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業界別M&A
寿司屋や日本料理店業界では、近年M&A(企業の合併や買収)が活発に行われています。事業拡大や新たな顧客層の獲得を目的としたM&Aは、成長戦略の一環として有効です。しかし、M&Aはスムーズに進行させるための計画や知識が欠かせません。
当記事では、寿司屋・日本料理店業界における代表的なM&Aの手法や実施事例、全体の流れを分かりやすく解説します。今後M&Aを検討している方にとって、具体的なプロセスやポイントを押さえる参考になるでしょう。
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事業承継・譲渡売却は
寿司屋・日本料理店業界とは、日本の伝統的な食文化を提供する分野です。業界内には、回転寿司チェーンや高級寿司店、家庭的な和食店などがあり、それぞれが多岐にわたるメニューを展開しています。
大手チェーン店は「安く・早く」を求める消費者ニーズに応える一方、小規模店舗では質の高い料理や新鮮な食材を提供することに重点を置くのが一般的です。たとえば、回転寿司では自動化技術を駆使し、シャリを握るロボットやタッチパネル注文を採用することで効率化を図っています。
一方、グルメ志向の寿司店や小規模の日本料理店では、職人による手作業での調理が評価され、顧客の嗜好に応じたメニューを提供している店舗が少なくありません。季節や地域に応じたメニュー展開も特徴の1つであり、日本食文化を多様に体験できる業界です。
健康志向が高まっている近年は日本食の人気が世界的に上昇していることもあり、大手企業はもちろん中小企業によるM&Aの動きも活発化しています。

2023年のデータによれば、寿司屋・日本料理店業界の中でも、寿司店の市場規模推計は約1.5兆円に達しました。寿司屋・日本料理店業界は、日本の伝統的な食文化を反映していることもあり、近年の健康志向の高まりとともに需要が増加しています。しかし、業界の成長にはいくつかの課題が存在しているのも事実です。
まず、近年の市場動向として、新型コロナウイルス感染症の影響が挙げられます。コロナ禍では外食産業全体が大打撃を受けましたが、寿司業界も例外ではありません。緊急事態宣言や営業時間の制限、観光客の減少により特に大きなダメージを受けたのが高級寿司店です。
回転寿司チェーンやテイクアウトの需要は比較的強かったものの、他業種からの宅配サービスの競争が激化したことで苦戦を強いられました。2019年に15,466億円あった市場規模は2021年には約21%減少し、12,179億円まで縮小しました。
しかし、営業制限が緩和されアフターコロナの時代に入った2022年以降、市場は徐々に回復しています。2022年の市場規模は12,955億円、2023年には14,974億円まで回復しました。ただし、回復速度はほかの外食産業に比べて緩やかであり、依然として多くの課題が残されています。
寿司業界にとって、今後の大きな課題はデジタル化と人手不足の解消です。大手回転寿司チェーンでは、シャリを握るロボットやタッチパネルの導入など、デジタル技術を積極的に採用しました。これにより、オペレーションの効率化が進み、人的コストや食材の無駄を大きく減らせています。
一方で、中小規模の寿司店や高級寿司店では、デジタル化の初期コストが大きな負担となり、導入が進みづらい状況です。この点において、資金力の差が業界の二極化を加速させていると言えます。
さらに、寿司職人の高齢化に加え、修行や下積みを嫌う若者の増加による後継者不足も深刻な課題です。特に熟練の技術が必要な小規模な寿司店では、後継者不在により廃業を余儀なくされる店舗も増えており、事業継承問題の解決も急務です。
(出典:公益財団法人 食の安全・安心財団「統計資料」/
http://www.anan-zaidan.or.jp/data/index.html)

寿司屋・日本料理店業界では、事業拡大やあらゆる経営課題の解決を目的としたM&Aの実施が増加しています。この業界では、多様化する顧客ニーズに対応するため、競合との差別化を図る独自の戦略を練らなければなりません。
増えているのが、テイクアウトやデリバリーの需要増加に対応するため、他社の買収を通じて迅速に新市場に参入し、競争力を高めるケースです。また、技術導入やブランドの強化を図るための同業者とのM&Aも活発化しています。
M&Aの動向として、特に大手企業による事業拡大目的のM&Aが顕著です。例えば、回転寿司大手スシローは、テイクアウト事業を強化するために京樽を買収し、さらに海外展開を加速させるために元気寿司との経営統合を行いました。このように、資金力や技術力を活用して市場シェアを拡大する動きが目立っている状況です。
一方で、中小規模の寿司屋や日本料理店同士のM&Aも増加しています。特に後継者問題や経営基盤の弱い企業が、M&Aを通じて事業承継や経営改善を図るケースが少なくありません。
飲食業界への新規参入を希望する異業種企業が、寿司店を買収して市場に参入するのも一般的になりつつあります。以上のように、業界全体で新たなビジネスチャンスを生む手段として注目されているのが、M&Aです。

寿司屋・日本料理店業界において、M&Aは事業を存続させながら経営者が抱える多くの課題を解決する手段として注目されています。特に、後継者問題や経営改善への悩み、個人負担の軽減を考えている経営者にとって、M&Aは非常に有効な手段です。
以下では、M&Aによる譲渡(売り手)側の代表的なメリットを3つ解説します。
M&Aを通じて事業を譲渡すれば、経営者は売却益を得られます。特に、経営が厳しい状況で廃業を選ぶ場合と比較すると、M&Aによる売却は企業価値を生かして資金を得る有効な手段です。この資金は、経営者個人の新たな投資やリタイア後の生活資金として活用できるだけでなく、次のビジネス展開や新しい事業を始めるための原資にもなります。
また、売却を通じて得られた資金を、個人の負債返済や資産運用に振り向けることも可能です。廃業の場合は撤退コストがかかりますが、M&Aによってこれらのコストを抑えられる点も大きなメリットと言えるでしょう。
M&Aは、単に経営者が利益を得るだけでなく、従業員の雇用を守る手段としても有効です。寿司屋や日本料理店には長年の経験や技術をもつ従業員が多く、その人材は企業にとって重要な資産です。M&Aを通じて新たな経営者に事業を引き継げば、リストラのリスクを低減できます。
さらに、買収先の企業が持つ経営資源やネットワークを活用することで、従業員が新たなキャリアパスやスキルアップの機会を得られるケースも少なくありません。従業員にとっても前向きな環境変化が期待できる点が、M&Aの魅力です。
中小企業の経営者にとって、個人保証や担保は大きな負担です。特に、寿司屋や日本料理店のように初期投資が多く必要な業界では、個人の財産を担保に事業を行っているケースが少なくありません。M&Aを通じた事業の譲渡により、経営者はこれらの個人保証や担保から解放される可能性があります。
個人保証から解放されれば、経営者の財務リスクが軽減でき、将来の経済的な責任の回避が可能です。経営者が精神的な負担からも解放され、新たな事業への挑戦や引退後の生活に集中できる環境を整えられる点も、メリットとして挙げられるでしょう。

寿司屋や日本料理店業界でM&Aを実施する場合、譲受側(買い手)にとっても多くのメリットがあります。新規出店に比べてリスクを低減し、経営を迅速に開始できる点や、既存の顧客基盤やノウハウを活用できる点が代表的です。
以下では、買い手側のメリットを2つ解説します。
相手企業が保有する経営資源をそのまま引き継げる点が、M&Aの大きなメリットです。経営資源には店舗や設備に加え、既存の従業員やブランド、レシピなどの無形資産も含まれます。これらを活用すれば、ゼロから店舗を開業するよりも大幅にコストを削減でき、スムーズな営業開始が可能です。
また、熟練した職人や従業員の引き継ぎにより、新たにスタッフを採用・教育する時間やコストを節約できます。特に技術の高さが求められる寿司や日本料理の店舗運営においては、経験豊富な料理人の有無が成否を分ける要因の1つです。既存の顧客やリピーターも維持しやすく、売り上げの安定が期待されます。
M&Aによって、譲受側が相手企業のブランド力やネットワークを活用し、新たな市場や顧客層を迅速に開拓できるのもメリットの1つです。既存の顧客基盤を引き継げば、新規出店に比べて宣伝コストや時間を抑えつつ、即座に売り上げを確保できます。
また、異業態の企業が寿司店を買収した場合、既存の店舗ネットワークを活用し、新しい販路を開拓することも可能です。M&Aのもたらすシナジー効果により、事業の拡大や成長が期待されます。

寿司屋・日本料理店業界では、様々なM&Aスキームが用いられています。いずれのスキームにも、それぞれメリットとデメリットがあるため、目的や状況に応じて最適な手法を選ぶことが重要です。
ここからは、よく使われる代表的なM&Aスキーム3つの概要・メリット・デメリットを解説します。
株式譲渡は、売り手企業の株式を現金で買い取り、経営権を取得するスキームです。売り手企業の権利や義務をそのまま引き継ぐ形となり、スムーズに経営が移行できるのが特徴です。主に、中小企業のM&Aで広く採用されています。
【株式譲渡のメリット】
【株式譲渡のデメリット】
事業譲渡は、売り手企業の事業の一部または全部を現金で買収するスキームです。株式譲渡とは異なり、買収したい事業や資産を個別に選んで引き継げます。特定の事業のみを取得したい場合に有効です。
【事業譲渡のメリット】
【事業譲渡のデメリット】
資本提携は、双方の企業が経営権を持たない範囲で資本を出資し合い、協力関係を築くスキームです。M&Aの中でも「広義のM&A」に分類され、株式の持ち合いや第三者割当増資、合弁会社の設立を通じて協力関係を築きます。
【資本提携のメリット】
【資本提携のデメリット】

寿司屋や日本料理店の業界において、M&Aは企業成長や事業の再編における重要な手法です。M&Aを成功させるには、成功事例・失敗事例の双方を参考にするのも有効です。
次に、業界内でも注目される3つのM&A案件の譲渡・譲受の企業情報や、M&Aの背景、スキームを解説します。
東京一番フーズは2020年6月、株式会社豊田から寿司店舗チェーン「寿し常」など首都圏26店舗の寿司店事業を譲り受けました。
| 譲渡(売り手)側 | 株式会社豊田 |
|---|---|
| 譲受(買い手)側 | 株式会社東京一番フーズ |
| M&Aの目的 |
|
| M&Aのスキーム | 事業譲渡 |
東京一番フーズは、養殖から販売までを手掛ける6次産業化を推進する企業です。今回のM&Aは、ポストコロナを見据えた事業拡大と、養殖場の魚の販売ルートを強化するためのものでした。
この事業譲渡により、東京一番フーズは水産物の調達力を高め、ほかの飲食業者やオンライン市場への販売チャネルの拡大を進めています。
ゼンショーホールディングスは、2018年10月に米国のテイクアウト寿司チェーンAdvanced Fresh Concepts Corp(AFC)の全株式を取得し、子会社化しました。
| 譲渡(売り手)側 | Advanced Fresh Concepts Corp |
|---|---|
| 譲受(買い手)側 | 株式会社ゼンショーホールディングス |
| M&Aの目的 |
|
| M&Aのスキーム | 株式譲渡 |
ゼンショーホールディングスは、すき家やCOCO'Sなどの外食チェーン展開で知られています。AFCは米国、カナダ、オーストラリアで約4,000店舗を展開する大手企業です。
この買収により、ゼンショーはAFCの店舗ネットワークを活用し、食材の調達や物流、店舗運営でのシナジーを期待し、業務の拡大と海外事業の成長を図っています。
株式会社あさくまは2020年2月、日本料理店「竹若」を運営する株式会社竹若を子会社化しました。
| 譲渡(売り手)側 | 株式会社竹若 |
|---|---|
| 譲受(買い手)側 | 株式会社あさくま |
| M&Aの目的 |
|
| M&Aのスキーム | 株式譲渡 |
あさくまはステーキ事業で全国に87店舗を展開しており、和食と寿司に強みを持つ竹若とのM&Aを通じて、新たなメニュー開発と顧客層の拡大を狙っていました。しかし、M&A直後のコロナ禍によって竹若の収益は急減、2021年3月に竹若は全店休業し、その後破産申請が行われました。
ただ、債権者の合意を得られない状態が続いた上、収前からの不正な多重リース取引が発覚したこともあり、2024年5月31日付で破産手続きは廃止されました。最終的に竹若の再建は難しいと判断され、清算型の倒産に至っています。

寿司屋や日本料理店のM&Aを成功させるには、あらかじめ全体の流れを把握しておくことが重要です。以下では、業界における典型的なM&Aのステップをご紹介します。
【STEP1:M&Aの目的を明確にする】
まず、M&Aを通じて達成したい目標を具体化します。店舗拡大・新しい顧客層の開拓・財務強化など、目的をどこまで明確にしておけるか否かがM&Aの成功を左右します。
【STEP2:専門家への相談】
M&Aの実施には、飲食業界に精通したM&Aの専門家のサポートが不可欠です。特に寿司屋や日本料理店のような小規模な業界では、優れたM&Aアドバイザーを活用すると取引がスムーズに進みます。
【STEP3:買い手・売り手の選定・交渉】
M&Aアドバイザーを通じて、売り手や買い手候補をリストアップします。条件に合う企業の選定には、20~30社の候補から8社程度に絞り込む形が定石です。本格的な交渉に入る前の段階で、秘密保持契約の締結が行われます。
【STEP4:デューデリジェンス(精査)】
選定された企業に対して、財務状況や法務リスクなどを徹底的に調査します。このプロセスを通じて、M&A後に発生し得るリスクを評価し、取引条件を見直すことが重要です。
【STEP5:最終交渉と契約】
デューデリジェンスの結果を踏まえて、買収価格や条件を確定し、最終契約を締結します。契約内容には、譲渡のスキームや企業の統合計画が含まれます。
M&Aの成功には、各ステップでの綿密な準備と交渉が欠かせません。専門家のアドバイスを活用し、確実な進行を図ることが重要です。
寿司屋・日本料理店業界におけるM&Aは、事業拡大や新たな市場の開拓に有効な手段です。株式譲渡や事業譲渡、資本提携といったスキームがよく用いられますが、それぞれメリットとデメリットがあることも知っておきましょう。
成功事例では、M&Aを通じた業務拡大やシナジー効果が得られていますが、失敗例も少なくありません。M&Aに当たっては相手企業の選定が重要になる上、各種手続きは煩雑なため、信頼できるM&Aアドバイザーに相談するのがおすすめです。
監修者プロフィール

株式会社レコフ リサーチ部 部長
澤田 英之(さわだ ひでゆき)
金融機関系研究所等で調査業務に従事後、政府系金融機関の融資担当を経て2005年レコフ入社。各業界におけるM&A動向の調査やこれに基づくレポート執筆などを担当。平成19年度農林水産省補助事業、食品企業財務動向調査委員、平成19年度内閣府経済社会総合研究所M&A究会 小研究会委員。著書・論文は「食品企業 飛躍の鍵 -グローバル化への挑戦-」(共著、株式会社ぎょうせい、2012年)、「データから見るIN-OUTの動向 -M&Aを通じた企業のグローバル化対応-」(証券アナリストジャーナル 2013年4月号、公益社団法人 日本証券アナリスト協会)など。
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