、譲渡側にとって多数のメリットがあります。お店の譲渡を考えている方は、M&Aによってどのようなプラスの影響があるのかチェックしておきましょう。
以下では、M&Aによる譲渡側のメリットを3つ解説します。
M&Aにより大手傘下に入ることで、資金・ノウハウ・ブランド力などの潤沢な経営資源を活用できるようになります。事業のさらなる成長が目指せることは、大きなメリットと言えるでしょう。
また、譲渡先から資金注入を受けることで経営再建も期待できます。M&Aは、赤字状態が続いて経営難に陥っているお店が経営を立て直すためのチャンスでもあります。自社の経営資源で再建が難しい場合は、第三者からの支援により再建を目指すのが得策です。
M&Aを行うことで、引退後の店舗存続を図れます。店舗や設備はもちろん従業員も譲渡先に引き継がれるため、お客様・取引先・従業員にとってマイナスな変化はほとんどありません。
廃業すればテナントの原状回復に費用がかかりますが、お店を存続できれば撤退にかかる費用は負担せずに済みます。後継者不足を課題に感じている経営者にとって、大切なお店を引き継いでもらえることは大きなメリットです。
M&Aによって経営者は創業者利益を獲得できます。創業者利益とは、自社株式を譲渡先に売却して得られる譲渡益です。 創業者利益は新規事業の資金や引退後の生活資金など、経営者が好きなように使うことができます。創業者利益はお店の価値によって決まるため、できるだけ多くの利益を獲得したい場合は、業績の良いタイミングで売却するのがポイントです。
飲食店のM&Aは、譲渡を受ける側にも様々なメリットがあります。飲食店の買収や新規参入を検討している方は、得られるメリットをチェックしておきましょう。
以下では、M&Aによる譲受側のメリットを3つ解説します。
すでに完成された環境で飲食店の運営を始められることは、譲受側の大きなメリットです。
既存店舗を活用すれば、物件探しの手間が省けるだけでなく改装工事費用も抑えられます。必要な設備も整っているため、設備投資も最小限で済みます。 また、実績がありブランド力を持つ飲食店であれば、買収後の経営もスムーズです。ノウハウのある従業員を引き継ぐことで、人材育成にかかるコストも削減できます。
飲食店の買収により店舗数が増えれば、スケールメリットを享受できます。 スケールメリットとは、事業規模の拡大により得られる優位性や有利性などです。食材の仕入れをまとめて行うことでコストを抑えられ、経営効率化や生産性の拡大につながります。知名度やブランド力の向上にも効果的です。
店舗拡大を効率良く進められるため、市場シェアの拡大も期待できるでしょう。
異なる業種や業態の企業と手を組むことで、多角的な事業展開によるシナジー効果が生まれやすくなります。
シナジー効果とは、複数の企業や事業がお互いに作用し合うことで生まれる相乗効果です。個別に事業を行うよりも大きな効果が得られるのが魅力です。自社に不足している技術や要素の獲得は、企業成長にも大きく影響します。
また、多角的な事業展開を進めることで、外的要因による影響を受けにくくなります。
飲食店におけるM&Aを成功に導くには、過去の事例を参考にするのも有効です。M&Aの具体例をチェックして、これからのM&Aに役立てましょう。
ここからは、飲食店のM&Aを行った企業の情報とM&Aの概要を紹介します。
ゼンショーホールディングスは、2023年4月にロッテリアを買収して子会社化しました。
譲渡側 | ロッテリア |
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譲受側 | ゼンショーホールディングス |
M&Aの目的 | シナジー効果による事業拡大と発展 |
M&Aのスキーム | 株式譲渡 |
ゼンショーホールディングスは、国内外で幅広くフード事業を展開しています。ロッテリアは、アジアを中心にチェーン展開するハンバーガーショップです。
ロッテリアを子会社化することで、コスト削減や販路拡大を実現し、さらなる事業拡大と発展を目指しています。
ブロンコビリーは、2024年3月にレ・ヴァンを買収して子会社化しました。
譲渡側 | レ・ヴァン |
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譲受側 | ブロンコビリー |
M&Aの目的 | シナジー効果による収益の向上 |
M&Aのスキーム | 株式譲渡 |
ブロンコビリーは、東海地方を中心にレストランチェーン店を運営しています。レ・ヴァンは、愛知県内でとんかつ専門店を展開する飲食店です。
レ・ヴァンを買収することで、愛知県下での営業基盤の強化と食材調達力の活用による収益力の向上を目指しています。
サンマルクホールディングスは、2022年4月に子会社3社を吸収合併しました。
譲渡側 |
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譲受側 | サンマルクホールディングス |
M&Aの目的 | ビジネスモデルの再構築による収益の改善 |
M&Aのスキーム | 吸収合併 |
サンマルクホールディングスは、さまざまな業態の外食チェーンを展開しています。子会社3社を吸収合併することで、サンマルクホールディングスが存続会社となり、3社は消滅会社となりました。 M&A後は、ビジネスモデルを再構築して収益の改善を目指しています。
飲食店のM&Aを成功させるには、自社にとってメリットが大きい飲食店を探す必要があります。
飲食店のM&A案件を探す方法は、次の4つです。
概要 | |
---|---|
金融機関 | M&Aに特化した部署がM&Aをサポート |
事業承継・引継ぎ支援センター | 事業承継に関する幅広い相談に対応 |
M&Aプラットフォーム | サイトを通じて譲渡側と譲受側のマッチングを支援 |
M&Aアドバイザー | M&Aディールをマーケティングからクロージングまでサポート&Aをサポート |
金融機関の場合、取引のある銀行であれば気軽に相談できます。
事業承継・引継ぎ支援センターは、国が設立する相談窓口で費用は無料です。直接的な仲介は行っていないため、一貫したサポートを受けたい方は他の方法を利用しましょう。
M&Aプラットフォームは、アドバイザーを利用せず直接譲受側とやりとりすることからコストが抑えられます。しかし、サポート力にはばらつきがあるため、相談先の見極めが重要です。
M&Aアドバイザーは、手数料が発生するものの、M&Aに特化した専門家が在籍しており丁寧なサポートが受けられます。サポートを受けて安心してディールを進めたい方には、実績が豊富なM&Aアドバイザーへの相談がおすすめです。
飲食店は、参入ハードルが低く個人でも始めやすい業種です。一方で、初期投資が大きく外的要因に売上が影響を受けやすいこともあり、開業後に経営難に陥るケースも少なくありません。
多くの飲食店は、人手不足や仕入れコストの上昇、キャッシュレス導入によるコスト増など様々な課題を抱えています。近年、課題を改善したい経営者や新規参入を考える異業種企業経営者から、M&Aが注目されています。
飲食店のM&Aを検討している方は、まずは案件探しやサポートを依頼できるM&Aアドバイザーに相談してみましょう。
監修者プロフィール
株式会社レコフ リサーチ部 部長
澤田 英之(さわだ ひでゆき)
金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。
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