平日9:00〜18:00
M&A初級編
M&Aは、企業を買う側にとっても、売る側にとっても企業の将来を決める重要な決断です。特にM&Aを実行したことによる「株価の動向」も気になるのではないでしょうか。今回は、M&Aが株価に及ぼす影響を売り手側と買い手側の視点でまとめました。それぞれの視点からみて、どんな影響が及ぶのかをしっかり把握しておきましょう。くわえて、株価の変動があったM&Aの事例についても紹介します。
企業を買う側の視点で見るとM&Aは、株価にもさまざまな影響を及ぼします。そもそもM&Aは、企業の売買や統合など、大きな取引です。M&Aによって事業のさらなる成長が促されたり、事業が多角化したりすることで株価が大きく変動するケースは少なくありません。特にM&Aにおける買い手は、自社の成長やシナジー効果による地盤強化を目的としてM&Aを実施しているケースが多いため、事業成長を見込んだ投資家が株を購入し、結果的にM&Aによって株価が変動することがあります。
株価はM&Aによってある程度変動しますが、その動きには一定の規則性があり、M&Aを実行する企業規模によって異なります。具体的には、中規模上場会社か、または大規模上場会社かによって、株価変動の規則性に変化が見られます。
例えば、売上高が3000億円未満の中規模上場会社がM&Aを実行すると、短期的な株価上昇がみられた後、中長期的な株価の下落がみられることがあります。この傾向はM&Aによる事業統合が思うようにいかず、従業員の解雇給付などのリストラクチャリングに想定以上のコストがかかった結果、多額の損失を計上する中規模上場会社が少なくないからだと考察できます。
一方、大規模上場会社の場合、初期に短期的な株価の下落がみられた後、中長期的に株価が上昇するケースがみられます。取引初期には多額の必要費用を計上するため、初期の株価下落はこれが影響していると考えられるのです。M&A取引後はシナジー効果などによって事業が成長し、結果的に株価上昇につながります。
M&Aによる株価変動は、買い手にどのような影響を与えるのでしょうか。買い手企業の株が上がるケースと下がるケースを、それぞれご紹介します。
これは、投資化の判断が大きく関係するのがポイント。つまり、M&Aによって買い手企業が成長すると投資家に判断されれば、それだけ多くの株が購入されます。その結果、買い手企業の株価が上昇するのです。くわえてM&Aによって実際の業績が向上した際も、買い手企業の株価は上昇します。M&Aの買い手側として株価を上昇させたいのであれば、M&Aによる成長戦略を十分に練る必要があるでしょう。
●ダイキン工業
空調機の世界的メーカーでもあるダイキン工業は、2012年にアメリカの空調機メーカーのグッドマン社を買収しました。買収後の事業拡大を予測した投資の影響もあり、2013年以降に株価が上昇。その上昇率は日経平均株価の上昇率を大きく上回りました。売上高もM&A実行後、1兆円増加しました。
当然ながら、M&Aによって買い手企業の株価が下がる場合もあります。これはM&Aによる業績悪化が予想されたり、投資化からの期待値が低かったりする場合によくみられるケースです。例えば、買収価格があまりにも高額であった場合は注意が必要です。その価格に見合うだけの業績やシナジー効果が得られなかった場合、買い手企業は大きな損失を被ります。これは、企業だけでなく株主にとっても大きなダメージになります。その結果、株主はリスキーな株式購入を控えるようになり、買い手企業の株価が下落します。
●パナソニック
大手電機メーカーのパナソニックは、2009年に三洋電機を買収して子会社化しました。しかし、買収後、三洋電機と重複するビジネスの統廃合に予想以上の追加コストが発生しました。くわえて三洋電機から引き継いだソーラー事業やリチウム電池事業で損失してしまい、株価が下落したという事例があります。
M&Aにおける売り手の株式は、基本的に上昇しやすい傾向にあります。特に買い手企業の業績が好調であったり、大手企業であったりすれば売り手側の業績改善が見込めるため、投資家の期待値が高まり株価が上昇しやすいといえるのです。買い手企業が売り手企業とのM&Aを切望しているケースでも、売り手企業の株価が上昇します。買い手企業からの熱烈なラブコールや、プレミア価格を上乗せしたうえでの買収志望は、売り手企業の価値の高さを証明する要素になります。これを受けた投資家からの期待値も上がり、結果的に売り手企業の株価が上昇します。
売り手企業の株価が上がったケースとして、NECの事例を紹介します。2016年にNECはパソコン事業部を中国のレノボグループに売却することを発表。それまで国内トップのシェア率を誇っていたパソコン事業から撤退することになりました。しかし、世界最大級の人口を持つ中国でのパソコン普及拡大が期待されたことから、短期的ではありますが株価が上昇しました。
売り手企業の株価が下がった事例には、日立製作所のケースがあります。日立製作所では2016年3月に、子会社である日立物流の株式(一部)を、佐川急便グループの純粋持株会社SGホールディングスに譲渡。さらに同年5月にはファイナンス事業を展開する、日立キャピタルの株式(一部)を三菱UFJフィナンシャル・グループに譲渡しました。しかし、相次ぐ子会社の株式譲渡を不安視した投資家たちが投資を控えたことで、株式譲渡を発表した後、株価が下落しました。
M&Aによる株価はどのように算出されるのでしょうか?主に次の5つの方法がありますが、それぞれの算出方法について紹介します。
対象となる企業や事業の収益性を基準に、株価を算出する方法です。「インカム・アプローチ」とも称されます。収益方式は、将来的な収益を計算して株価を算出する「収益還元法」、将来的に得られると予想されるキャッシュフローを一定のディスカウントレート(割引率)で割引いて算出する「DCF法」などの方式に分けられるのが特徴。
どちらも、企業の現在だけでなく将来的な価値を算出できるのが魅力です。一方で、過去の事例を元に将来の利益が算出されるため、必ずしも客観的な算出結果が出るとは限りません。
純資産価額方式とは、法人税や負債額を差し引いたうえで会社に残る資産(=会社の価値)を算出する方式です。国税庁によって計算式が定められており、その計算式に則っていれば比較的簡単に株価が算出できます。反面、あくまで現状ある資産をもとに株価を算出する方式であるため会社の将来性を加味できないのが弱点。成長見込みがある会社、将来性が期待されている会社の場合、振るわぬ算出結果になることもあり得ます。
その名のとおり、自社に類似する会社(規模や業種など)の株価をもとに自社の株価を算出する計算方法です。計算では、主に類似会社の「配当金額」「株価」「利益の額」「帳簿上の純資産額」を使用します。純資産価額方式と同じく、国税庁によって計算式が定められているため、比較的算出しやすいのがポイントです。国税庁によるデータや計算式をもとにしているため、算出結果にある程度の客観性も保証できます。その一方で計算の参考元になりそうな類似会社がなければ、類似会社批准方式による判断がそもそも難しくなってしまうのがウィークポイントです。
配当還元方式は、株式の配当をもとに株価を算出する方法です。具体的な計算式としては、「1株当たりの年配当金額/(一定の利率)×1株当たりの資本金額/50円」となります。1年間の配当金額を、一定の利率で還元したうえで株価を算出する方法だと考えるとわかりやすいでしょう。こちらも計算式が定まっており、要件を当てはめれば簡易的に株価を算出できます。
株式の配当が基準になっているため、類似会社批准方式や純資産価額方式と同じく一定の客観性も期待できるでしょう。ただし、計算で使用する「一定の利率」は計算者の裁量で設定できるため、ケースによっては客観的かつフェアに設定しづらいという側面もあります。こうした事情から、配当還元方式が使われる場面は一部のケースに限られているのです。
過去の株式取引にもとづいて株価を計算する方法です。いくつかの取引事例が過去にあった場合は、最も直近の事例を参照に株価が算出されます。過去の事例を基準に算出するため、計算する側の負担は比較的軽いといえます。
ただし参照する取引事例そのものが不適切であった場合は、健全な結果が算出できません。M&Aを実施する相手にも納得してもらえないでしょう。過去の取引事例を参照する際は、その取引が合理的かつ適切な方法で取引が進んだことを十分に検証する必要があります。
M&Aを実行することによって、買い手・売り手両社の株価は変動します。一般的に売り手の株価は上昇しやすく、買い手の株価は株主によって左右されるケースが多いのが特徴です。買い手・売り手にとってM&Aを行うことで株価も上昇するのが理想的ですが、そもそもM&Aは両社にとってメリットが一致しなければ合意に至るのは難しく、成功のカギをにぎるのは、相手企業の選定にかかっているといっても過言ではありません。買い手も売り手も相手企業の中身をしっかりとみて、M&Aに臨むことが何よりも重要です。
レコフはM&Aをはじめ事業継承サポート、業界再編などを専門とする企業です。
日本のM&A草創期である1987年の創業以来、
国内外における大小さまざまな規模の、
数多くのM&A、事業継承サポートを実行してきました。
日本の上場企業は3,500余社を数えますが、創業以来その9割を超える企業と接触。
未上場企業を加えると、これまでに関わってきた企業は20,000社を超えます。
こうした実績と企業とのネットワークが新たなM&Aのマッチングにも活かされます。
36年以上の実績を持つレコフがM&A成功に導く最適な1社をご提案します。
監修者プロフィール
株式会社レコフ リサーチ部 部長
澤田 英之(さわだ ひでゆき)
金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。
M&Aのことなら、
お気軽にご相談ください。
お電話で
お問い合わせ
営業時間 / 平日9:00〜18:00