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宗教法人業界のM&A動向

業界別M&A

2025.06.10更新日:2025.06.10

国内外を問わず、さまざまな業界でM&Aが活発に行われています。近年は、宗教法人業界におけるM&Aも増えつつあります。

M&Aは経営課題を解決する手段の1つです。自院や神社を存続させるためM&Aを行うケースも多く見られます。宗教法人の売却を考えている方や宗教法人格を取得したいと考えている方は、まずは業界内の実情をチェックしておきましょう。

今回は、宗教法人業界の特色や市場規模、M&A動向について詳しく解説します。M&Aのメリットや成功させるポイントにも触れるため、ぜひ参考にしてください。

目次
 
 

宗教法人業界とは?

宗教法人業界とは、法人格を取得し事業活動を行う宗教団体です。法人格の取得には、都道府県知事もしくは文部科学大臣の認証が必要です。

宗教法人は社会公共の利益を図るものの、事業は営利を目的としていません。宗教法人は信仰や教義が設立のベースとなっているため、数多くの種類が存在しています。

代表的な宗教法人は、下記の通りです。

神道系仏教系キリスト教系
  • 神社本庁
  • 浄土宗
  • 曹洞宗
  • 日蓮宗
  • 日本基督教団

また、宗教法人と一口に言っても、大まかに「単位宗教法人」と「包括宗教法人」の2種類に分けられます。ここからは、宗教法人法が定める「単位宗教法人」と「包括宗教法人」について詳しく解説します。

種類(1)包括宗教法人

包括宗教法人は、神社・寺院・教会などを傘下に持つ法人です。共同の宗教的な目的を持つ団体が集まった組織で、宗派や教派、教団などが該当します。包括宗教法人に属する宗教法人は、場合によっては属する包括宗教団体の承認を得た上で事務を進める必要があります。

教義内容に相違が生じた場合は、包括関係の廃止により単立化することも可能です。包括関係の廃止には、承認申請や変更登記などの諸手続きが必要です。

種類(2)単位宗教法人

単位宗教法人とは、神社・寺院・教会などのように礼拝の施設を備える法人を意味します。

単位宗教法人は、以下の2つに分類されます。

●被包括宗教法人

被包括宗教法人は、包括宗教法人の傘下にある宗教法人です。傘下にあるとはいえ、包括宗教法人と被包括宗教法人の間に法律的な上下関係や支配関係はありません。 ただし、包括宗教法人と被包括宗教法人の双方で規則を定めている場合は、規則に沿って運営を行う必要があります。

●単立宗教法人

単立宗教法人は、包括宗教法人の傘下にない単位宗教法人です。包括関係の廃止により単立化した場合も、単立宗教法人に該当します。

宗教法人業界の特色

宗教法人は、一般的な事業法人とは異なる特色があります。宗教法人のM&Aを検討している方は、特色や一般事業法人との違いを理解しておくことが大切です。

以下では、宗教法人業界の特色を3つ解説します。

活動実態等の報告が義務付けられている

宗教法人は、宗教法人法によって活動実態等の報告が義務付けられています。法人格の不正取得や営利活動を防ぐことが主な目的です。 活動実態等の報告時期や提出書類は、下記の通りです。

報告時期毎会計年度終了後4か月以内
提出書類

以下の書類の写しを提出

  • 役員名簿
  • 財産目録
  • 収支計算書
  • 貸借対照表(作成している場合のみ)
  • 境内建物に関する書類
  • 事業に関する書類

宗教法人の会計年度は宗教法人規則で定められており、報告時期は法人ごとに異なります。一般事業法人と同様に、3月を会計年度とするケースがほとんどです。 期日までに活動実態等の報告を行わなかった場合、代表役員や代務者などに対して10万円以下の過料が科せられます。役員や財産などに変更がない場合にも、書類を提出しなければなりません。宗教活動のみを行っている場合は、「事業に関する書類」は不要です。

固定資産税が非課税となる

宗教法人が所有する宗教活動に使用している固定資産は、非課税対象です。一般的な事業法人が宗教法人を買収する場合、固定資産を宗教活動に直接使用するのであれば固定資産税がかかりません。
固定資産税が非課税となるのは、宗教活動に使用する固定資産に限られます。住宅や宅地、農地や山林などには税金が課せられます。

固定資産税が非課税となる固定資産の具体例は、下記の通りです。

  • 本殿
  • 拝殿
  • 本堂
  • 納骨堂
  • 修行所
  • 社務所
  • 教職舎
  • 宗務所

ただし、宗教法人としての本来の目的を果たしていない場合は、課税対象となるため注意が必要です。

年間収入8,000万円以下は非課税措置が適用される

宗教法人は営利目的の事業を行わないことが前提であるため、非課税措置が適用されます。宗教活動による年間収入が8,000万円以下であれば、法人税はかかりません。確定申告も不要です。 ただし、年間収入が8,000万円を超える場合や収益事業を行っている場合は、法人税の申告義務が生じます。加えて、収益事業を行っていなくても、お布施・寄付金・お賽銭などの年間収入が8,000万円を超えている場合は確定申告が必要となります。

宗教法人業界の市場規模と動向

文化庁が実施した宗教統計調査による国内の宗教法人数(2023年12月31日時点)は、下記の通りです。

包括宗教法人単位宗教法人合計
391 178,530 178,921

(出典:文化庁「令和6年の宗教統計調査の結果を公表します」https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/hakusho_nenjihokokusho/shukyo_nenkan/pdf/r06nenkan_gaiyo.pdf )

単位宗教法人の内訳は、被包括宗教法人が171,156法人、単立宗教法人が7,374法人です。

以下の表では、宗教法人数の推移をまとめています。

 包括宗教法人単位宗教法人合計
2021年 394 179,558 179,952
2022年 393 178,946 179,339
2023年 391 178,530 178,921

(出典:政府統計の総合窓口「宗教統計調査 7 主要数値の推移 宗教法人」https://www.e-stat.go.jp/stat-search/database?page=1&layout=datalist&stat_infid=000040232608&statdisp_id=0003284679 )

2023年の宗教法人数は、2021年と比較して1,031法人減少しており、緩やかな減少傾向が続いています。包括宗教法人の減少は3法人のみで、単位宗教法人の減少割合が大きいことが特徴です。 とはいえ、宗教法人業界の市場規模は約7兆円と言われ、日本経済において大きな影響力をもっています。宗教法人業界とドラッグストア業界の市場規模は、ほぼ同等と言えます。

宗教法人の事業は、主に法事や法話など宗教活動に関する事業、お守りやおみくじの販売といった収益事業の2つです。葬儀のやり方やお墓の考え方が多様化する中、収入源の確保が大きな課題です。

観光や文化事業と連携したイベントの開催、オンライン法事、デジタル布教などの導入も増えています。

宗教法人業界のM&A動向

宗教法人業界では、収入源の確保や信者基盤の拡大などを目的としたM&Aが主流です。都心部の宗教法人による運営が難しい地方寺院の統合、デジタル技術を強みとする企業との連携による信者基盤拡大といった動きも見られます。

一方で、業界内ではM&Aに関連する問題も表面化しています。

宗教法人業界が抱える主な問題点は、下記の通りです。

  • 活動実態等の報告を行わない宗教法人が増加している
  • 税制優遇を悪用するブローカーが増加している
  • 法人格を持つことの信頼性が低下している

2004年以降、活動実態等の報告を行わない宗教法人が増加しています。宗教法人の運営継続が難しくなり、整理をせずに放置しているケースも珍しくありません。不活動状態に陥った宗教法人は、不活動宗教法人とみなされます。

税制上の優遇が受けられることや認証取り消しが難しいといった特徴を悪用して、法人格を売買するブローカーも存在します。宗教法人が犯罪行為に加担することになれば、業界全体の信頼が失墜しかねません。

宗教法人業界におけるM&Aを行う場合は、公益法人としての自覚と責任を持ち、社会的信頼性も考慮する必要があります。

【宗教法人業界】M&Aによる「譲渡(売り手)側」のメリット

宗教法人業界のM&Aによる譲渡(売り手)側のメリットは、主に2つあります。宗教法人の譲渡を検討している方は、得られるメリットをチェックしておきましょう。

ここからは、M&Aで得られる譲渡(売り手)側のメリットを詳しく解説します。

後継者不足の問題解決につながる

M&Aで宗教法人を引き継ぐことができれば、後継者問題を解決して継続的な運営を目指せます。参拝者や信者の心の拠り所を守れることも大きなメリットです。

住職の代替わりは、長男や身内が職を譲り受けるのが一般的でした。しかし、近年は少子化や働き方の多様化などにより、後継者の育成が難しくなっています。全国の寺院約8万件のうち、住職が不在の寺院は約2万件です。後継者が見つからず、廃寺や閉鎖となるケースも珍しくありません。

売却益を獲得できる

宗教法人を売却することで、譲渡(売り手)側は売却益を得られます。売却価格は特色や資産価値などによって決まります。宗教法人の土地や建物は資産価値が高く、まとまった金額となるケースがほとんどです。特に由緒ある宗教法人である場合や立地が良い場合は、売却益が高くなる傾向にあります。

尚、活動をほとんど行っていない休眠状態の宗教法人でも、M&Aは可能です。実際にM&Aが成立して数千万円の売却益を獲得したという事例もあります。

売却益の使い道に制限はありません。老後資金や自宅の修繕費用、旅行の費用など自由に使えます。

【宗教法人業界】M&Aによる「譲受(買い手)側」のメリット

宗教法人業界のM&Aは、譲受(買い手)側にもメリットがあります。宗教法人の買収ならではのメリットもあるため、しっかりチェックしておきましょう。

次に、M&Aで得られる譲受(買い手)側のメリットを4つ解説します。

税制優遇措置を受けられるようになる

税制優遇措置を受けられることは、譲受(買い手)側にとって大きなメリットです。

宗教活動に使用する固定資産は非課税となり、年間収入が8,000万円以下であれば法人税もかかりません。収益事業を行う場合も、一般事業法人より課税が優遇されていることが特徴です。一般法人の法人税率は15~23.2%であるのに対して、宗教法人は15~19%に設定されています。

ただし、収益事業を行う場合は、宗教本来の目的に反しない業種である必要があります。

新規設立のハードルが下がる

宗教法人を新規設立するハードルが下がることもメリットの1つです。

新たに宗教法人を設立する場合、下記の要件を満たす必要があります。

  • 宗教団体として最低3年間の活動実績を積む
  • 所轄庁の認可を受ける

宗教法人の設立準備を一から始めるとなると時間がかかります。一方、M&Aが成功すれば短期間で宗教法人を取得できるため、スピーディーな事業展開が可能です。

シナジー効果が期待できる

宗教法人業界のM&Aは、大きなシナジー効果が期待できます。

宗教法人業界のM&Aで期待できるシナジー効果の具体例は、次の通りです。

  • 地域ネットワークの共有による集客力の向上
  • 専門的な知識や経験の活用により経営の質が向上
  • 施設やリソースの共有によりコストを削減

M&Aはそれぞれに不足している部分を補うだけでなく、双方の特徴や強みの掛け合わせで「1+1=2」以上の効果が生まれる可能性があります。シナジー効果を期待する場合は、お互いに作用し合える宗教法人を選びましょう。

新たなビジネスモデルを構築できる

宗教法人業界のM&Aは、新たなビジネスモデルの構築にも効果的です。

デジタル技術を活かしたオンライン礼拝や、宗教文化施設を活用した観光など、アイディア次第で多数のビジネスモデルを構築できます。寄付プラットフォームを立ち上げて収入源を確保するのも1つの方法です。

新たなビジネスモデルの構築は、若い世代の参拝者や信者に興味を持ってもらうきっかけにもなります。宗教活動を維持する上で大きなメリットとなるでしょう。

宗教法人業界のM&Aを成功させるためのポイント

宗教法人業界には他の業界にはない独自の特徴があるため、一般企業のM&A手法で成功するとは限りません。まずはM&Aを成功させるポイントをおさえておきましょう。

ここでは、宗教法人業界のM&Aを成功させるためのポイントを2つ解説します。

M&Aの必要性を検討する

M&Aには多くのメリットがありますが、すべての宗教法人に必要というわけではありません。場合によっては、思い描いているようなメリットが得られない可能性もあります。

実行の必要性があるのか、しっかりと検討することがポイントです。「なぜM&Aが必要なのか」「M&Aによって何を目指すのか」が明確になると、譲渡先選びや条件の提示がしやすくなります。

また、デメリットにも目を向けてM&Aが不利益をもたらさないか確認することも大切です。譲渡(売り手)側は、檀家や信者、職員への影響も考慮しましょう。

一般の人が代表役員になれる宗教法人を選ぶ

買収した宗教法人の代表役員を引き継ぎたい場合は、一般の人が代表役員になれる宗教法人を選ぶことがポイントです。「買収したのに代表役員になれなかった」という事態にならないように注意しましょう。

包括宗教法人や被包括宗教法人は、原則として包括法人が定める規則に従うものです。包括宗教法人や被包括宗教法人の代表役員は、基本的に宗派で認められた人が選ばれます。

単立宗教法人の場合は、一般の人でも代表役員になることができます。宗教法人を買収するのであれば、単立宗教法人が適しているでしょう。包括宗教法人の制約を受けない単立宗教法人であれば、M&A成立後の運営もスムーズです。

宗教法人業界のM&Aのおすすめ相談先

宗教法人業界のM&Aでは、宗教法人法に基づいて手続きを進めることになります。一般的な事業法人とのM&Aとは違って、厳守すべきルールがあるため、専門知識がある人にサポートしてもらうのがおすすめです。

ここからは、宗教法人業界のM&Aの主な相談先を紹介します。

専門家(弁護士・税理士など)

法的リスクの検出や財務関連の助言を求める場合は、弁護士や税理士などの専門家に相談するのがおすすめです。

弁護士は、宗教法人法・会社法・金融証券取引法などに違反していないかどうかチェックしてくれます。秘密保持契約の作成やチェック、複雑な手続きにもスムーズに対応してもらえます。悪質なブローカーによる犯罪に巻き込まれるリスクも回避できるでしょう。

税理士には、税務全般の相談ができます。税負担をおさえるためのアドバイスや諸手続きのサポートを受けたい場合は、相談してみましょう。

宗教法人の包括団体

宗教法人の運営に課題を感じている場合は、包括団体に相談してみるのも1つの方法です。

宗教法人によっては、合併のマニュアルを作成しているケースや、M&Aの相談窓口を設けているケースがあります。宗教的背景への理解があり、同じ宗教団体のM&Aに関する情報を共有できることも魅力です。

後継者相談制度を導入している宗教法人もあるため、後継者問題に悩んでいる方は利用できる制度がないかチェックしてみましょう。

M&Aアドバイザー

スムーズかつ確実なM&Aを目指す場合は、M&Aアドバイザーへ相談するのがおすすめです。

M&Aアドバイザーは、多岐にわたる業界のM&Aに携わるプロフェッショナルです。企業間のマッチングからM&Aの成立までのトータルサポートが可能です。候補先の提案やリスクの洗い出しはもちろん、相手先との交渉にも対応しています。

M&Aアドバイザーを選ぶ場合は、実績や手数料も比較して信頼できる会社を選びましょう。

まとめ

宗教法人業界は、「包括宗教法人」「単位宗教法人」の2つに大きく分けられます。単位宗教法人のうち、包括宗教法人の傘下にある宗教法人を「被包括宗教法人」、傘下にない単位宗教法人は「単立宗教法人」と呼ばれます。

包括宗教法人・被包括宗教法人の代表役員は宗派で認められた人がなるケースがほとんどです。宗教法人を買収するのであれば、一般の人でも代表役員になれる単立宗教法人を選ぶのがおすすめです。

他にも、宗教法人には一般的な事業法人とは異なる点があります。M&Aを成功させるためにも、まずは実績と専門知識が豊富なM&Aアドバイザーに相談してみましょう。

監修者プロフィール

株式会社レコフ リサーチ部 部長

澤田 英之(さわだ ひでゆき)

金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。

 
 
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